村岡栄一著マンガ『去年の雪』をおすすめしたい
村岡栄一が描いた『去年の雪』というマンガをおすすめしたい。
これは、マンガ家・村岡栄一の自伝である。
村岡栄一は永島慎二の弟子で、長く麻雀マンガやパチンコマンガなどを描いてきた。団塊の世代の最後の方で、1949年の生まれである。今年75歳になるが、2021年に脳出血で倒れ、半身不随になってしまった。おかげでマンガが描けなくなり、これが最後の作品となる。
あえていわせてもらうなら、村岡栄一はマンガ界の下の方にいる存在だ。下の方にいながら、そこにしぶとく居場所を見つけ、50年以上も生きながらえてきた。そういう、非常にタフな作家でもある。
その意味で、実に生き字引的な存在でもある。マンガ界を俯瞰するのではなく、現場という海底からずっと見上げてきた——そんな存在だ。
そういう存在は、かなり貴重である。しかも彼自身、戦後日本の過酷な環境を生き抜いた人物なので、そこからの視点も相まって、かなり秀逸なドキュメンタリーとなっている。
この作品は、本当は8話で構成されるはずだったが、途中で脳出血を患ったため、6話で終わりとなっている。そこが少し惜しいが、それでも、6話の内容はどれも切れば血が滴りそうな生々しさがあり、食い入るように読んだ。また読めば、さらに新たな発見がありそうだ。みなもと太郎先生なら、きっと激賞しただろう。
このマンガの中に、ほんの少し村岡栄一の文章が差し挟まっているのだが、そこに印象的な一文があった。
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417字
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