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「マイナ保険証の強引な導入で、現在の『国民皆保険制度』が根本的に狂うことになる」(上)
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*****令和6年10月30日(水)第178号*****
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「マイナ保険証の強引な導入で、現在の『国民皆保険制度』が根本的に狂うことになる」(上)
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◇─[はじめに]───────────
私事で恐縮ですが、弊紙発行人は「マイナ保険証」を利用していますが、高齢になる母親は「持っていない」どころか、そもそも「マイナカードなんて持ちたくない」と以前から主張しています。
それは「もし、それを落としてしまって他人に悪用されたら怖い。だったら、最初からそんなものは持たなければ良い」という理屈です。母親の事例に限らず、そもそも最初から嫌悪感を示している人に、物事を「強制する」のは間違っていると思います。
これを根拠として、弊紙発行人は「デジタル化に拒否感がある高齢者等への、マイナ保険証の『強引な利用促進』には反対」の立場を取ってきました。その一方で、医療現場からも様々な「反対」の声が挙がっています。
弊紙でも、どこかで「医療現場の反対の声」を取り上げたいと思っていたところ、保険診療を行う医師等で構成された任意団体・全国保険医団体連合会(以下「保団連」)が、10月17日に開いた記者会見の動画を見つけました。
会見では、保団連が会員へアンケート調査した「マイナ保険証トラブル調査」の最終集計が公表され、結論として「12月から『原則マイナ保険証』になると、トラブル増で医療現場の混乱は必至」と指摘しました。
本紙では、この調査結果の「要旨」のみを弊紙ビジネス版10月24日号で記事として取り上げましたが、読者の皆さんからは「予想外」の多くの反応をいただきました。そこで、あらためて約1時間に及んだ会見の動画を詳細に見てみると──
単に「マイナ保険証により、医療現場では混乱が起きている」だけではなく、会見では「現在の『国民皆保険制度』が根本的に『狂う』ことになる」と、強く主張していることがわかりました。
あと約1ヶ月で、現在の健康保険証の新規発行が停止され「原則マイナ保険証」の時代が幕を開けます。その前にぜひ、本紙の読者の皆さんにも、医療関係者の「叫び」に耳を傾けていただきたいと考え、この記者会見の内容を今回、お伝えしようと思いました。
先の総選挙で政府・与党は「敗北」し、今後は政局が流動化しそうです。もしかしたら、この「マイナ保険証」問題も含め、政府の施策が従来の方針から「転換」する可能性もありそうです。
その際に今回の本紙の記事が、読者の皆さんにとって「マイナ保険証」問題を考える上でのご参考になれば幸いです。どうか最後まで、ご一読いただければ幸いです。
日本介護新聞発行人
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今回の記事は「はじめに」で記したように、保団連が10月17日に開催した記者会見の内容を元に作成いたしました。記事中の表現等は読みやすいように、実際の会見での発言を弊紙で一部改変いたしました。ご了承の上お読みいただければと思います。
なお、今回は「上」「下」の2回連載といたします。「上」は、保団連の会見の冒頭で、司会役の杉山正隆理事の発言と、アンケートの調査結果を踏まえた上での山崎利彦理事の「解説」=写真・保団連HPより=を掲載し、「下」ではその後の記者との質疑応答の要旨を取り上げました。
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「マイナ保険証は、何の『便利』もない『不便』な困った制度だ」
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▽司会・杉山正隆理事=私も含めて、本日この会見に臨んだ(保団連の医師の)先生方は皆、様々なトラブルを経験していて「事務作業」に加えて「経費」もかかっている。つまりマイナ保険証は、何の「便利」もない「不便」な困った制度だ。
▽もちろん、患者さんの中には「便利で良いから使う」という方もいらっしゃる。ただし、現行の制度ではその「利点」を活かしきれていないし、そもそも「マイナ保険証を取得できない」患者さんもたくさんいらっしゃる。そういった様々な問題がある。
▼山崎利彦理事=私はふだん、埼玉県の(保団連の)協会の理事長を務めている。実際に、私が運営する医療機関で起きたトラブルについて、ご説明したい。(前任の)河野太郎デジタル大臣は、私ども(保団連)の指摘に対して「百害あって一利なし」(※)と評した。
