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「ひとたび甚大な災害が起こると、介護サービス利用者はどんな状況に置かれるのか?」
*最適な介護を、自分で選ぶための情報紙*
┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和6年3月29日(金)第170号*****
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「ひとたび甚大な災害が起こると、介護サービス利用者はどんな状況に置かれるのか?」
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◇─[はじめに]───────────
「能登半島地震」が今年の元旦に起こってから、もうすぐ3ヶ月が経過します。この間、弊紙も可能な限り、本紙とビジネス版で現地の状況をお伝えしようと試みてきましたが、正直なところ「力不足」を感じています。
例えば厚労省は発災直後から、介護施設の「断水」「停電」等の被害状況を連日発表しています。弊紙もここから「被災地では、なかなか断水が解消しない」状況をお伝えしてきましたが、どうも「ピンとこない違和感」がありました。
そんな中、先週月曜(3月18日)の深夜にテレビをつけて、NHKのニュースでも見ようと思ったら「国会中継」を放映していました。その時はちょうど参議院の予算委員会で、山本太郎委員(れいわ新選組代表)が、岸田文雄首相に質問していました。
内容は「奥能登のコミュニティーを維持していくため、まずは『仮設』のデイサービスをつくって頂きたい」との要望でした=写真・参議院インターネット審議中継より。この様子は岸田首相の答弁をもとに、弊紙ビジネス版3月21日号でご紹介しました。
その質問を投げかけた山本委員は、その前日の日曜(3月17日)に奥能登に入り、介護事業者の「生の声」を聞き、当初予定していた「日本の経済問題に関する質疑」を急きょ変更して、奥能登の介護サービス事業者の「現場の悲鳴」を訴えました。
弊紙発行人も思わず山本委員の発言に引き込まれましたが、これを聞いていた岸田首相も、何度もうなずく場面がテレビ画面に映し出されました。山本委員の質問内容は「ひとたび甚大な災害が起きると、介護サービス利用者はどんな状況に置かれるのか?」──
それを理解するのに「真に迫る」内容でもありましたし、以前から感じていた「違和感」が解消されたような感じを受けました。そこで今回本紙では、ビジネス版でご紹介した視点とは別で、山本委員の発言内容に重点を置いて、その内容をご紹介したいと思います。
山本委員の発言を聞いていて、弊紙発行人は「能登半島地震」のような激甚災害に直面した時に「被災地で、介護事業者が事業を継続できないと『コミュニティー』は崩壊してしまう」と強く感じました。まずは今回の記事をご一読頂けますと幸いです。
日本介護新聞発行人
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「はじめに」にも記したように、今回の記事は3月18日(月)にあった、参議院予算委員会の山本太郎委員の質問内容(以下▼印)を中心に構成しています。できるだけ、発言内容に忠実であることを心がけていますが、一部は表現を弊紙であらためています。
なお、岸田首相の答弁は「▽印」で表記いたします。この点をご承知の上、お読み頂けますと幸いです。
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奥能登で、介護施設を復旧しようとしても、石川県は「『仮設』は考えていない」と…
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▼山本委員=今日は、日本経済を復活させるため、総理との議論を予定していたが、申し訳ないが急きょ内容を変更させて頂きたい。昨日(3月17日)石川県の奥能登に入り、様々な「声」を聞いてきた。極めて「急ぎ」の案件なので、総理に直訴させて頂きたい。
▼昨日、自民党の党大会で総理は「(能登半島地震の)被災者のためにできることは、全てやる」「やらなければならないことは、必ずやる」と発言されている。この言葉にウソはないですよね?
