妹が来た。
名古屋から妹が来た。赤ちゃんに会いに。
控えめに言って、最高の一日だった。
天気はいいし、体調もいいし、行き先に決めた動物園の動物たちも活動しやすい時間だったのか、とても見応えがあって楽しめた。ヒョウは凛々しく、トラは雄々しく、キリンは仲睦まじく、コンドルは気高かった。
妹は四人の娘のおかあさんで、親としては僕たちよりずっと歴の長い、先輩ママさんだ。今日は末の娘と二人で福岡に来ていて、その子もママを独り占めできたからか、ぴょんぴょんなわ飛びの真似をして、とてもうれしそうに跳ねていた。はずむ気持ちとはこのことだなと思った。
すごいね。かわいいね。たのしいね。いい日だね。
そんな言葉がたえまなく飛び交った一日だった。こんな日がずっと続けばいいと思った。
なにより、妹がとてもうれしそうだったのが、殊の外うれしかった。
妹は先に四人の子を育てていて、その誕生のたびに僕はぴかぴかの赤ちゃんに会わせてもらい、かわいいかわいいとはしゃぐことができた。ただかわいいだけでなく、妹の娘たちには、人生の難しい時期に心を救ってもらった経験もある。
今日、うちの赤ちゃんとはじめて会って、抱っこして、大はしゃぎする妹を見て、長年の恩返しが少しだけできた気がした。そんなふうにうれしそうにしている妹を見るのはずいぶん久しぶりで、それこそ子どもの頃以来だなぁとも思った。
汲めど尽きぬ愛情のことを自嘲して「〇〇バカ」と言ったりするが、僕の場合、それは兄バカからはじまっている気がする。それが叔父バカになり、夫バカになり、いまでは親バカになった。バカもここまで来ると筋金が入ってくるものだ。
帰宅して今日撮った写真を見返すと、妹は本当にいい顔をしていた。それは子どもの頃、兄として見ていた「あの顔」だった。結婚も出産も僕より早く、さっさと大人になり、コンドルみたいに強くなった妹。その頃から見られなくなってしまった「あの顔」。今日、ひさしぶりにそんな顔にしてあげることができた気がした。兄バカの気持ちがうんと満たされた。うれしくなって、たくさんの写真を LINE で送った。
この先どんなことがあろうとも、どんなひどい目に遭っても、今日、動物園に行って、妹によろこんでもらうことができたという事実は変わらない。それだけで不肖の兄としては、ほんの少し胸を張れる気がした。もちろん、それはすべて、赤ちゃんと妻のおかげなのだけれども。