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コップで水を飲む。

赤ちゃんが「ふしぎなコップ」で水を飲めるようになった。

「アフォーダンス」という難しい理論によると、環境は人間(動物)に対して、特定の行為や知覚を促しているという。例えば、椅子は人に対して「座る」という行為を、床は「立つ」という行為を促しているのだそうだ。

その意味でいうと、このコップは買ってから一ヶ月近く「水を飲む」行為を促してきたのだけれど、赤ちゃんはそのメッセージを受け取ることができなかった。転がしてみたり、底を舐めてみたり、高いところから落としてみたり、いろんな使い方はするものの「水を飲む」には至らない。

それが続いて、ふしぎなコップはだんだん使われなくなり「これは失敗だったかな」と妻が思いはじめた今日。粉ミルクの缶を持ち上げ噛むしぐさを見て、おやと思い、コップを渡したところ、僕らの知る「コップで水を飲む」動きが現れた。一度分かると、その後は自分でごくごく飲めるようになった。

なにかができるようになる瞬間は、それまでの赤ちゃんと新しい赤ちゃんの間にいつもちょっとした飛躍がある。ふだんの動きの中に突然まったく新しい動きが顔を出すのだ。それを目撃すると毎回感動してしまう。

それに「コップ=水を飲むもの」と決めつけている僕たちと違って、赤ちゃんはありとあらゆる使い方をする。コップに対して自由なのだ。だから、コップを与えたら飲むだろうという期待は簡単に裏切られて、思いも寄らない動きに翻弄される。

もしかすると、コップが発する促しを受け取れていないのは、僕ら大人の方かもしれない。コップは実は「転がして」「舐めて」「ぼくを落として」と言っているのかもしれないなと赤ちゃんを見ていて思う。

同じようにこの世界の、身のまわりの環境は、まだ知らない行為を僕らに促しているのかもしれない。赤ちゃんのように自由な頭になって、よく耳をすませたら、その環境の声が聞こえるようになるのだろうか。例えば、視界の端に映るペン立ては、僕になにをせよと促しているのだろう。

そんなことを考えていると、人生を好転させる鍵が身近などこかに眠っているように思えて、ちょっと楽しくなる。

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