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のび太のおじさんと心の柵。

毎朝歩く海までの散歩道に松林と舗道を隔てる柵がある。
その柵には、時々カラスが留まったり、下を抜けて猫が林に入っていったりしている。猫を追いかけるよう僕をせっついた赤ちゃんが追跡を諦めるのもここである。

その柵の前でいつもおしゃべりをしているおじさん達がいる。歳は60代か70代くらいだろうか、すでに仕事は引退されているように見える。

三人は毎朝、柵に腰掛けて楽しそうに談笑している。なんの話をしているかは分からないけれど、笑いが絶えない。

その姿は空き地の土管に座って野球の話をするジャイアンとスネ夫とのび太に似ている。太ってもいないし、メガネをかけているわけでもないのに、なんとなくジャイアン、スネ夫、のび太と見分けがつく。歳をとってもこんなふうに仲良くできる友達がいるのはいいなと思いながら毎回すれ違う。

そのうち、のび太に似ているおじさんは、いつも「おはよう〜」と言って、ニコニコしながら赤ちゃんに手を振ってくれる。でも、赤ちゃんはピクリとも動かない。

たぶん、このおじさんへの対応が赤ちゃんの一番の塩対応だと思う。毎朝毎朝、のび太のおじさんはニコニコで手を振ってくれるのに、赤ちゃんは無反応。

今日など気まずく感じた僕が横で手をキラキラさせたのだけれど、それにも反応しなかった。他の人のときなら一緒にキラキラしてくれるのに微動だにせず、ただじっとのび太のおじさんの顔を見ている。まるで、おじさんと赤ちゃんの間に見えない柵があるかのよう。その柵は高く揺るぎないものに感じられた。

この三人組には行きも帰りもすれ違った。すれ違うたび、ジャイアンにあたるおじさんが「いつもあんたの顔みてる。知能指数が近いんや」とのび太のおじさんをからかった。のび太のおじさんはちょっと照れ臭そうに、うれしそうに笑ってまた手を振るが、やっぱり赤ちゃんからは相手にしてもらえなかった。気まずかった。

なのに、赤ちゃんはその後すれ違った女子高生二人組には「あー!」と自分から声をかけに行っている。なんてこったい。のび太のおじさんに見られなくてよかった。さすがに気の毒なので、そろそろあのおじさんにも手を振り帰してあげてほしい。そんなことを思う父なのであった。

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澤 祐典
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