亡くなった後まで大事にされる。
かつて勤めていたディズニーランドには「スポンサー制度」というのがあって、施設ごとに企業のスポンサーがついていた。
カリブの海賊はキリン、モンスターズ・インクはパナソニック、センターストリート・コーヒーハウスはUCCといった具合に。そして、施設の壁面にはそれぞれの企業ロゴが掲示されていた。
それと似た光景を、思わぬところで見た。
高野山奥の院。
弘法大師空海が56億7千万年後に弥勒菩薩とともによみがえるまで、修行を続けているとされる御廟、お墓である。
ここは霊園になっていて、ものすごい数のお墓がある。
織田信長、豊臣秀吉、武田信玄、上杉謙信といった戦国武将や、法然上人、親鸞聖人といった有名なお坊さんたちもここに眠っているという。
その中に、企業の名前を冠したお墓があった。
ひと際目立つロケットのお墓は、兵庫県にある新明和工業、靴下の福助は、あの福助人形が彫られ、ぺこりと頭を下げている。
キリン、パナソニック、UCCといった先のスポンサー企業のものもあった。UCCのお墓にはカップが添えられていて、中には珈琲色の石が敷き詰められているらしい。
高野山はディズニーランドではないのだけれど、壇上伽藍といい、奥の院といい、見てまわる感覚はとてもよく似ていた。テーマパークにバックグラウンドストーリーがあるように、高野山には由緒がある。テーマパークのテーマはフィクションだけれど、こちらは史実だ。
そんな面白さとともに、感心したことがある。
それは「亡くなった後まで従業員を大事にしよう」という企業が存在することだ。
社会人になってもうすぐ二十年になるが、こんな話は聞いたことがなかった。年老いた従業員はリストラだったり、役職定年だったり、出向だったりと寂しい晩年を迎えるものだと思っていた。
たくさんの人が訪れる場所だから、ディズニーランドでそうするように企業名を知ってもらう目的もあるのかもしれない。それでも、亡くなった後まで大事にしようという姿勢はいいなあと思う。そういう思いのある会社とそうでない会社では、居心地も違ってくるだろう。
いまの価値観からすると、死んだ後まで会社とつながりがあるのは嫌だと思う人も多い気がする。でも、縁というのは、そういうふうに簡単に切ったりつないだりできるものではないのかもしれない。
終身雇用がなくなり、大半の職場がお金を稼ぐか、自己実現のためだけに時間を費やす場となったいま、いるときも、いなくなった後も大事にされる大きな家族みたいな関係が、途絶えず続いていることには希望を感じる。
むしろ、いまは家族でさえお墓参りや供養をしなかったり、生きているうちにいがみあったりしているから、こうした企業は余計に希少かもしれない。
誰かとつながって生きていくことには面倒も多い。
お墓参りや供養だって、手間がかかる。
でも、その労を惜しまず、敬意をもって付き合える関係がなくなってしまうのは、なんだか悲しいことだものね。