見出し画像

「新しい地図、新しい時計。」

画像4

日販 代表取締役社長 奥村景二

三者の出版流通改革で描く「新しい地図」「新しい時計」で本屋の未来を拓く

いま、出版流通は崩壊の危機を迎えています。

物量の減少による流通効率の悪化と、損益構造の悪化による書店様の数の減少という2つの問題によって、本を必要としている全国津々浦々のお客様に、本を“届ける”ことが難しくなってきています。これに対する打ち手が、「新しい地図」と「新しい時計」です。

01_奥村社長Part図1

「新しい地図」とは、業界の喫緊の課題である輸配送問題に端を発する出版流通崩壊の危機に対して、業界三者で同じ方向を向いて持続可能な流通モデルをともに構築していく、そういう姿だと考えます。当社ではこれを出版流通改革と呼んでいます。

「新しい時計」とは、変化の激しい時代のニーズを正しい時間軸で捉え、果敢に未来に挑戦していくということ。これによって、本屋の未来をつくっていきたいと考えています。

マーケットのシュリンクにより、流通する本の物量が減っています。冊数で見る紙の本の流通量は市場規模の推移と比べてさらに落ち込んでおり、特に雑誌の落ち込みが激しい。物量が落ちれば、ピーク時に合わせて構築された従来の流通モデルでは効率が悪くなってしまいます。

さらに、ここでは前提条件として、外部要因のマクロの与件が存在しています。すなわち、政府が国を挙げて取り組んでいる物流危機の問題です。日々の報道で目にされているように、物流問題は、放っておけばどんどん深刻化していきます。

その要因は、増えていく流通のニーズに供給側の人員が足りておらず、需要と供給のバランスが崩壊していることにあります。人口減の問題に加え、そもそもドライバーの労働環境は厳しく、新たな成り手がいません。こうした状況を改善していくことが、結果的に運賃の高騰にもつながっています。出版業界においては、先ほどの要因で流通効率が悪化しているうえに、この物流危機も重くのしかかり、これら二重の問題によって出版流通は崩壊の危機にあるということなのです。

自助努力で固定費削減すすめる

弊社では目下の課題に対して、自助努力による固定費の削減を進めてまいりました。今期はさらに、現在の物量に見合った物流機能へリサイズを図っていきます。同業他社との協業による物流コストダウンも推進していきます。また、出版社様に対しては仕入条件の見直しや物流コストの一部負担に関する協議をさせていただいております。多くの出版社様にご理解、ご協力をいただいております。

しかし、残念ながら、それだけでは今後も続く問題の根本的な解決にはなりません。

ある運送会社様からの値上に関する要望書には、「出版物の配送数量は減少の一途を辿り、着配送業者(当該運送会社の下請業者)の車両1台当たりの売上が事業継続できる限界を超えてしまいました。そのため、今年度上期で撤退された業者が複数でてしまい、更には運賃・諸条件の改定が無ければ撤退するという意思表示をしている業者が後を絶たない状況となってしまいました」と書かれていました。相当、ひっ迫している様子がわかるかと思います。

彼らは出版流通を継続していくために欠かすことのできない大切なパートナーです。彼らが撤退してしまうということは、すなわち、その瞬間に配送が止まるということを意味しています。そうした要望書は現在進行形で次々と当社に提出されています。

今後もさらなる物流コストの上昇が予測される中で、対処療法だけでは出版流通を維持することができません。この状況から抜け出すためには、外部環境によるコストアップは業界全体の共通課題という認識を持ち、業界三者で同じ方向を向いて、抜本的な問題解決に取り組む必要があります。同じ方向を向いた先にあるもの、それが新しい地図・出版流通改革なのです。

SC改革で物流コストを圧縮 取引構造改革によりコスト主体を明確化

出版流通改革によって目指すべきゴールは、業界三者のビジネスが成立し、かつ、紙の出版物を全国へ流通し続けられる状態です。そのために実施することは大きく2つあります。

1つはサプライチェーン改革です。川上から川下まで全体の流通の在り方を見直すことによって業界全体の物流コストを押し下げます。もう1つは取引構造改革によってFACTを詳らかにし、コストの主体を明確化させること。これには価格転嫁による受益者負担も選択肢の1つに含まれています。自助努力を継続することは前提条件としつつ、この2つを出版流通改革の柱として取り組んでいきたいと考えています。

01_奥村社長Part図2

出版流通改革の構造について、もう少し具体的に説明します(図2)。FACTを明確にすることによって、コスト削減のための最適な手段が見えてきます。取次の自助努力である拠点の再編や協業による物流コストの削減と合わせ、プレイヤー間の連携によって業界全体のコストを削減していくサプライチェーン改革を推進することにより、低コストでの流通を維持させます。

また、FACTの解明によって、コストの主体が明確になります。作業内容、配送ルート、ジャンル、価格帯といった切り口で何にどれくらいコストがかかっているのかを細分化して見える化させることで、よりフェアなコスト配分へと変えていきます。このコストを吸収するためには、上昇分を価格に転嫁することもひとつの手段であると考えます。

出版流通改革、リミットは21年度

これらの打ち手によって、持続可能な出版流通を目指すのが出版流通改革です。この改革の実行にあたっては対面に座っての交渉では話もまとまらないし、納得感が得られないと考えています。検討段階から業界三者で同じ方向を向いて協議する。これにこだわりたいです。そのための場づくりにまずは早急に取り掛かります。今年を含めてリミットはあと2年、2021年度までです。持続可能な出版流通のため、全員の衆知を結集し、この難局を乗り越えていきましょう(出版流通改革の具体的な内容は副社長・流通改革責任者の安西浩和パートに記載)。

従来の考えに縛られない挑戦に取り組む

続いて新しい時計について説明します。出版流通改革を実現できたとしても、売場がこのまま減り続ければ業界の未来はありません。未来をつくっていくためには、変化の激しい時代のニーズを捉えた、従来の考えに縛られない挑戦に果敢に取り組むことが必要です。

これからの時間のあゆみに対応した新しい時計で、“本屋”の未来をつくることにも取り組んでいきたいと思います。コロナ影響によって、今後も難しい局面が続くと思いますが、一方で“本”が私たちの生活になくてはならないものであるということを改めて強く認識しています。

読者とのタッチポイントを守るために、時代のニーズに即応した企画・サービスによって書店様のトップラインを担保しつつ、今まで以上に振り切ったマージン改善のための施策・アイテムの提案によって損益構造の改善を実現します(具体的な内容は専務取締役営業本部長・髙瀬伸英のパートに記載)。

01_奥村社長Part図3

当社が推進してきた「書店様の意思によるマーケット需要に基づいた仕入」(図3)は書店様のリスクテイクによるマージンUPの実現と同時に、効率改善によって業界のコストを削減することで、出版流通改革に資するものであるという側面を持っています。www.project以来、当社は関連するさまざまな施策やサービスを提供・アップデートしてまいりました。今後もこの方針をより振り切ったものにしていきたいと考えておりますので、ぜひ一緒に取り組んでいただければと思います。

〈特集のそのほかの記事はこちら〉
出版流通改革が目指す姿  
   日販 取締役副社長 流通改革責任者 安西浩和
お客様の変化に合わせた魅力ある書店へ  
   日販 専務取締役 営業本部長 髙瀬伸英
【インタビュー】出版輸送の現状と課題について  
   カンダコーポレーション 取締役 山村 守


いいなと思ったら応援しよう!