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『スパイダーマン:スパイダーバース』の文脈ついて

コンテンツ産業が本格的に始まったのは戦後、ベビーブームが起こってからだ。そこで子供向けの市場が形成され、コンテンツ産業は一気に伸びた。それまで、大人はほとんどコンテンツにお金を支払っていなかったから、コンテンツ産業もあるにはあったが、それほど大きなものではなかった。

だから、「子供の頃からコンテンツにどっぷりと浸かった最初の世代」は団塊の世代だ。しかし、当時はまだ市場もできたてだったので、コンテンツ漬けになる子供の数自体は少なかった。おかげで、彼らの中から「オタク」というムーブメントは生まれなかった。

オタクというムーブメントが生まれたのは、だいたいそれより10年あとの世代、1955年前後に生まれた人たちの中からだった。彼らは「オタク第一世代」と呼ばれた。『ウルトラマン』に産湯を浸かり、『宇宙戦艦ヤマト』の洗礼を受け、『ガンダム』に青春を燃やした。やがてそのオタク第一世代が大人になった頃合いから、彼ら「コンテンツネイティブ」によるコンテンツ制作が始まった。

以前、宮崎駿監督がテレビのドキュメンタリーで興味深いことを言っていた。

宮崎監督ら戦前生まれのアニメーターは、「雲を描け」といわれたらスケッチブックを持って外へ赴き、自然の雲を模写した。しかし今の若い人は、倉庫を漁って過去の作品を見つけ出し、そこに描かれている雲を模写しているというのだ。宮崎監督は「本物を見なければ新しいもの生まれない」と、彼らの行為に苦言を呈していた。

そかしその後、宮崎監督の予想を覆すような奇妙な現象が起こる。それは、コンテンツネイティブの人たちにとっての原風景ともいえる「コンテンツ」を、彼らが作り出すコンテンツ内で開き直って使うこと——つまり先人の描いた雲を模写するようなコンテンツが、大きなヒットを記録するようになるのだ。

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