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スティールヘッドを釣る人の満足度

科学論文を釣り情報へ還元する第15回目の投稿です。
今週はスティールヘッドの特集、今日はその4日目です。


今回のテーマ:スティールヘッド釣る人の満足度
今回ご紹介するのはこちらです。
Pitman, K. J., Wilson, S. M., Sweeney-Bergen, E., Hirshfield, P., Beere, M. C., & Moore, J. W. (2019). Linking anglers, fish, and management in a catch-and-release steelhead trout fishery. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences, 76(7), 1060-1072.


今回の論文では、スティールヘッドがキャッチ&リリース対象となっている河川で、釣り人の満足度調査を行った結果をまとめています。


釣り人は何に満足するのか?


我々が釣りをする時、何を求め、何で満足しているのでしょうか?


こんなことを聞くと、ちょっと哲学的な話になってしまいますが、今回の論文ではサカナの豊富さ(スティールヘッドの遡上数)と釣り人の努力量(釣り人の多さ)、釣果などを科学的な根拠をもとに整理しています。


これまで、釣りによる満足度を考察した研究者によると、
一般的な釣り人の満足度には、①釣果、②サカナのサイズ、③釣る行為そのものの楽しみ、④自然の景観や静けさ、⑤釣り具の種類が影響することが報告されています。


「まぁ、そうだろうな」というのが私個人の印象ですが、皆さんもどれかには当てはまるのではないでしょうか?


しかしながら、こういったことをちゃんと研究した人がいることは大変感心します。。

スティールヘッドC&Rの満足度


今回の研究の対象地カナダのブリティッシュコロンビア州(以下、BC州)では、2012年から河川内のスティールヘッド等の釣りに対して、かなりしっかりとしたライセンス制度を導入しています。


BC州のスティールヘッド釣りには世界中から釣り客が訪れるため、混雑などを考えるとBC州の地元アングラーからの不満も多いようです。


また、いくらキャッチ&リリースとは言っても、魚体へのストレスも否定できず、釣り人の増加によって、サカナ側にも様々な負の影響があるのではないかと懸念されています。
キャッチ&リリースに関する記事はこちら)


この制度のキモをざっくり説明しますと、特定の時間帯や場所では、カナダ人以外の釣り人に対して制限する、ということだそうです(なお、地元ガイドを雇っていればOKだそうです)。


さて、この研究ではスティールヘッドの遡上数が変わると、釣果と努力量は変化するのか?そして釣り人の満足度にどのような変化をもたらしたのか?などに注目しています。


まず、当たり前っちゃ当たり前の結果ですが、
スティールヘッドの遡上数が多い年は釣果も多く、釣り人の努力量も増すという結果になりました。


ただし、遡上数が多いと釣果は直線的に大きく増加しますが、努力量の上がり方はそこまでではないようです。
これは、BC州以外から訪れる多くの釣り人の場合、スティールヘッドの遡上数まで予測して釣りに赴くことは少ないからだそうです。
(釣り旅行には、お金もかかり、早いうちからホテルやらガイドやらを手配するので、遡上数の様子をみてから計画することは難しいため)

釣り場に先行者が居るとイヤ・・・


また、前述のように釣り人の満足度は主に釣果やサカナのサイズによって決まることが多いようですが、今回は「釣果」に加え、「釣り場で他の釣り人に出くわさない」ことが満足度の決定要因とわかりました。


さらに、混雑度合が高いほど、高い満足度を維持するには釣果の良さが必要ということもわかったそうです。

釣り人は、たとえ釣果に不満があったとしても、釣りをする行為そのものに満足することができるイキモノですが、釣果が良くても混雑には不満を持つという過去の研究結果もあります。

また、混雑は予想される釣果とは無関係に釣り場の選択に影響を与えるということで、釣り人には、混雑するなと思えば、釣れるとわかっていても無意識に釣り場を変える習性も科学的に確認されています。
(やっぱり、混雑って大事ですよね。。私も釣り場に到着して先行者がいると萎えます。。)


さて、ここまでをまとめた図が下記になります。

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実線は直接反映される効果、点線は長期的に考えられる潜在的な効果を示しています。
釣果はスティールヘッドの遡上数と関係があり、遡上数が多いほど釣り人の満足度が高いはずです。一方で、遡上数が多いと釣り人の努力量も増すため、これが混雑や釣り人の満足度の低下につながる可能性があるというのです。
ライセンス制度は釣り人の努力量を操作できるため、地元アングラーにプラスには働き、それ以外の釣り人にはマイナスな面もあります。


一方で、釣り人たちの満足度が高ければ長期的にみて努力量は増すので、これは将来的には「混雑→満足度の低下」を引き起こす可能性を示唆しています。
さらに努力量が増すと、C&Rであってもスティールヘッドの死亡率自体は高まる可能性があるので、長期的にみると遡上数にはマイナスの要因になる可能性があります。

ちなみに、BC州のスティールヘッド狙いの釣りは年間1,600万カナダドル(日本円で12億円以上)の経済効果があることから、地域経済にかなりの恩恵をもたらしているのも事実です。

このように、スティールヘッドを守りながら釣り文化を発展させるためには、社会文化的なプロセス(ライセンス制度)、経済的プロセス(釣り旅行の経済効果)、生態学的プロセス(スティールヘッドの生存率、生息地の確保)などの複雑に絡み合うプロセスを考えながら進める必要があるようです。


それにしても、平均1日1尾はスティールヘッドが釣れる環境ってものすごく羨ましいなと思ってしまいました。
明日はスティールヘッドの好む水温など生態に関する情報をお届けしたいと思います。
それではまた次回お会いしましょう。

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