▽岸田首相=はい。ウソはありません。
▼山本委員=結論から言います。能登半島、特に奥能登、高齢者が利用するデイサービスセンターを「仮設」でつくって頂きたい。現在、政府の(検討している)応急「仮設」団地の取り組みとは別の話しだ。
▼「仮設」が難しいなら「代替できる施設」の賃料を払って頂けないか? というお願いだ。奥能登の介護事業者が、このようなお願いを石川県にした時に(県の担当者は)「恒久的な施設であれば良いが、それ以外はお金がないので無理」
▼「(能登地方での介護施設の復旧では)『仮設』は考えていない」と言われたそうだ。高齢者が利用するデイサービス、皆さんがご存じの通り、自宅で暮らす高齢者が日帰りで施設に通い、機能訓練や入浴などのサービスを受けるものだ。
▼心身機能の維持、家族の介護の負担軽減などを目的として実施されている。災害で被災した施設を修繕するのにお金がかかるだけでなく、工事関係業者があまりにも忙しすぎる。「見積もりさえ取れない状態だ」という。
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奥能登の在宅避難者へ「NGOなどの助けで、巡回で週1回のサービス提供がやっと…」
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▼山本委員=「再開の見通しさえ立たない」そういった(奥能登の介護事業者の)「声」をいくつも聞いてきた。問題点を5つに分ける。
■1=現在、在宅で避難している高齢者に(介護事業者が)必要なサービスの提供ができていない。例えば入浴。災害前は(介護事業者が)毎日サービスを提供できたが、現在はNGOやNPOの助けで「巡回で、週1回の提供がやっとだ」
「現在も、なんとか使える建物でサービスを提供する事業者もあるが、お茶を飲んだり、健康相談にのったりするが、本来の(介護サービスの提供等の)活動は行えていない。限界がある」という。
■2=現在、奥能登では、2次避難などでサービス利用者が減り、収入を大きく減らした介護事業者は、職員の雇用を維持するのが難しい状況だ。事業者の資金が枯渇するまで猶予があまりない。国による「底上げ」がなければ、事業の継続が難しい。
■3=このままでは、現在は2次避難をしているが今後「奥能登に戻って余生を過ごそう」と考えていた高齢者が、受けられるサービスを提供できる介護事業者・介護従事者が確保できない状況に陥ってしまう。つまり「受け皿」がなくなる。
■4=「受け皿がない」「普通の(介護)サービスを受けられない」ような土地には(その家族などが)「高齢者は返せない」となれば、奥能登に人が戻らなくなる。
■5=今のままでは、奥能登の介護体制は崩壊し「コミュニティーを守る」どころの話しではなくなる。
▼これが「現場の悲鳴」だ。介護職員の中でには、金沢などに避難したり、家族の都合で退職される方もおられる。何とか踏ん張って、残っている人たちもいる。予測のつかない「近い将来」のために、事業者はなんとか雇用を維持して、職員を抱えようとする。
▼その場合は給与を払わなくてはならない。「介護の受け皿がない」「なんとか受け皿があっても、機能していない」。キャパシティー(容量)が縮小されている状態であれば、家族としても、父母・祖父母を地元に返すわけにはいかない。
▼現在、社協を含む介護事業者を政府が支えなければコミュニティーは崩壊し、奥能登はゴーストタウン化するおそれがある。まずは「仮設」で、デイサービスを提供できるようにして頂けないか?
▼大きな被災を免れた施設、そういったものを代替として使えそうな物件を使う、という手もあるが、その支払いは年間で300万円・400万円・500万円にもなってしまう。この先、どのくらいの利用者が戻るか……。
▼それが「わからない」なかで、事業者が自前で踏み出してしまった場合、予想よりも利用者が帰ってこなければ資金がショートしてしまい、遅かれ早かれ、事業をたたまなければならなくなる。
▼総理がおっしゃる「コミュニティーを守る」。そのために絶対的に必要なのはインフラだ。介護・福祉・保健・医療。デイサービスを利用できる「仮設」を早急につくって頂きたい。
▼「仮設」が難しいのなら、どこかで物件を借りて、サービスを提供する場合にはその賃料や設備にかかる費用を国で持って頂けないだろうか? さらに、職員の雇用にも問題はある。
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奥能登の介護事業者「このままだと、手元の資金は夏を超える前に枯渇する…」
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▼山本委員=「どれだけの人が戻ってくるか?」は、わからない。元々、職員として働いておられた方は、継続して雇用している事業者が多いようだ。地域や利用者のことをよく理解して「故郷をなんとか守ろう」と、使命感に燃えている人たちが多いそうだ。
▼この災害で従業員をつなぎとめるために、雇用調整助成金が出る。休業期間に雇用主は、賃金の6割以上を労働者に支払い、その8割を国がカバーする。でも、全産業平均で100万円近く安い介護従事者を、さらに少ないお金でつなぎとめようとするのは──
▼さすがに厳しいのではないか? ある介護事業者の方は「地震前は3つあった施設が、2つ被災して使えなくなった。小さな場所で地元に残った少人数の高齢者に、サービスを提供している」と言う。
▼「2次避難から帰ってくる人が増えたとしたら、対応できそうですか?」と私が聞いたら「今の場所では無理ですね。違う場所が必要になると思います。あとその時に、職員がどのくらい残っているか……。これが非常に重要です」と教えてくれた。
