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「介護保険制度に対する国民の理解を高めていかないと、改革はなかなか進まない…」

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┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和5年12月30日(土)第167号*****

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「介護保険制度に対する国民の理解を高めていかないと、改革はなかなか進まない…」
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◇─[はじめに]───────────

 介護保険制度は3年ごとに改正が行われ、それに伴い介護報酬も大きな改定があります。この3年ごとの改正・改定の議論を弊紙発行人は過去3回取材し、そして今度の4回目の改正も、一部の内容が継続審議となっている他は、実質的にほぼ終了しました。

 厚労省の介護保険部会や介護給付費分科会に出席して意見を述べる有識者の皆さんは、それぞれの立場から白熱した議論を交わしていますが、議題によっては賛否が平行線のまま、最終的な決着が「政治判断」に持ち越されるケースも多々あります。

 それは「仕方ない」のかも知れませんが毎回、どこか「後味の悪さ」も感じます。今回も「後味の悪さ」を感じながら、次期介護報酬の改定内容の、最後の「とりまとめ」となった第236回介護給付費分科会(12月18日開催=写真・厚労省の動画配信より)をネットで傍聴していました。

 すると、ある委員が述べた内容が弊紙発行人の「アンテナ」に引っかかりました。それは、この分科会の親会となる、社会保障審議会の委員も務める松田晋哉・産業医科大学教授の発言でした。

 松田教授は、個々の議論の賛否を示すのではなく、自らが介護保険制度の創設にも関わった立場から、制度の改正に対する「考え方」を示しました。これは、今後の介護保険制度の「あるべき姿」を考える意味でも、大変貴重な意見だと感じました。

 また、本紙の主な読者層でもある、介護保険サービスを利用する方々にとっても参考になる指摘でもあると思いました。そこで今回、本紙ではこの松田教授の発言内容の要旨(以下「▼印」)をお伝えしたいと思います。

 どうか最後まで、ご一読いただければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

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「介護保険制度は国民・地域・世代間・世代内の、4つの『連帯』の組み合わせで…」
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 ▼(「審議報告書」に)書かれている内容については特に異論はないが、その上で今後、この問題を考えていく上での私なりに感じている「問題点」を述べさせていただきたい。たぶんこの委員の中では(私は)制度の設計から関わった数少ない人間だと思う。

 ▼そこで、介護保険ができる前の議論のところから振り返って少しお話しをさせていただきたい。介護保険はどういう制度設計でつくられたかというと、半分は税金を入れるということ。

 ▼これは「国民の連帯」、または「地域の連帯」という、いわゆる「連帯」の仕組みの形を取り入れたということだ。それから、第2号被保険者(40歳から64歳までの医療保険加入者)が入ったということは、これは「世代間の連帯」だ。

 ▼そして第1号被保険者(65歳以上の方)というのは、その「世代内の連帯」だ。この「連帯」の組み合わせによって介護保険制度がつくられたということを、まず第1点目として申し上げておきたい。

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「導入された時は『介護保険は、地方自治の試金石だ』というキャッチフレーズで…」
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 ▼その時に介護保険の設計は、各地域で「住民が、サービスを使った分だけ保険料が上がる」という仕組みを取り入れた。そこは「地域の連帯」となる。ここで一つ大事なことは「介護ニーズを保険ですべてまなかう」という制度設計にはなっていないことだ。

 ▼ただし、それぞれの地域で色々なニーズがあるので、その分は「横出し」あるいは「上乗せ」して提供できるようにした。だから、その地域ごとに保険料が異なるということが可能となる。このような仕組みにした。

 ▼その時、つまり介護保険が導入された時に、どういうキャッチフレーズだったかというと「介護保険は、地方自治の試金石だ」という言い方をした。だから(各自治体で)介護予防に取り組んでいる。

 ▼住民が、介護保険をできるだけ使わないような健康づくりに務めれば、その分だけ(保険の)使い方が減るので、介護保険料に対する財政の負荷を下げることができる。たぶん、そういう視点で取り組まれている自治体は(今は)それほど多くないと思う。

 ▼そのような「地方自治の試金石」としての、介護保険のあり方をもう一回、自治体も含めて、住民が理解する必要があると思う。その中で、財政をどうしていくか? これから団塊の世代が介護保険を使うようになると――

 ▼正直なところ、今のレベルでは「支える」のが難しくなってくる可能性は大きいと思う。そうなると「75歳は現役」のような社会をつくり「(介護保険を)払ってくれる側」を、少し増やすことも考えていかないといけない。

