はじめてのギター

はじめてのギター。

それは、昨日の夜。
なんとなく気分が晴れなくて、僕は児童館でギター弾いていた。

すると、一番上の姪と同じくらい、10才ぐらいの女の子が三人やってきて、平均台にちょこんと腰かけて、演奏を聴きはじめた。

「なにをしてるの?」
「ギターを弾いているんだよ。」
「なんの曲?」
「いまつくってる曲。」

弾き終わったら拍手をくれたりして、すこし照れ臭かった。

しばらくそうしていたら「弾きたい」というので、ギターを手渡した。
ギターは彼女たちの身体よりずっと大きくて、立てて持つことはできない。でも、三人ともお琴みたいに抱えて、すごくうれしそうにしていた。

ピックの持ち方とドレミファソラシドとか、そんなことを教えたけれど、それよりも弦をはじいて音が鳴るのがうれしそう。

「金属と金属のあいだを押すと、音が変わるんだよ」というと、さらに目を輝かせた。

彼女たちは、ビヨンビヨンと代わる代わる弾いていた。
「曲ができた」といって、しいたけの歌をつくったりもしていた。
左手でコードをおさえることはできないから、音はずっといっしょなんだけど。

途中、いちばん熱心に弾いていた女の子が

「これ、何点?」

ときいてきた。

「ぜんぶ100点だよ。こうやって面白い、きれいだねって言ってるうちにうまくなっていくんだよ」

と、自分はできなかったけれど、そうあったらいいなと思うことを吹き込んだ。ますます目が輝いたので、このくらいの魔法はいいだろう。

そうしてしばらく三人で交代に弾いたり、弦を押さえて音が変わるのを楽しんだりしていた。汗だくになるくらい一生懸命だった。

楽しそうな様子を眺めながら「本当にこれだけなんだよな」と思った。

手取り足取り教えてもらわなくても、こうやって「ここがきれい」「これ面白い」ってやっているうちに、だんだんうまくなっていく。そのうちに必要な筋肉も発達してきたりする。

ただ純粋に「弾きたい」「きれい」「面白い」と思って、それだけをやっていることの強さを見た気がした。

そんなわけで昨日の夜、期せずして、彼女たちの「初ギター」の場に立ち会うことになった。

名前も知らないおっさんが、名前も知らない女の子たちのギターデビューを見届けることになったわけだ。出会いってそんなもんかもしれない。

彼女たちが大きくなって、やがてガールズバンドかなんかをやりはじめるかは、知らない。でも、なんかいい仕事したかも、と思った。

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澤 祐典
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