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出版輸送の現状と課題について

「NIPPAN Conference 2020」における副社長・安西浩和のプレゼンテーションのなかで、出版輸送が抱える課題について語った総合物流企業・カンダコーポレーションの山村守取締役。ここでは山村取締役のインタビュー内容の詳細を掲載する。

4C修正山村役員

カンダコーポレーション 取締役 山村 守 氏

業量減ってもドライバーの負荷減らず

――出版輸送を担う企業として、現状の経営課題について教えてください。

出版輸送の課題の根本は、1997年のピーク時以降から続く、業量の減少です。はじめは年2~3%程度でしたが、近年は8~10%と大きく落ち込んでいます。物流の現場では、自家配や共同配送(共配)の地区、またさまざまなエリア・地域でその数字の多寡は異なりますが、20年以上も落ち込み、大きく業量が減ってしまったことにより、さまざまな課題が生じています。特に現状の従量運賃制(配送する荷物の重量に応じて料金が変動する運賃契約)では、業量の減少によって売上が落ち込み、利益が出づらくなってきています。そこに、年々上がる最低賃金の影響による人件費の高騰、燃料費の増加傾向といった経費全体の上昇が加わり、さらに収支が圧迫されています。

――そうしたなかで、どのように出版輸送を維持しているのでしょうか。

業量が減っていますので、一台の車両にまとめて載せて、輸送ルートを工夫して多くの店舗に配送するようにしています。一台のトラックの積載率は業量が多いときは、例えば一台40軒への配送で収支は合いました。しかし、今は、業量が減った分、配送軒数を増やさないと積載効率が上がりません。売上と経費のバランスを合わせるために、一台あたりの配送軒数を増やすようにしているのです。

しかし、業量は減っても、ドライバーの負荷は減っていません。その一つの要因が、出版輸送はすべての書籍・雑誌を手積み・手降ろしで、納品作業をしているからです。昔はどの業界の輸送もそうでしたが、今はドライバーの作業の時間短縮、負担軽減につながる「コンビテナー」という台車を使って納品するように変わってきています。しかし、出版物は従来通り。ドライバーもベテランでコツを覚えてはいますが、高齢になり体力が低下して作業が辛いと言う人もいます。

表紙物流現場1

従来通りの手積み・手降ろしがドライバーの身体に負荷をかけている

さらに、そういうベテランの人たちで成り立っているため、彼らが退職してしまうと、新たなドライバーの確保が難しいという問題もあります。ドライバー不足は運送業界全体の課題でもありますが、特に出版輸送に関して言えば、離職率は低いものの、高齢化しているうえ、「出版輸送はしんどい」と新規採用が難しい状況にあります。また、幹線輸送のドライバーも長距離のため成り手がどんどん少なくなっています。そういう状況で、沖縄や北海道などではトラック・鉄道から船舶を使った輸送に切り替えています。いわゆるモーダルシフトですが、そういった工夫は今後も進めていかなくてはなりません。現状で言えば、ぎりぎりもっているという感じです。

――発売日や納品時間帯指定による制約についてはいかがでしょうか。

発売日という意味では他の業界においても、納期があるのでさほどではありませんが、納品時間に関しては日本出版取次協会の協力もいただき、コンビニエンスストア(CVS)様への店着時間帯の緩和を進めてもらっています。

ただ、ショッピングモールなどの商業施設に入居されている書店様の場合は、施設のオープン時間、守衛がいる時間帯など、店着時間に制限があります。そのため、いまは配送を2便体制にするなど工夫していますが、なかなか対応に苦慮しています。広いショッピングモールの場合、お店の前にまで届けるとなると、30~40分かかるケースもあります。指定された時間帯によっては道路事情も合わせて納品に時間がかかることもあります。

また、一人のドライバーが働ける時間や範囲は以前よりも、法令遵守の観点から短く・狭くなっています。そこで、1便と2便とに分けてドライバーを変えたりするのですが、業量がダウンしているなかでは一台あたりの積載効率も考えていかないといけませんので、かなり難しい判断を迫られています。

物流現場3

業量がダウンしているなか、一台あたりの積載効率の向上も課題

どうなる従量運賃制?

