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おめでとうの歌。

いつのことだか 思い出してごらん
あんなことこんなこと あったでしょう
うれしかったこと おもしろかったこと
いつになっても わすれない

昨日の夕方、赤ちゃんと靴箱のふたでいないいないばあをして遊んでいるときに、ふとこの曲を思い出した。芹洋子さんの『おもいでのアルバム』。これから小学生になる園児に向けた卒業の歌だ。

赤ちゃんが通う保育園が決まった。
妻が区役所から内定の連絡を受けたのがおとといのことで、その日はスシローでお寿司を食べてお祝いをした。

でも本当は妻の電話から漏れる声を聞いてバンザイしているとき、僕の背筋には冷たいものが走って、それはギクッとかゾッとする感じに近かった。心のなかには「おめでとう」「よかったね」だけでなく、なんだかさみしいような気持ちもあったし、この先の暮らしが変わっていくことへの不安も億劫さも、それ以外の言葉にならないような気持ちもたくさんあった。

それはいまも変わらない。むしろ日を追うごとになんだかどんどんさみしさが増しているように感じる。

赤ちゃんが生まれて育児休暇をとって、家族三人で暮らす毎日。
それはいままでの人生でいちばんと言っていいほど穏やかでしあわせな時間だった。毎日「かわいいなあ」と言いながら赤ちゃんを眺め、成長して変化するのをずっとそばで見ていのは本当に楽しかった。

もうすぐそれがなくなる。赤ちゃんは長い時間、保育園で過ごし、僕たち夫婦はその姿を見ることはない。僕らはばらばらでいることが増える。それが成長というものだし、入れることになった保育園は第一希望の大好きな園だし「入りたい」と申し込んだのは僕自身だ。「入れなかったらどうしよう」とずいぶん心配していたのも僕。なのに実際決まってみると、こんなにもさみしいものかと思う。

珍しく雨降りの今日、午前中から子どもプラザに行って、たまたまスタッフの方から「育休はいつまでなんですか」と聞かれた。それも二人から、別々のタイミングで。その流れで赤ちゃんが行く保育園が決まったことと育休が終わることを話す。二回同じ話を口にしてみて「本当にそうなるんだなあ」と自分で自分に確かめる。

「よかったですね、奇跡的なことですよ」
「この時期に入れるのは、四月より落ち着いていていいですね」
そう言われて「よかったです」と反応しつつ、同時に子どもプラザに頻繁に来ることもなくなるのだなあと思う。「おめでとうございます」に「ありがとうございます」と応えながら、もう少しだけこのままでいたい気持ちになってくる。

一年じゅうを 思い出してごらん
あんなことこんなこと あったでしょう
桃のお花も きれいに咲いて
もうすぐみんなは 一年生
もうすぐみんなは 一年生

『おもいでのアルバム』より

『おもいでのアルバム』は、おめでとうの歌なのになんだかさみしい。でも、その胸がきゅっとする感じがいいなあと思う。

昨日の夕方、赤ちゃんといないいないばあをしながら、僕はちょっと泣きそうになるのをごまかすため、靴箱のふたで顔を隠した。「いないいない」のときに涙が引っこむのを待てば「ばぁ」のときには笑顔でいられる。

親の気持ちというのは、もしかしたらそういうものかもしれない。
子どもの成長はいつだってうれしいし、いつだってさみしい。

うれしかったこと おもしろかったこと
いつになっても わすれない

涙が出てきそうになるので、もう一度、靴箱のふたで顔を隠す。
「いないいない」でさみしさを隠して「ばぁ」で笑う。

もうすぐ赤ちゃんは 保育園児
もうすぐ赤ちゃんは 保育園児

おとうさんは、ちゃんと子ばなれできるかしら。

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澤 祐典
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