※弊紙注釈=「百害あって一利なし」=河野太郎氏が、当時のデジタル大臣の在任中の会見で、記者から今回の記事で紹介した内容に関する「保団連の指摘」についての感想を求められた際に「(そのような指摘は)「百害あって一利なし」等と一蹴した。
▼しかし、われわれはこの「トラブル」問題を1年以上前から指摘してきた。これが、実際の医療現場ではいかに「困っているか」について、ご説明したい。「黒丸問題」(※)は最もわかりやすいが、その他にも例えば住所の「スペース問題」がある。
※弊紙注釈=「黒丸問題」=パソコン上での文字の識別の関係で人名などで、変換できない文字が「●」=黒丸で表記されてしまうこと。
▼「全角」にするか「半角」にするか、また「マンション名」が入っているか否か、実は「マイナ保険証」では患者さんの資格確認で「完全一致」を求めるので、これが異なると患者さんご本人とは「別人」という扱いになる。
▼例えば、住所が「何丁目何番地何号」と書かれているのに対し、例えばこれが「全角」なのか「半角」で書かれているのか、これが一致しないと電子カルテが「これは、今いる患者さん本人ではない」と「警告」を出して来る。
▼この点を(前任の)河野太郎デジタル大臣は「そんな些細なことは無視すれば良い」と考えていたのだろうが、ところが現場では、受付の職員は画面上の「赤丸(=警告)」を見た時に「何が違うのか?」と悩んでしまう。
▼「そんな曖昧な点は、すぐにわかるだろう」と思うかも知れないが、実際に現場では「そこ」になかなかたどりつけない。その問題が解決するのに、現場で数十人の患者さんで込み合っている時間などでは、特に「真剣」に画面を見ていかないと判断ができない。
▼これは「放っておけば良い」のかもしれないが、これは医師の診断書だけでなく、請求書や領収書、検査データや他の医療機関への紹介状とか、全部「そのままのデータ」で先方に行ってしまうので、そうなると「ここで直しておかねばならない」ことになる。
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「マイナ保険証を『使っている人が増えたから、トラブルも増えた』のではない」
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▼実は、ここで医療機関の現場で「データを直してしまう」と、次にその患者さんが来院された際に「マイナ保険証」と「現場のデータ」が異なり、システム上は「これは違う患者さんのデータだ」と認識されてしまう。
▼これを毎回毎回、医療現場で繰り返していると「マイナ保険証」を利用しているメリットが全くなくなってしまう。これらの「修正」について、当時のデジタル大臣等は「やる」と言ったが、実際に私どもの調査では「全くできていなかった」との結果が出ている。
▼デジタル庁が「十分な対処をした」と宣言した後も、このようなトラブルが続出している。むしろ、われわれの調査では「それ以降も、トラブルの事例は増えている」との結論に至っている。
▼(当時の)河野デジタル大臣は「利用する人が増えれば、トラブル事例が増えるのは当然だ」と言ったが、彼は「算数」の部分で間違っている。具体的には「トラブルの発生率」がそのままであれば「トラブルの人数が増える」のは理解できる。
▼そうではなく「トラブルの発生率」自体が増えているのは、「マイナ保険証を使っている人が増えたから」ではなく「以前より一層、トラブルが起きやすい環境が出来ている」ことを意味する。
▼重要なことは「使っている人が増えたから、トラブルも増えた」のではなく、明らかに「トラブルになる事例が解決されていない」どころか「むしろ、悪化している一方だ」ということが明確になった、と言えると思う。
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「マイナ保険証は、今までの健康保険証よりもさらに『なりすまし』がやりやすい」
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▼そもそも政府は、この「マイナ保険証」の最大のメリットとして「悪意を持った『なりすまし』を防ぐのに効果的だ」と強く主張していた。また最終的な手段として「(政府が指定した)『紙』を使えば現場での『患者の10割負担』はなくなる」と主張していた。
▼これは「マイナ保険証」のデータが現場で読み取れなかった時に、患者さんが「自分は、このような状態にある」と主張するためのものだが、この「紙」では「保険の種別がわからない」という項目がある。
▼さらにその後に「保険証の交付を受けた時期がわからない」「一部負担金の割合がわからない」との項目がある。さらに保険者や、患者さんご本人の名前を「自分で勝手に書くことができる」仕組みになっている。