――現在の業量では、従量運賃制を適用し続けるのは厳しいということでしょうか。

出版物の輸送は従量運賃制というスタイルで、すべての工程をその金額でまかなうというものです。われわれの工程は集荷から幹線輸送、仕分け(1次、2次)とあり、距離が遠いところは現地に行って最終的に店舗仕分けをかけます。配送軒数が徐々に増えると事務管理などの経費が上がっていくという構造になっています。物量が多い時代は各工程の経費をそれでまかなえていました。しかし、現在は業量減少によって業務内容と経費に齟齬が生じているのが実態です。これから一つずつの工程の経費を見定めて、料金やコストを算出していき、どこに課題や問題があるのかを見極めていかないといけません。

――他の運賃制度について、何かお考えはありますか。

容積・重量による料金設定もありますし、車建ての貸切という方法、配送先の軒数で設定するなど、やり方はいろいろあります。究極を言えば、物量が少なくても、必要経費は変わりませんので、最終的には固定費を含めて赤字にならない構図を描ければいいと考えています。

――例えば書店様だけ、またはCVS様だけという配送方法は効率的なのでしょうか?

エリアで見ると、書店様でもCVS様と同じ物量しかないケースも徐々に増えてきました。また、あるエリアで書店様が10軒、CVS様が40軒あった場合、書店様10軒の方が、地理的に走行距離が長くなるケースもあります。ですので、効率の面からみれば、書店様とCVS様を切り分けても大きな効果はないと思います。特に共配地区においては理屈上、書店様とCVS様両方あれば軒数も増えるので、時間的にも経費面でもうまく回せるメリットの方が大きいと思います。

日中配送のメリット、デメリットは?

――出版輸送は深夜配送でドライバーが集まりづらいというデメリットがあります。これを日中配送に移行するとどうなりますか。

確かに、夜間に比べてドライバーを採用しやすいとは思いますが、日中は交通事情などの面で夜間ほどの配送効率を望めないのがデメリットと言えます。配送できる軒数も半分とまではいかないかもしれませんが、同じようにはいかないでしょう。そうなると、車両を増やさねばならず、ドライバーも新たに確保しなければいけません。また、受け取る書店様方の都合もあります。もし、エリアによってドライバーがどうしても採用できない場合は、日中配送の店、夜間の店と切り分けた運用を柔軟に取り入れていくことも検討していくべきかもしれません。

――課題山積の出版輸送ですが、東京都トラック協会の出版・印刷・製本・取次専門部会の部会員向けアンケートでは「約半分が2~3年以内に撤退を考えている」という回答もありました。

弊社もそうですが、出版物流に携わる企業は昨日、今日、この仕事を始めた会社ではありません。出版文化を運んでいるという使命感で長年、業務を遂行してきました。弊社では、どうすれば出版輸送を継続していけるかを模索し続けています。われわれも精一杯の努力はします。

今年11月から来年にかけて日販、トーハンの協業も始まります。そこにたどり着くまで相当ご苦労されたと思いますが、こうした協業については期待しているところです。

――出版社様に対してお願いしたいことはありますか。

時代は変化しています。それに対応するために、出版社様に関わる物流、書店様に届ける物流など、出版にまつわる物流業務を一つの枠組みのなかで捉えていくことができないかと考えております。これまで輸送業者同士が連携することはありませんでした。しかし、数年前から、私どもでは同じ地区に行っている商品を他社と共同で輸送したりしています。出版社様に出入りしている運送会社とわれわれとで、何か連携できないでしょうか。出版物流を全体目線でみることで、ドライバー不足が解消し、積載率も上がる可能性もあります。ぜひ、ご検討いただければと思います。

(2020年9月15日取材 本誌編集部・諸山)

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