▼他の事業者にも話しを聞くと「この仕事を『商売』と考えたことはないけれど、『商売』ベースとして話すと、無茶苦茶薄利多売なんですよ。介護保険事業でちゃんと利用者が入って来ないと、お金がまわらない」
▼「絶対に事故を起こさないためにも、職員の配置も厳格にやるし、利用者が一人減っただけでも収入には大きなダメージがある」と。「災害前は100人ちょっとの利用者がいたが、皆さんが毎日施設に来るわけではない。それぞれが週3回程度利用する」
▼「イメージだと毎日20人くらいの利用者だ。これだと何とか赤字を出さずにいけるけど、今は少人数だから経済的にはまわせない。厳しい。心が折れそうですね」とコメントを下さった方──
▼この介護事業所では「基金を使って、なんとか持ちこたえている」そうだ。「その基金で、いつまで行けそうですか?」と聞くと「このままだと、夏を超える前に資金は枯渇します」。
▼他の事業所の方は「このままだと(4月から始まる)次年度の前半、6月には(資金が)ショートします」。さらに他の事業所では「数ヶ月後にはお手上げです」。そういう方もいらっしゃった。
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奥能登の介護従事者「不安でしょうがない中、必死で地域のために、利用者のために…」
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▼山本委員=雇用される側も、不安でしょうがないはずだ。お話をうかがった介護従事者の方は共働きで、最悪この先、資金繰りが厳しくなって、例えココがつぶれても、ぜいたくさえしなければ旦那の稼ぎでなんとかやっていける」
▼「今は『地域への恩返し』のつもりでやっているんですよ」とおっしゃっていた。他にも「正直、次の仕事を見つけないと……。次の仕事を何にしようか、正直に言えば、そんなことを考えながらココで働いている」
▼「でもやっぱり、残った利用者さんのことを考えたら、なかなか踏ん切りがつかないんです」。そういうことを言って下さった方もおられる。雇用する側もされる側も、不安でしょうがない中、必死で地域のために、利用者のために、踏ん張って下さっている。
▼残念ながら、国が本気で支援しなければ、このような状態も長くは続かないと思う。「資金がショートする」という物理的なリミットが目の前に迫っているからだ。このままでは「コミュニティーを守る」どころではない。
▼冒頭の話しに戻ると、高齢者が利用できるサービスを提供する施設は「コミュニティーを守る」ために絶対に必要なインフラの一つだ。高齢者が安心して暮らせるための施設がなければ、見守りがなければ、家族は奥能登に親を返せない。
▼「家族も一緒に戻る」こともできない。「奥能登のコミュニティーを崩壊させない」というのなら、絶対に必要なインフラである高齢者施設を、今から、施設や雇用を守って、維持していかなければならない。
▼何度も繰り返すが、石川県は「恒常的な施設しかつくれない。『仮設』に出せるお金はない」そうだ。総理、デイサービスを提供できる「仮設」を新しく建設する、ニーズにあったものをつくっていくということを「宣言」していただけないか?
▽岸田首相=お話しを聞いていて、被災地におけるデイサービスの重要性は、委員のご指摘の通りだ。そして委員は色んな事例を挙げられた。「在宅介護を受けられている方が、行く場所がない」「多くの方が避難されているので、地元の事業者が経営を維持できない」
▽「避難されている方が能登にかえっても『受け皿』がない」。これらの結果として「コミュニティーが維持できない」など、いくつも具体的な例を挙げて頂いた。委員の話しを聞いていて、これは事業者の問題でもあるし──
▽雇用の問題、職員の確保の問題でもある。色んな問題を含んでいると思いながら聞いていた。これらを踏まえて委員からは(デイサービスの施設を)「仮設でつくってくれ」「(介護職員の)賃金の支援ができないか」というご要望だった。
▽石川県の話し(=「恒常的な施設でなければ『仮設』ではつくれない」)もあった。これらを確認した上で、国として(山本委員からの)ご要望に向けて何ができるか、検討したい。
▽私自身は、この問題は今、初めて伺ったので、これを国として具体的に何ができるか、検討したいと思う。
▼山本委員=ありがとうございます。ぜひ、地元の事業者の方々、職員の方々がおっしゃった、そういう「声」を救い上げて、なんとしても「コミュニティーを守る」ために、今から守っておかないと、戻ってきた時に「対応できない」では定着できない。
▼「ぜひ、なんとか能登を再生したい」という総理の想いに沿うような介護体制を、今からつくって頂きたい。まずは「仮設」で。「仮設」が無理なら代替施設で、そのような「支援の手」を──
▼石川県ができないのであれば、ぜひ国が「先回り」してやって頂きたい。
◇─[おわりに]───────────
この山本委員の「要望」が功を奏したのか、政府は「能登半島地震の被災地の、介護施設の機能や人材確保など、今後の提供体制を検討中だ」と発表しました=弊紙ビジネス版3月25日号で既報。
この「今後の提供体制」は、「能登半島地震」と同等レベルの激甚災害が発災した際に「介護提供体制をどのように復旧させていくか?」のモデルケースになると、弊紙では考えています。
本紙の主な読者層である、介護サービスを受けている方々やそのご家族等の皆さんにも、極めて重要な「モデルケース」になると思われますので、弊紙でもこれを継続してお伝えしていきたいと思います。
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