どうして、人として?
このところ、赤ちゃんはずいぶん長くしゃべるようになった。
ちょっと前まで「うーうー」「ギン!ギン!」だけだったのに、最近はなにかを説明するように一分以上ずっと話している。そこにいる、見えない誰かに伝えるみたいにして。
赤ちゃんはまだ知り合いが少ない。会ったことがあるのは、産院の先生、助産師さん、親族、友達、先輩、そして、僕と奥さん。全部で十人いくかいかないかだ。
でも、これからたくさんの人に出会い、勉強したり、趣味ができたり、部活をしたり、恋をしたり、仕事をしたり、いろんなことをするんだよなぁ。そう思うと、抱っこをしているこの腕の中にあるのは、無数の出会いであり、無限の未来であるかのように思えてくる。
宮崎駿監督の映画『君たちはどう生きるか』にワラワラというキャラクターが出てくる。生まれる前の魂とされ、飛ぶ(生まれる)ためには魚の内臓を食べる必要がある。天敵はペリカンで、食べられてしまうと、生まれることができない。
赤ちゃんもちょっと前には、このワラワラみたいだったんだろうか。
どうして、人として生まれてこようと思ったのかな。
なんで、うちに来ようと思ったんだろう。
人として生きることは楽しいことばかりじゃない。苦しいことだって、腹立つことだって、泣きたくなる日だっていっぱいある。でも、ワラワラはそんなこと、なんにも知らないような顔をして、空へ飛んでゆく。赤ちゃんもいま、なんにも知らないような顔をして、楽しそうに毎日をすごしている。
生まれてきてよかったな。あるいは、
このために生まれてきたんだ。
というようなことに、たどり着ける人生だといいね。
そのために赤ちゃんは、あんなにたくさんしゃべって、元いた世界の仲間たちになにかを伝えているのかもしれない。
僕もなにか、手伝えることはないかな。
気が早いかもしれないけれど、そんなことを考えている。