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はじめての保育参観。

今日は初の保育参観日。赤ちゃんを保育園に送るため、夫婦ふたりとも自転車に乗り、肌寒い早朝の街を駆けた。

朝寝坊気味だったので、始業5分前に到着。園の前にはたくさんの車が列をなし、駐車場の順番を待っていた。玄関には大量の大人の靴が並んでいる。僕たちの他にもたくさんの親御さんが来ているのだ。すごいなぁとつぶやきながらクラスに入り、担任の先生に赤ちゃんを預ける。赤ちゃんはしばらく状況が飲み込めていなかったようだけれど、僕たちと離れることに気づいて泣いた。

今日はクラスルームの窓に青みがかった透明フィルムのようなものが貼られている。これがマジックミラーの役割を果たし、部屋の中から外はわからないが、外からは中の様子が見られるようになっている(らしい)。親の姿を見つけてしまうと、子どもの集中が途切れたり、泣いたり、ふだんの保育の様子が見られなかったりするため、こうしているという。

フィルムごしに覗くと、赤ちゃんはしばらく泣いた後、担任の先生のそばで泣きやみ、それからは一人で階段にのぼったりして遊んでいた。

それを見ているだけで、訳もなく感激した。これはどういう心境だろう。赤ちゃんが生まれてから感じるようになった、ごく当たり前のことに心底感激してしまう気持ち。

すこし経つと、お気に入りのK先生がやってきた。赤ちゃんはK先生にアピールするように近づいていく。K先生のほうも赤ちゃんになにか話しかけたり、頷きあったりしている。「本当にすきなんだねぇ」と隣で妻が言う。

朝から何も食べていなかったので、一旦、園を出てコメダ珈琲でモーニング。それから再び保育園に戻ると、あいかわらず赤ちゃんはK先生にベッタリだった。

薄青いフィルムごしに携帯を構えている親御さんがいたので、僕も真似してスマホで撮影。見えづらいがなんとか映せる。そんなことをしていると、赤ちゃんと目が合った気がした。「目が合った」と奥さんも言う。

直後、赤ちゃんはすごい勢いで泣きはじめた。フィルムで見えないはずの僕たちの姿がどうやら見えてしまったらしい。しまった、と思い、あわてて視界の外に出るが泣きやまない。K先生が抱っこして赤ちゃんを一生懸命なだめていた。いらぬ苦労をさせて申し訳なく思った。

参観は11時半までで、そろそろ帰ろうかと話していた矢先に食事が運ばれてきた。昼食だ。今日できれば食事をしているところを見たかったので、もう少しだけいさせてもらうことにした。

先生方に案内されて、赤ちゃんは自分の定位置であるちいさな椅子にちょこんと座った。以前見て感動した景色のままに。

そこで自分の食事が運ばれてくるのを待つ。お茶を注いでもらい、ごくごくと飲む。空っぽになると机の上でごろんごろん転がして、先生にそれはしませんとたしなめられている。うんうん、わが家とおんなじ。

この日はたまたま完了食のできあがりが遅く、他の子が食べている中、赤ちゃんはしばらく待たされることになった。それでも泣いたり騒いだりせず、じっと座って待っている。先生方も飽きさせないようにお茶を注いだり、話しかけたりして相手をしてくれている。

やがて、赤ちゃんの前にも食事が並べられた。献立表によると、今日は雑穀ごはんとおでんとほうれんそうの和え物を食べているらしい。リッチ。赤ちゃんはわが家でそうしているように手づかみでどんどん食べていた。

見るべきものは見た、と思い、妻と合図して園を出る。

ちょうど一年前のいま頃、僕たちははじめてこの保育園に見学に来て、同じように窓からクラスルームの中を見ていた。うちの赤ちゃんがここに入って、こんなふうになるなんて信じられない、と思って見ていた。

一年後の今日、その景色の中にわが子がすっかりなじんでいる。先生たちに甘え、おもちゃで遊び、ごはんを食べている。当たり前のように赤ちゃんの生活がそこにある。運が良かったなあと思うし、月日の流れとはすごいものだとも思った。

赤ちゃんが泣いていたとき、視界から離れようと上級生のクラスも見に行った。赤ちゃんのクラスルームより机がいっぱいあり、お菓子をつくったり、絵を描いたり、ほうきで掃いたりと家事に近い活動をしている子どもたちがいた。歩くスピードも速い。赤ちゃんのクラスが一般道だとしたら、こっちは高速道路のよう。

「うちの子がこんなふうになるなんて信じられない」
一年前と同じことを今日も思った。でも、これまでそうだったように、やがてその日は来るのだ。

ただそこにいて、遊んで、おしゃべりして、泣いて、食べていた赤ちゃん。それを見ただけなのに心がいっぱいに満たされた。関わることなく外から見るだけなんてつまらないかと思っていたけれど、どんな映画より見応えがあった。これは親ならではの感覚なのだろう。

ホクホクしながら妻と自転車を漕ぎ、スシローに行こうとした途中で海鮮丼屋さんを見つけた。そこは以前、妻が行きたいと行っていた場所だった。そこでぷりっぷりの刺身の乗った海鮮丼を食べて、大満足で帰宅。さて昼寝でもするかという今である。ほんと、いい時間だった。いい夢が見られそうだ。

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澤 祐典
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