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「介護保険制度に対する国民の理解を高めていかないと、改革はなかなか進まない…」
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 ▼その中で、副業的なものとして「介護労働」は当然、あり得ると思う。これは実際に、いくつかの介護事業者さんが地域の住民に対して、例えばベッドメイキングを任せる――

 ▼または、入浴介助のみを任せる、食事の介助を任せる、そういう形で地域住民の方に参加していただいて、介護労働者の確保と制度の安定性を図る。これらは全て各自治体が、事業者の方々の協力を得て行う「自助努力」になる。

 ▼たぶん、このような仕組みを入れていかないと(制度の持続は)やはり少し難しいのかなと思う。そうなってくると、住民に対して介護保険の理解を高めることが非常に重要になる。この観点で言うと(介護保険の)制度が少し複雑になりすぎたと思う。

 ▼色んなサービスや加算が出てきて、たぶん住民の方は、それをパッとみても「わからない」。これに対しては制度の簡素化を行い、同時に介護保険制度に対する国民の理解を高めていかないと、思ったような改革はなかなか進まないのではないかと思う。

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「ドイツやフランスは、介護労働者をアジアから入れて『同一労働・同一賃金』だ…」
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 ▼それから、外国人の活用に関しては、私は色々な研究や取り組みを行っているが、「外国人を活用する」という言い方は、良くないと思っている。たぶん、パートナーとして同じ目線に立って、外国人の方に「日本を選んでもらう」必要がある。

 ▼日本は(外国人の方に頼るという意味での)労働力で、国際競争に負けている。すでに日本は「選ばれなくなってきている」。例えばドイツやフランスの場合は、介護労働者をアジアから入れているが「同一労働・同一賃金」だ。

 ▼しかも、ずっとそこで働き続けることができて永住権が与えられる。日本は、そうなっていない。(母国へ)帰ることが前提となっている。その中で介護福祉士という資格があって、この資格はアジアでは日本しかない。

 ▼これは資格の有無の問題ではない。そこで得た技術は使えるが、では外国人の方々が身につけた技術を、自分の国に戻ってどのように活用するのか、あるいは、ずっと日本で働き続けることができるのか――

 ▼彼らが働きやすい、または働くことにインセンティブ(動機や励み)を感じるような仕組みにしていかないと、外国人労働者の方に日本の介護現場を選んでもらえない。ここは少し、われわれは謙虚に考える必要があると思う。

 ▼今の(外国人材の活用の)議論を聞いていると「外国人労働者を安く使おう」と、しかもピークを過ぎれば帰って頂くというような――これではダメだと思う。そういう意味で外国人労働者が今、日本で働きにくく感じる色んなバリア(障壁)があると思う。

 ▼これをどのように改善すれば「働きやすい仕組み」がつくれるのか、ということを考える方向性に視点を変えていかないと、これからのことを考えると、介護に限らず外国の方に、色んな労働現場で働いてもらわないと「もう間に合わない」ことは明らかだ。

 ▼当然、介護の現場でも、そういうような視点での議論が必要だと思う。

◇─[おわりに]───────────

 これまで、何度かこの欄で書いたことがあるのですが、弊紙発行人は首都圏のある都市の、ある時の介護保険制度改正の議論に参加した経験があります。その議論がとりまとめられた際に、地域の住民の方に対する「説明会」がありました。

 その時、会場まで来られた方は3人だけでした。後でわかったのですが、この3人はいずれもサクラ(=おとり)でした。せっかく説明会を開いても、参加者が一人もいないと恰好がつかないため、関係者が事前に知人に参加を依頼していたという事情でした。

 たとえサクラでも、弊紙発行人は当時、委員の一人として、参加して説明会を傍聴していただけたことには感謝をしなければなりませんが、おそらく他の自治体でも「同様だろうな」と思いました。

 さらに「介護保険制度は、一般の市民にとっては『縁遠い存在』である」ことも実感しました。全国の自治体の職員も、それは理解の上で日々、頭を悩ませながら介護保険制度を運営していると思います。

 しかしそれでも、今回の松田教授の「考え方」を聞いていて、まずは「介護保険に対する住民の関心を高める」ことに真剣に取り組んでいかないと、本当に「間に合わなくなる」と思われます。

 では、どうすれば良いのか……? 地域の介護保険改正の議論に参加した経験がある弊紙発行人も、正直なところ今の時点では全く検討がつきません。それでも、介護分野に関する報道に携わる一人として、今後も「最善策」を考えていきたいと思います。

 また読者の皆さまがこの問題を考える上で参考になる記事を一つでも多く、お届けしていきたいと考えております。最後に、本年も本紙をご愛顧いただきまして誠にありがとうございました。来年もどうか、よろしくお願いいたします。

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