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日本を守る「情報戦」 —処理水の海洋放出を巡り中国と風評被害の攻防のなかで(「日本の息吹」令和5年11月号より)

日本会議地方議員連盟 副幹事長 
渡辺康平 福島県議会議員
日本会議地方議員連盟 副会長 
早坂義弘 東京都議会議員

8月24日、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出が始まった。この日、中国政府は、日本の水産物輸入を全面的に停止。今もその姿勢は変わっていない

処理水放出と地元の思い

— 初めに、処理水放出の意味と地元の反応をお聞かせ下さい

渡辺
 東京電力福島第1原発の事故以降、いわゆる「ALPS処理水」が貯まり続け、敷地内には処理水を貯蔵した巨大なタンクの数が千を超え、質量は東京ドーム1杯分を超えています。処理水放出の理由は、廃炉作業が本格化すれば原子炉内の溶け落ちた燃料デブリを取り出さなければなりません。それは放射線量が高いので、ロボットなどで回収しなくてはなりません。移動も難しいので処理水が溜まっているタンクを敷地から撤去し、新施設を建設してデブリを収納しなければならない。だから処理水を処分し、タンクを減らす必要があるのです。またタンク自体は耐震性がありません。放出には様々反応がありますが、地元大熊町、双葉町の自治体は、大量のタンクの存在そのものが風評被害に繋がるので早く処分して欲しいという考えです。

— 処理水放出について中国から「嫌がらせ電話」が入っています

渡辺
 海洋放出前、自民党福島県連青年局で第1原発を視察しました。発電所構内では、ALPS処理水を使って魚貝類や海藻類(ヒラメ、アワビ、アオサなど)を飼育しています。東京電力のYouTube、ホームページで確認できますが、結果として、放射性物質は生体濃縮されていません。
 海洋放出後、中国から約2千件の嫌がらせ電話が、県庁はじめ福島市役所、公共施設、警察署、病院だけではなく、旅館や民間の飲食店等にもかかっています。中国語で一方的にまくし立てる、あるいは罵詈雑言や脅迫電話が毎日のようにかかってきました。商売上、国際通話を拒否できないところは、非常につらい思いをしています。

国内に広がる支援の輪

早坂
 東京都にも、8月24日から9月20日までに3万8千件を超える中国語の「嫌がらせ」「抗議」電話が入っています。都庁では、9月1日から中国語の嫌がらせ電話がかかってきたら、自動音声に切り替える対応を取っています。オペレーターの方が、都が用意した中国語の応答メッセージに切り替えるわけです。内容は「あなたはご存知ですか。福島第1原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放水は国際基準および国際慣行に則り、トリチウム年間処理量を近隣諸国とも比べて低い水準にした上で、安全性に万全を期した上で実施されています。中国の原子力発電所の中にはトリチウムの年間処分量が福島原子力発電所の約10倍になっているものもあります。日本政府は海洋放出開始後も、各種モニタリングデータを迅速かつ透明性高く公表しており、それら科学的根拠に基づくデータから何ら問題が生じていないことを明らにしています。詳細については日本政府の公式サイトをご覧ください」と中国語のメッセージを3回流し、それでも相手が電話を切らない場合こちらが電話を切るという対応をしています。
 都庁以外の様々な公的機関にもたくさん電話がかかってきています。国際原子力機関IAEAが国際的な安全基準に合致すると認めている中で、処理水放出をしたわけです。それに関して科学的根拠もなく、あれこれ言うのは全く困ったことで、科学的リテラシーを欠いたその態度に強く抗議をするものであります。一方で、アメリカやオーストラリア、フィリピン、台湾など多くの国々が安全だと理解を示し声明を出されていることは本当にありがたいと思います。
 国内では、いわき市へのふるさと納税の件数・金額が急増していると聞きます。私の友人も、福島の魚を求めて魚屋さんに行くと、もう売り切れていたと言っていました。応援の気持ちが日本国中に広がっています。そうした気持ちを大事にしていきたいと思います。
 小池知事も記者会見で、日本の水産業を応援しようと、都内のお寿司屋さんや鮮魚店で食べたり購入したら、最大千円還元すると述べ、役所も準備しているところです。

日本の情報戦

渡辺
 全国から応援頂き本当にありがとうございます。こうした応援があるからこそ、漁獲高も高値で維持できています。応援が長く続けば、中国の水産物全禁輸に対抗していけることがはっきりとわかりました。
 私は、石原慎太郎元都知事がおっしゃっていた「科学が風評に負けてはいけない」という言葉をずっと使っていました。震災の時、東京都がいち早く知事の判断で、がれきの受け入れを表明されました。石原元知事は、「科学が風評に負けるのは国恥である」とも述べられましたが、処理水の問題だけではなく、情報に関する問題は、首相そして我々議員など立場ある者がはっきりとものを言わなければいけない。SNSでもYouTubeでもいい、自分の言葉で戦う姿勢を前に出さなければいけない。
 もし台湾有事や尖閣有事が発生した場合、日本全国に、これ以上の嫌がらせ電話が起きてくるだろうと思います。その時に日本の政府、政治家がしっかりと自分の言葉で反論する。世界中に多言語で先手を打って主張していく。情報戦だとしっかり認識して、今後も対応していかなくてはと思います。

早坂
 昨年の水産物の輸出実績を見ると中国が圧倒的に多い。経済的な安全保障の視点からも、一国に頼り切ることは考え直さなければいけないと思います。
 そしてなにより、今、すべきことはWTOに提訴して、国際的な判断を仰ぐことだろうと思います。

渡辺
 偽情報としっかり戦うことと、WTOに訴えることを、自民党として福島県議会に提出し、県議会の意見書として採決されました。
 函館市では、共産党主導で処理水の海洋放出への反対の意見書が可決されてしまいました。今後、同様の意見書が全国で出されると思います。対応が必要です。

早坂
 私は、中国と親しい「親中派」の方々にこそ、今こそ頑張って、この不幸な日中関係が少しでも収まるように努力して欲しいと強く思いますが、残念ながらそういう話は聞こえてきません。

渡辺
 原発の廃炉作業はこれから40年以上続きます。我々は廃炉完了まで、動向を注視していかなくてはなりませんし、そこには偽情報や科学的と到底言えない情報を流す人たちがいます。そのようなものとしっかりと戦っていく必要があります。今回は長い戦いの一つだと思っています。


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