大事にする_

大事な一日。

日本の新しい元号が「令和」に決まった頃、僕は愛知県岡崎市にいた。

友達のよしみんが「影舞の種〜花の宴」という会を開いてくれて、それに参加したのだ。

これがまあ、本当に楽しかった。

まず、なんたって、桜がきれい。

空もあざやかな青の快晴で、暖かくてとても過ごしやすかった。

それに「おかず一品持ち寄り」にしたごはんの豪華なこと!

僕は料理をする人ではないので、ふだん好んで食べているレトルトのお魚を持っていったんだけど、他の人のはとんでもなかった。

生麩の揚げ物、キッシュ、甘〜いさつまいも、白あえ、やわらかチャーシュー、さらによしみんのお手製のパン......etc.

ホテルのバイキングでもちょっと出てこないような超豪華メニューに「これ三食食べたいわ」と思いながら、がつがつ食べた。

で、その隣りでは仲良くなった小さな女の子が、同じようにがつがつパンをほおばっていた。

この日の特徴は、子どもも参加していたこと。
大人はたしか11人くらいいたけれど、そこに幼稚園から小学校低学年くらいの子どもがわんさか。

この子たちがいたことが、いつもに輪をかけて楽しい場にしてくれた。

「影舞の種」なので、この日も影舞の先生として、くにちゃんこと橋本久仁彦さんがいらしていたのだけれど、子どもたちはそんなことお構いなし。

話の途中で騒ぎ出すわ、新しい遊びを思いつくわ、話しかけてくるわ、イカのつまみを口にいれるわ。

「鬼ごっこしよう」「あっちにいこう」とワークショップ中にもひっきりなしに誘ってくる。

で、実際、途中ちょっと抜けた。
すると、ずいぶん遠くまで走っていって、川に水をひたして「つめたい〜」なんて言って。

ワークショップをしている同じ時間に、別のところではこんなことが起きている。その当たり前のことに、学校の授業をサボるような清々しさも感じて、楽しい抜け駆けだった。

影舞をしている最中も、指先で小石を挟んでたらぱあーんとはたき落とすし、「水がほしい」とせがむし、腕のあいだを何度もくぐるし、僕はダウンジャケットのフードを被せられた。

でも、ぜんぜんいやじゃなかった。
むしろ、その予想外のアクシデントが面白かったし、大人たちも負けてはいなかった。

何度でも小石をもって影舞を再開する。
工夫して、手の届かないハイポジションからはじめたりもする。

あるお母さんは抱っこしている子がずり落ちそうになりながらも、懸命に指のあいだの動きをたどっていた。僕はペアの相手だったので見られなかったけれど、そこにはその方の力強さが現れていたそうだ。

そんな影舞をしながら「なんか、これがお母さんなんだなあ」と思った。
子どもがいつも自分を意識している存在。それがお母さん。

影舞をしていようが、いまいが、ぜんぜん一人にはしてくれなくて、でも子どもとだけいるわけでもなくて。大変なんだけど、力強い。

それに、そんなふうにひっきりなしにやって来る子どもたちではあったが、影舞中、ある一線は越えなかったように思う。

別に誰が叱ったわけでもないし、実際、誰も怒っていなかったと思うけれど「ここからは入っちゃいけない」という境界線のようなものを子どもたちはちゃんとわきまえていたような気がする。

だから、大人たちの真剣さが投入された影舞は、その子たちの関わりを包み込むようにして、破綻することなく進んでいった。

くにちゃんは、ある時からミニカウンセリングのことを「未二観」と呼ぶようになったけれど「未だ二つになっていないもののゆくえを観る」という感じがちょっとわかったような気がした。

母と小さい子どもは、未だ二つになっていないのだ。
子どもの声や関わり込みでその人という感じで。

そんなわけで、ワークショップに出たり入ったり、子どもたちからのさまざまなツッコミがあったり、たった数時間のことなのに、ものすごくいろんなことがあって、思いっきり遊んだ感覚があった。

そうそう、川に落としてしまったサッカーボールを取って、向こう岸の子どもに投げたのだけれど届かなかったときの岡崎城内に響く「ああ〜〜〜」という落胆の声も忘れられない。

すごくたのしかった。

「大事にされている」「そばにいる」
それさえあれば、頭なんてよくなくても、子どもはちゃんと育っていく。

そのようなことを、くにちゃんは話していた。
昨日重たいことを書いた後だったから、なんかそれも希望のあることだった。

最後に輪になって話をしていたときに、あるお母さんが「らくになった」と言った。僕も会場に着くまではずいぶん重たいことを考えていたのだけれど、はじまってしまうと悩みはフッと消えていた。不思議だった。

それにしても、最後の締めのところをくにちゃんがしゃべろうとしたときに、女の子が必死に口をふさぎにいったのは面白かったなあ。

その動きは

「まことのことを口にしてはならぬ」

と言っているようにすら見えた。

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澤 祐典
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