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自由を奪われたコロナ禍以降の香港・マカオを訪問して ―香港・マカオ視察報告(「日本の息吹」令和5年10月号より)

日本会議地方議員連盟
香港・マカオ視察団

 1997年にイギリス領香港が中国へ返還された際、中国は香港の高度な自治を約束し「一国二制度」として50年変えないと全世界に喧伝した。ところが中国支配に都合のよい政治制度への不満から2014年9月、香港の民主化運動が大規模デモとして起こり、中国の意を受けた香港政府当局は、それを弾圧し続けた。全世界で新型コロナ禍が発生した2020年、治安維持法である「香港国家安全維持法」(国安法)が制定され、民主化運動は鎮圧された。
 国際金融都市である香港の明暗は我が国の友邦である台湾の将来に結び付いている。日本会議地方議員連盟では、平成26(2014)年10月に視察先遣隊を、27(2015)年6月に香港・マカオ視察団を派遣。更に令和元(2019)年10 月にも有志が訪問し、状況掌握に努めてきた。その後、令和2(2020)年以来のコロナ禍により長らく香港・マカオ訪問が途絶えていたが、去る7月に有志が4年ぶりに訪問した。

コロナ後の香港は

 7月現在まだコロナ禍から回復直後のためか、入境エリアは観光客が少なく、入境審査は非常に早かった。エリア内にいた到着客の内、日本人観光客は明らかにコロナ前より少ない。来訪外国人は従来通りの有人審査、香港市民および香港永久居民資格者は無人ゲート審査で、審査内容もコロナ禍以前通りであった。

 6月に、民主派活動を応援してきた日本人音楽家が香港入境を拒否され強制送還された事件があったが、今のところ一般の日本人観光客やビジネスマンが突然拘束され強制送還という事態は考え難い。

沈黙する香港、その街の空気

 コロナ禍による各種の生活制限が撤廃されたこともあり、市内中心部の繁華街(九龍半島の尖沙咀せんさしょ、香港島の銅鑼湾どらわんなど)は2019年以前の賑わいを取り戻している。ビジネス街の香港島中環(セントラル)も同様で、数多くの外国人在勤者も通常通りの勤務と生活を続けている。

 ただし以前のような民主派の政治活動および一般市民の政府への不満・要求を顕示する「表現の自由」は厳しく取り締まられている。「香港国安法」の制定により主だった民主派の政治家や活動家が逮捕拘禁され、或る者は海外逃亡し、残った者も有形無形の監視下に置かれているため沈黙を余儀なくされている事が、一般市民への強い圧力となっているようである。

 しかし街の雰囲気が暗いかというと、決してそんなことは無いように見受けられた。数名の香港人と意見交換したが、一般市民の空気は「取り敢えず黙っていれば平気」といったところである。香港政府=中国の手口が分かったという事も大きいようである。印象としては返還前の90年代初頭の頃の方が漠然とした不安感は強かったように思える。実はその時も市民の政治的自由は制限されていた。

 日本人の立場から見ると、返還前の昔と比べて良くなった点もある。当時は反共かつ反日という人が多く、民主派政治家や活動家の殆ども「反中国」だが沖縄県尖閣諸島については中国支持という立場だった。現地メディアも同様で露骨な反日論調が圧倒的だった。しかし今はそんな人は少なくなっている。訪日観光客が当時よりも飛躍的に増え、また日本カルチャーの氾濫の中で育った世代(10代〜50代)は日本に対する偏見が少ないことが対日観の改善につながっているからである。

中共=香港政府のプロパガンダ

 コロナ禍以前と比べて明らかに変わったのは、街中の至るところに「一国二制度」を堅持すれば明るい未来が開ける云々のプロパガンダ幕や看板が設置されている事である。コロナ禍期間中、一連の民主派弾圧を目の当たりにしているので、それを真に受ける香港人は親中派くらいだろうが、そんな空虚なスローガンを臆面も無く主張し続ける熱意には逆に感心する。

街中に掲げられた「一国二制度」プロパガンダ幕(「一国二制度」で明るい未来が開ける…)

 同様に市内の書店でも中共のプロパガンダ本やかつての「毛沢東語録」ばりの習近平語録本が並んでいる。中でも習近平氏による「人権の尊重と保障」に関する論述集には失笑を禁じ得なかった。地場大手書店と台湾資本の書店を見て回ったがこれらを手にとっている人は見かけなかった。そしてコロナ禍以前には沢山あった香港民主派人士の書籍だけでなく学者や政治関係者の香港民主運動関係の書籍も全く消えてしまっていた。これは形を変えた焚書とも言うべき状況である。

2019年以前、書店には普通に民主派の書籍が置かれていた
2023年、書店政治コーナー には習近平関連書物が山積みに

 また繁華街と行政機関、公共施設での巡回する警官数が2019年以前と比べ格段に増えている。特に民主派の攻撃目標にもなった香港島金鐘(アドミラルティ)の政府施設、立法会議会ビルとその周辺は概ね10〜20m間隔で警官が配置され警戒に当たっている。また街中の監視カメラの数もコロナ禍以前と比べて明らかに増えていた。インターネット・SNSの監視や特定キーワードの閲覧不可など、中国本土と同様の監視社会が香港でも形成されつつある。

マカオの現状

 2015年6月に私たち地方議連の視察団は現地にて、昭和20年に暗殺された駐澳門(マカオ)領事代理・福井保光氏の慰霊式、並びに昭和22年に戦犯として処刑された日本陸軍・澳門特務機関長の澤栄作大佐と部下の山口久美少尉の慰霊式を執り行った。その頃は日本からの訪マカオ観光客が多数見受けられたが、7月に訪問した際は日本人の姿はほとんど見かけなかった。香港と同様にマカオ政府当局が入境要件を撤廃したのが5月であるため、現在は回復基調にあるとはいえコロナ禍以前の来訪観光客数確保と収益の回復は時間がかかる見通しだ。

 マカオは香港と比べて人口が60万人台と圧倒的に少ないこともあり民主派の活動は当初から低調であったが、それでもコロナ禍以前は毎年6月4日の天安門事件記念日に大規模集会が開催されていた。しかしゼロコロナ政策による出入境制限と感染防止という建前による集会禁止措置によって民主運動は消滅してしまったかのように見える。

香港は自由を求めて再起するか

 中国が香港・マカオに対して「一国二制度」を提唱した真の目的は、建国以来の目標である台湾併合であり、台湾人および全世界への詐術である。ところが「香港国家安全維持法」制定と民主派への露骨な弾圧が全世界に知られてしまい、もはや「一国二制度」は形骸化している。

 このような状況下で沈黙を余儀なくされている香港市民が自由と民主を求めて再起するかどうか。私たちは現地状況を注意深く見守ってゆきたい。  


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