生きててよかった

生きててよかった。

そんなことって、あるのだろうか。

次回、11月24日の開催にあたり、以前『魂うた®️』に参加してくれた人に「感想や後日談を聞かせてくれませんか」とお願いしたところ、滋賀の白澤裕子さんが文章を寄せてくれた。

そこに「とりわけ印象深いのは、お腹が大きなときに歌った『深夜高速』」とあって、そのときのことを思い出した。

白澤さんは大阪に住んでいた頃の友達で、もう長い付き合いになる。
三回目に『魂うた』に参加してくれたときには、妊婦さんになっていた。

おなかが大きかったので、とても気を遣ったのをおぼえている。

妊婦さんなのに、その日彼女が選んだのは、バリバリのロックナンバー、フラワーカンパニーズの『深夜高速』。『魂うた』する彼女のいろんな歌を聴いたけれど、ここまでロックなのは、はじめてだった。

そのときに関わった感じや気迫みたいなものは残っていた。
けれど、肝心の歌詞を忘れてしまっていた。

それで、検索してみて、震えた。

生きててよかった 生きててよかった
生きててよかった そんな夜を探してる

この歌を唄ったとき、おなかの中にいた赤ちゃんは、先天性の心疾患、複雑心奇形という難しい病気を抱えて生まれてきた。

白澤さんは母になると同時に、お子さんの病気とも向き合うことになった。

その時期、僕は大阪から名古屋に越してしまっていて、いっしょにいなかったから、どれほどの苦労があったかは分からない。ただ、時々フェイスブックで知らせてくれる近況から、大変さは伝わってきていた。

そして先日、彼女はフェイスブックでこんな投稿をしていた。

わたしは絵を描いています。
わたしの絵を見て、癒される、と
よく言われるのですが、
その意味もよくわかりませんでした。

娘のはじめての大きい手術の日、
早産だった上、生後1ヶ月と
小さかったので、成功するかどうか、
本当に難しいということでした。

待っている間、はじめて色がない、
味がないという感覚を体験し、
これを
生きた心地がしない
というのだと知りました。

深夜をまわってようやく無事
手術が終わったと連絡があり、
暗い廊下を面会にいきました。

それから、何ヵ月も
その集中治療室に通いました。

廊下には、
虹色の壁画が描いてありました。

どっしりと根をはった
大きなマングローブや
海、魚や、生き物たちの絵。

わたしは、自然を感じる
その絵が大好きでした。

誰にも辛い気持ちを
吐き出せないことに
苦しんでいるときも、嬉しいときも、
いつも隣にいてくれて、
寄りかかってすごしました。

【痛んだ人、辛い人に、
 そのまま寄り添ってくれる、
 アートの底力】

はじめて知りました。

そしていま、白澤さんは、病院を訪れる人たちと共にいる絵「ホスピタルアート」を描きたいと語る。

助けになりたい、
とはちょっと違って。

病院で病気とともに
すごしている人たち、
子どもたちと一緒にいたいというか、
ただ、その場にいたいなっていうのが
一番近いかもしれません。

そして、
絵を描いて誰かとつながることで、
わたし自身も癒していきたい、
という意味もあるかもしれません。

いつか、わたしの絵が一緒に
いさせてもらうことができたら、
と思い描いて、
この投稿をしています。

彼女の描く絵の印象と、白澤さん自身の雰囲気と、ホスピタルアートとがあまりにぴったりで「天職とはこういうものか」と思った。

絵がいるべき場所を見つけた、と思った。
そして「人生って、そんなふうになっていくんだ」と震えた。

検索画面に映った「生きててよかった」という歌詞を見て、最初に感じたのは、実は「こわい」という感覚だった。

あまりにもその後の白澤さんの人生に符合していたから。

もちろんそれは人生の采配であって、『魂うた』とまっすぐに結びつけるのは提供者のエゴだろう。でも、それにしても。

そんなことって、あるのか。

あの日の僕たちは、そんな意味で「生きててよかった」と唄っているとは知らなかった。でも、そこには深い意味があった。

すご。こわ。
こういうのを畏怖というのだろうか。

自分がなにをしているのか知らないというのは、つくづく恐ろしい。
でも、白澤さんの人生が大きく展開し、いま、大事なものに向かっていることは心からよかったなと思うし、きっとホスピタルアートまでの道を見つけるんだと確信している。

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澤 祐典
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