コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?(上)
*最適な介護を、自分で選ぶための情報紙*
┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和5年7月22日(土)第160号*****
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コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?(上)
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◇─[はじめに]─────────
前号のこの欄でも書きましたが、弊紙発行人の母親は80代後半で、通所系のサービスを週2回受けています。最近は、帰宅してから「職員の入れ替わりが激しくなった」とか「どうも、サービスの質が低下しているような気がする」等と話すようになりました。
「やはり、コロナ渦の影響が出ているのか……」等と考えていたら、その原因を示唆するような記者会見での指摘がありました。7月11日に、東京都医師会の平川副会長が、コロナの「5類移行後に見えてきたもの」と題して講演しました。
この内容が、弊紙発行人の母親が話していることと直接結びつくかはわかりませんが、ここで述べられていることはおそらく、全国の現在の介護施設で共通してみられる現象ではないかと感じました。
本紙の主な読者の皆様方のような、介護サービスを受ける側にとっても、現在の介護業界の現状を知ることは、弊紙が掲げている「最適な介護を、自分で選ぶ」ことにつながると考えます。
そこで今回本紙では「コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?」と題して、2回(上・下)に渡って、東京都医師会の平川副会長の会見内容をご紹介することにいたしました。
2回の連載になりますが、どうか最後までご一読頂ければと思います。
日本介護新聞発行人
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今回の記事は「はじめに」で記したように、東京都医師会が7月11日に、新型コロナの現在の感染状況を説明するために開いた記者会見で、平川博之副会長が「5類移行後に見えてきたもの」と題して講演した内容に基づいて構成しています。
講演はマスコミ向けであったため、内容の一部は本紙読者の皆さんにも理解しやすいように、表現等を弊紙で一部変えております。この点をご了解の上、読み進めて頂ければ幸いです。
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老健は「人・モノ・金の全てが不足してきている」「その原因は訳がわからない」状況
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本日は、5類移行後の高齢者関連のことについて述べたい。私にとって一番情報が入りやすい、老人保健施設(以下「老健」)からみた「高齢者施設の状況」と、もう一つは地域包括支援センターからみた「地域の状況」の2点について述べたい。
まず老健からみると、施設の利用率、つまり入所される方が減少している。そのため、表現は良くないかも知れないがストレートに言えば、老健は「人・モノ・金の全てが不足してきている状況」になっている。
老健の歴史は、30数年前にまでさかのぼり、当時の老人対策として誕生した施設だ。老人病院と特養の、2つの長所・短所を組み合わせて、その時すでに予期されていた「超高齢社会」に向けて「新しい施設サービスを作ろう」として生まれたのが老健だ。
この老健が、ちょうど今から本格的な「超高齢者社会」が始まろうとしているのに、施設の経営が非常に厳しい状況になっていて「現状維持さえ厳しい」という、私たちにとっても「訳がわからない状況」になっている、
まず、これを第1点目にお伝えしたい。第2点目は「地域の状況」。ここでは「地域の状況」を反映する地域包括支援センターが「コロナ渦の自粛生活の影響を大きく受けている」ことをお伝えしたい。
具体的にはコロナ渦により、地域に生活する高齢者の「フレイル・要介護」が進行しているということ。さらに「生活困窮者」。もちろん生活保護を受ける方も増加している。
しかし地域では、生活保護にまでは至らない「生活保護未満」の方々の「生活困窮」が非常に増加している状況が伺える。それに伴い、地域包括支援センター等への相談件数も急増している。
さらにもう一つ。地域包括支援センターは、地域の生活支援事業とか、介護予防事業にも力を入れている。この活動状況は、地域によりかなり格差がある。その中でも、地域に設置された高齢者向けの「サロン」の維持には、大きな支障が出ている。
これらの点について、順次ご説明していきたい。
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稼働率「94%」を超えないと経営が維持できないのに、全国の老健の現状は「86.2%」……
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老健の全国組織である「全国老人保健施設協会」(全老健)は、今年5月31日から6月15日までの約2週間を対象期間として、全国の老健の稼働率を調査した。3,557施設に尋ねて回答があったのは1,122施設。回答率は31.5%だった。
現在の老健は「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他型」の5種類に分類されている。