▼つまり、ある人が「悪意による『なりすまし』をしよう」と思った時に、今までの健康保険証よりも「さらに『なりすまし』がやりやすい」ような制度を、政府は自らつくってしまったことになる。
▼これは、極端な例え方をすれば、昔から「睡眠薬を、ウソの名前でたくさん受け取って『闇で売っている』事例がある」等と言われていたことがあったが、このような「悪意」を持っている人には「こんな便利はシステムはない」ことになる。
▼もし、他人の保険証を「盗んで使った」のであれば、保険者(=市区町村等)がチェックするので、「同じ保険証から、同じ薬が何回も出されていますよ」と指摘できるが、この「紙」に「わからない」と連続して書かれていれば──
▼そのような「ウソ」を「紙」に書かれたら、保険者はそれをチェックすることすらできなくなる。これは、悪意を持ってこの「マイナ保険証」の制度を「悪用」しようとする人からすれば、完全に「やり得」になる。
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「保険診療の支払いに関しても、マイナ保険証の制度には『致命的な欠陥』がある」
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▼しかも厚労省は「この『紙』を使った、悪意のある事例である可能性があっても、本当に保険診療を支払ってくれるのか?」と言えば、全く「約束」をしてくれていない。つまり「保険診療の請求はしてくれてもいいけれど、実際に支払うかはわかりません」になる。
▼これを本当にやられてしまうと、医00療機関は困ってしまうので、本意ではないが患者さんに「(保険診療の本来の負担割合ではなく)10割負担をお願いします」と言わざるを得ない。
▼これは、本当に「医療機関が『いじわる』をしている」のではなく「これ以外に、対応する手段がない」と言わざるを得ないくらい、この「マイナ保険証」の制度には「致命的な欠陥」がある。
▼今の段階では、現行の健康保険証をお持ちの患者さんがたくさんいらっしゃるので、マイナカードが読み取れなかった時に健康保険証を見せて下されば、それを使って資格確認ができる。
▼しかし12月2日以降、新たに健康保険証が発行されなくなり、健康保険証を持っていない方はどうなるか? 実は、保険者(=市区町村等)の中には「マイナ保険証を発行したら、従来の健康保険証は回収する」という保険者がいっぱい出てきている。
▼これにより「今までの健康保険証は持っていない」という方がかなり出てきている。このような方々は、すでに「マイナ保険証」を持っているので、保険者から「資格確認書」は送られて来ない。
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「資格確認書があるから従来の保険証は廃止しても大丈夫だ、との考え方は狂っている」
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▼さらに今後も、12月2日以降に「資格確認書」を出すか否かも、実はその判断をするためのシステムが今はない。これを開発し、各保険者に設置するとなると、膨大な予算と手間がかかる。
▼つまり保険者は、現状では「(マイナ保険証を)持っている人」も含めて「全員」に「資格確認書」を送ることになると思う。もし、この通りになるのであれば「結果的に、全員が『資格確認書』を持つのだから、それで良いではないか」と──
▼自民党だけでなく、野党の議員さんもそう言われる方がいるが、実はこの「資格確認書」は法律の改正により、保険者がそれを発行する「義務」はない。つまり、極端に言えば認知症の方や高齢者の方々の中で──
▼自ら保険者に対して「資格確認書を発行して下さい」と申し出ることができない方々、このような方々に「資格確認書が届かない」という事態が発生している。なので「資格確認書があるから、従来の保険証は廃止しても大丈夫だ」という考え方は──
▼根本的な部分が「狂っている」。これは、現在の「国民皆保険制度」が根本的に「狂う」ことになる。繰り返すが「資格確認書」ではダメだ。法律を元に戻して「従来通り、健康保険証を発行する」必要がある。
▼この「申請しないと送られて来ない」ことは、マスコミの皆さんにとっても「盲点」ではないかと思う。「資格確認書は、当面は送られてくる」。おそらく1年くらいは大丈夫だと思うが「その後」はどうなるか──。
▼自ら「資格確認書を送って欲しい」と申請できないような方々を救済するためにも、今後は注視していく必要があるし、そもそも「従来通りの健康保険証を、今後も発行し続ける必要がある」と、私たちは考えている。
※【以下、11月初旬に配信予定の=「マイナ保険証の強引な導入で、現在の『国民皆保険制度』が根本的に狂うことになる」(下)=へ続く】
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