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たそがれの海。

今日は珍しく、夕方に海まで散歩に行った。
日中は温かかったけれど、日が暮れるとそこに冷たい風が混ざってくる。海岸に近づくと風は特に強くなり、赤ちゃんの髪の毛をびゅんびゅん吹き飛ばして逆立たせた。

動物好きの赤ちゃんにとって、この日の散歩は大豊作だった。下流の鴨にはじまり、犬、猫(ボスとシロクロ)、カラスとたくさんの動物を間近で見ることができて大盛り上がり。

特に白いワンちゃんには飼い主の方のご好意で触らせてもらうことができ、「そっとだよ」と伝えると、やわらかい毛並みの間にそーっと手を置いていた。以前、猫の背中をぎゅっとつかんで逃げられたのをおぼえていたのだろうか。その後も強引に触ろうとすることなく、白く輝くふわふわの毛や濡れた鼻の頭をぽんぽんと触っていた。ワンちゃんは噛まないように訓練されているそうで、とてもおとなしく赤ちゃんの相手をしてくれた。

その方もそうだったけれど、夕暮れの海辺には、一人座って波間を眺める人たちの姿があった。僕たちが行った時間は日没にはまだ早かったけれど、オレンジ色の光が斜めに射し込んで、きらきらと海面に反射しとてもきれいだった。その水辺を見ながら、じっとしている人たち。

鴨たちがいた下流には、ガードレールに座ってじっと水面を見ている女性がいた。もう鴨たちはそこにいない。見ているのは海ですらない。もしかしたら、水面も視界に入っていないのかもしれない。なにを思っているのだろう。ちょっと話しかけられないような雰囲気の横顔を横目に見ながらあいさつはせずにすれ違う。人生にはいろんな事があり、その女性にもたぶんいろんな事がある。その内実を知ることがないまま、僕たちはすれ違う。僕が知るのはこの世に生きる人の人生のごくごく一部にすぎないのだと思う。

朝は柵に座って世間話をするおじさんや空手の型を練習したり、ウォーキングに励んだりしているおばさんがいて、これから一日がはじまるいきいきとした感じがあるのだけれど、夕方の海はしんみりとしている。風が強かった海をはなれ、家に着く頃にはすっかり陽も落ちて、夜の気配がしていた。

そんな文章を書いていたら、たったいま、妻の携帯に着信があり、希望を出していた保育園の入園が内定したと連絡があった。大好きな園。両手を挙げて喜ぶ。ちょっと涙が出そうになった。妻は泣いていた。お祝いにこれから寿司を食べに行く。

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澤 祐典
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