■1.「超強化型」=老健の5つの区分の中で最上位に位置しており、利用者の在宅復帰への貢献度が特に高いと評価された施設。そのため厳しい要件を満たす必要があり、その分、報酬水準も高くなる。老健全体に占める割合は、年々増えている。
■2.「在宅強化型」=「超強化型」の次に要件が厳しい類型。特にリハビリテーションの回数に関する要件を満たす必要がある。
■3.「加算型」=「在宅強化型」の要件には満たないものの、在宅復帰・在宅療養支援等の指標である在宅復帰率等が、一定の基準を満たすことが要件となっている。
■4.「基本型」=5つの類型のうち、上から4番目に位置する。他の類型に比べると、在宅復帰率などが高くない。
■5.「その他型」=上記の4つの類型の、どの類型にも当てはまらないタイプ。
この中で「超強化型」が、職員の人員配置基準も一番厳しく「多機能で重装備な施設」だが、調査した稼働率をみると「86.1%」。5類型の全体の平均も「86.2%」。これまでの経営実態調査をみても、稼働率が「94%」を超えないと、施設が維持できない。
また「95%」を超えないと、新しい施設が整備できない。現状は非常に厳しい。ではなぜ、入所者が入らないのか? 原因はつかみ切れていない。これは東京だけでなく、全国的な傾向にもなっている。
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介護以外の業界へ転出してしまっている方が増えており「介護業界が嫌われている」…
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また「人」の問題。こちらは全老健に加え(主に特養等を経営する法人の団体である)全国老施協と(グループホームの経営法人の団体である)日本認知症グループホーム協会の、施設系3団体が合同で「介護現場における人材の流出」について調査した。
「介護人材不足」の問題は以前から指摘されていたが、コロナ渦でさらに拍車がかかっている。令和4年度の離職者数は、前年度比で正職員が107.6%。短時間労働者(パート・アルバイト等)も105.2%と、多くの人材が介護施設から抜けている状況だ。
さらに介護施設で働く正職員で、医療・介護業界以外へ転職した人は、令和4年度は前年比で128.6%と大きく増えている。これは現場の介護職に加え、看護師・ケアマネ・理学療法士・管理栄養士・調理員等を含めた結果だ。
この結果を現場の「介護職」に特化してみるも、前年度比で126.3%。例えば「老健は勤務がつらいから、訪問介護をやってみようか」等、この介護業界内で移動してくれるのであれば、われわれとしてはまだ助かる。
しかし現実には、多くが福祉業界から外れてしまい、全く他の業界へ転出してしまっている方が多い。その割合も、すごいペースで増えている。介護業界が「嫌われてしまっている」という、大変残念な結果が出ている。
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世の中の「賃上げ」の動きを受けて、他産業の賃上げ率は、施設系事業者の「倍以上」
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その一つの要因として、今の世の中の「賃上げ」の動きがある。特に政府は事業者に対して「ベースアップ」を求めている。この政府の方針もあり、世の中は「賃上げラッシュ」の状況がみられる。
【※弊紙注=「ベースアップ」と「昇給」=「ベースアップ」は、全従業員に対して一律に行われるのに対し「昇給」は、個人の業績や年齢・勤続年数などに応じて、個々の従業員の昇給額が決まる】
老健でも(経営状況が厳しい中で)なけなしの資金を使って「ベースアップ」はしているが、世間一般の業種と比べれば全く勝負にならない。施設系3団体と、介護医療院を加えた施設系4団体の調査では、賃上げ率は「1.42%」だった。
これを「ベースアップ」分だけみれば「0.54%」。他産業は賃上げ率が「3.69%」で、われわれの業界の倍以上だ。これで(離職を考えている職員から)「やっぱり介護業界は、先がないよね」と思われているのかも知れない。
非常に残念だが、これだけはわれわれとしては、どうしようもない状況だ。また「賃金格差」については、10年前は一般産業と介護業界とは「10万円」の差があった。これが処遇改善交付金とか、色々な手を打って頂いたおかげで、縮まってはきている。
それでも現状では、やはり「約7万円」の差がある。これは、非常に厳しい数値だと私はみている。これをどう埋めるかは、われわれの死活問題だと考えている。
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これから「戦う場面」なのに、現時点で「もう、矢が尽きた状態で、どうするんだ?」
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以上の結果を踏まえ、老健施設の経営状況は「超強化型」から「その他型」までの5類型で、いずれのタイプでも経営状況の悪化が著しい。黒字が40.9%で、赤字が59.1%と約6割だ=グラフ・東京都医師会HPより。
この結果をみると、私は「これから(本格的な超高齢化社会を迎えるこの時期に)われわれがいくら踏ん張って「戦う場面だ」と意識していても、現時点で「もう、矢が尽きた状態で、どうするんだ?」という印象を受ける。この点は、本当に危惧している。
【以下、本紙第161号「コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?(下)に続く】
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