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白雪おじさんと海のどうぶつたち。

今朝の海辺には、猫にエサをあげているおじさんがいた。おじさんの周りにはいつも会っているボスとシロクロらしき猫がいる。

おじさんに聞くと、彼らの本当の名前は「モドキ」と「ビッタレ」だと教えてくれた。ボスっぽいけどボスではないのが、モドキ。ビッタレは、いま調べたら山口の方言で無精者という意味だった。山口弁の名前をもつビッタレが、ここ福岡の海で暮らしているのは面白いなと思った。

おじさんは「ちゅ〜る」という液状おやつのほかに、さきいかと煮干しをお皿に入れ、猫たちに与えていた。猫それぞれに好みが違うのだという。と、そこへ黒猫のクロもやって来た。彼はカリカリが好きらしく、今日は用意がなかったのでおじさんの手を噛みそうになっていた。およそ人からものをもらう態度とは思えないが、猫はいつでも気高く生きている。

縞模様の見慣れない猫もやって来た。シマ子といってビッタレの子だと教わる。おとなしい猫で赤ちゃんに背中や顔を撫でさせてくれた。赤ちゃんは今日もぎゅっとつかんだり、毛をむしったりすることなく、やさしくぽんぽんと猫に触っていたが、食べている最中の顔に触ろうとするので途中から明らかに嫌がられていた。なにごとも学習である。

僕たちのいる岩場と反対側の柵には、カラスが止まっていた。おじさんによると、猫たちの食べ残しを狙っているのだという。わざわざクチバシを突っ込んだりせず、気長に順番を待っている。余計ないさかいは避ける姿勢に好感がもてた。最初は怖いと思っていたカラスもだんだん怖くなくなってきた。赤ちゃんは猫と同じように背中に触ろうとしたが、さすがにそれは止めた。

おじさんの周りには動物たちがいっぱいだった。映画『白雪姫』でこんなシーンがあったなあと思い出す。森の動物たちに囲まれて、お姫様が歌ったり踊ったりする素敵なシーンだ。おじさんは歌ったり踊ったりはしなかったけれど、動物たちに慕われているその様は白雪姫と同じだった。僕たちも踊ればよかったのかもしれない。

そこから海の奥まで行って引き返しての帰り道。おじさんはすでにいなくなり、猫たちだけが岩場や道の真ん中に残っていた。カラスは悠然と空を飛んでいる。赤ちゃんはふたたび猫に触ろうと両手をあげて近づいたけれど、どの子も嫌がって柵の向こうに逃げてしまった。

パーティー・イズ・オーヴァー。白雪おじさんのいない海は、魔法が解け、動物が元の暮らしに戻った海だった。

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澤 祐典
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