ちいさな国際交流。
昼過ぎの子どもプラザは、いつも人が少ない。どのおうちも昼ごはんのために家に帰っているからだろう。
うちは大抵その時間に着く。赤ちゃんは空いていて広々としたプラザ内を悠々と遊んでまわる。
今日到着したとき、プラザには僕たちを含めて3組の親子がいた。
そのうち一組は外国人の親子。額にほくろがあるからアジアのどこかの国の人たちだろう。お母さんと男の子の二人で来ていて、男の子はやんちゃそうに走り、お母さんはやや疲れた表情をしている。
僕は外国の人を見ると、すぐ「仲良くなれたらいいな」と思ってしまう。なぜそう思うのか自分でも不思議なのだけれど、つい姿を目で追ってしまう。でも、受付の名簿に書かれていた男の子の名前はアルファベットのはずなのにどう読むのか分からかったし、親子の会話も知らない単語が飛び交っている。ハードルは高そうだ。
ああ、外国語の習得を趣味にしておけばよかったなあとこんなとき思う。特に何に使うわけでもなく普段からいろんな国の言葉を勉強することが習慣づいていて、さっと「あ、これは何語だな」と分かる程度になっていたなら。そして、片言でいいから現地の言葉で「こんにちは」と話しかけることができたなら、こういうとき、どんなに喜んでもらえることだろう。
でも、僕は学校で習った英語しか知らない。距離も離れていたからそのアジア人の親子とは接することなくしばらく過ごしていた。
遊びはじめて 20分ほど経った頃、赤ちゃんがお気に入りの木のおもちゃのところに移動した。四つん這いの赤ちゃんと同じくらいの高さがあって、舟やクッキーのかたちのおもちゃをレールに置くと、斜めに走りながら下まですーっと滑り落ちていく。最近、赤ちゃんはレールに物を置くことができるようになり、このおもちゃにハマっている。
赤ちゃんが繰り返しおもちゃを滑らせていると、そこにあのアジア人の男の子がやってきた。赤ちゃんはお母さんのほうをじっと見つめている。「Hi !」と呼びかけられ、赤ちゃんは手を振って「きらきら」でこたえた。
それからしばらく、その子も含めて木のおもちゃで遊んだ。二人ともクッキーのおもちゃが好きらしく、途中で取り合いになり、おもちゃを奪われた赤ちゃんはやや悲しそうな顔をしていた。北斗の拳のケンシロウみたいな顔だった。でも、あまり引きずらないタイプらしく、諦めて別のおもちゃを手にとっていた。えらい、と思った。
その後、子どもたちは木のおもちゃからクッション素材の階段へ移動。そこで僕はついにお母さんから話しかけられた。
「How old ?」「1year 1month」
「Does he walk ?」「Not yet」
僕はだいたい二語文しか話せないけれど、なんとか会話が成立した。それで気をよくして、男の子の様子を見ながら「So cute」とか「Like cookie」とか適当な英語のあいづちを挟んだりしていた。
ほんの少しの、ちいさな国際交流。でも僕は大満足だった。
帰り際、また赤ちゃんと男の子が木のおもちゃで遊んでいたので、立ち去るときに
「I'm glad to talk with you, thank you」
とお母さんに伝えた。英作文を書くように何度も頭の中で考えてから言った。二語文じゃなかったからずいぶんたどたどしかったと思うけれど、なんとか通じたらしい。お母さんはちょっと恥ずかしそうにしながら、丁寧にお辞儀を返してくれた。微妙にぎこちない空気が流れて、一瞬後悔したけれど言えてよかったと思うことにした。
赤ちゃんはなにも気にせず、また男の子とクッキーのおもちゃの取り合いをしていた。そして家に帰って、いつも通りおっぱいを飲んですぐに寝た。