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ドラゴンクエストクエスト。

ドラゴンクエスト(以下「ドラクエ」)といえば中学生の頃、5時だったか6時だったか、まだ夜が明けない寒い早朝に、厚着をしておもちゃ屋の外に並んだことを思い出す。販売整理券をもらい、手袋に白い息を吐きかけながら開店を待つ間、ひたすらワクワクしていたし、家まで大事に持ち帰ったカセットを箱から取り出し、ファミコンに挿してスイッチを入れた瞬間、あのオープニング曲が流れたときの高揚もなんとなく覚えている。ごはんも食べずにやり続け、親に嫌な顔をされたことも。

数あるドラクエシリーズの中でも社会現象となった「Ⅲ」のリメイク版が先週発売された。やったことのあるゲームだったから、発売日には「ふぅん」という感じでやり過ごしていたのだけれど、妻と話しているときに明らかにドラクエの話題が増えていた。次第に妻から「買えば?」と言われるようになった。

そして日曜日、いつも楽しみにしている『オードリーのオールナイトニッポン』で若林さんがドラクエの話をしていた。家電量販店に買いに行ったとき、周りが同世代のおじさんばかりであったこと、その誰もがニコニコして列に並んでいたこと、Switch 版を買ってドトールではじめたときにオープニング曲を聴き入ってしまったこと。若林さんの話を聞いているうちに、僕も子どもの頃の記憶がよみがえり「欲しい」と思ってしまった。

翌月曜日の午前中、僕は妻と赤ちゃんを連れて、ドラゴンクエストⅢを探す旅に出かけた。妻が戦士で、赤ちゃんはスーパースター、僕は遊び人。あまり戦闘向きでない、変わった編成のパーティーだった。

僕は赤ちゃんの「うーうー」という声もオープニング曲に聞こえるほど、ウキウキしていた。頭の中ではその日のお昼、 Switch にカードを挿し、目をキラキラさせながらドラクエをする自分の姿がはっきりと見えていた。

まずは発売日にドラクエⅢが置いてあったゲオに向かう。けれど、あの日とは違い、コーナーには「Switch 版は売り切れ」という札が出ていた。PS4 版もダウンロード版もあるのに、僕が欲しい Switch 版だけがない。「この間あったんだから行けばあるだろう」と高をくくっていたが、空振りだった。

少しがっかりしていた僕に「ミスターマックスに行ってみようか」と戦士の妻が声をかけてくれた。それで元気を取り戻し、僕たちはミスターマックスのおもちゃコーナーに向かった。ゲオよりは多少高くなりそうだが仕方がない。今日やりたいのだ。ダウンロード版だってあるわけだし、そんなに急になくなることはないだろう。

しかし、そこで僕たちを待ち受けていたのは「Switch 版は売り切れ」の札だった。これはもしかすると、本当にバカ売れしているのかもしれない。令和の時代でもドラクエはドラクエなのだ。

一度、家に戻り、妻と話し合って、午後から博多駅のヨドバシカメラに向かうことにした。近所のゲオやミスターマックスになくても大きめの家電量販店ならあるかもしれないと思ったのだ。

地下に降りるエスカレーターに乗り、ゲームコーナーに向かう。Switch の赤に染まった派手なコーナーにゲームが所狭しと並んでいる。ここならば、と思ったが、どこを見てもドラクエⅢだけが見当たらない。店員さんに尋ねると「Switch 版は売り切れです」とのこと。平台に陳列されたたくさんの PS4 版を悔しい気持ちで見つめながら撤退。最後の望みの綱である天神のビックカメラにも見に行こうかと思ったが、体力がなくなって、この日のクエストは終了となった。

家という名の宿屋に帰り、ネットで検索するとアマゾンでも楽天でもSwitch版のドラクエⅢは売り切れていた。リメイク版なのにすごいなあと思いながら、高揚した気持ちを鎮める。価格コムのページだけ時々見るようにして、ドラクエ熱は一旦冷ますことにした。クリスマスプレゼントかなにかにすればいい。

ところが昨日の夕方、赤ちゃんと散歩に出てなにげなくゲオに立ち寄ったところ「Switch版は売り切れ」の札が「新品あります」に変わっていた。「!!」と思ったが熱は冷めている。「買うか?」と心に問いかけ「買う」というのでレジに持って行き、キャッシュレスで支払い、赤ちゃんが暴れるのでかばんにも入れずそのまま手で持ち帰って妻に見せびらかした。妻はあまりに呆気ない決着に「これなら月曜日にクエストしなくてよかったかもねえ」と呆れていたけれど、万歳する僕の写真を撮ってくれた。

あの早朝のおもちゃ屋に並んだときとはなにもかもが違う。並ぶ必要はなかったし、支払いはキャッシュレスだった。袋は有料だし、なによりあの頃は妻も赤ちゃんもいなかった。

けれど、僕はまたドラクエを手に入れることができた。

あの頃と違うことはまだある。
それはいま(11月23日17時)現在、まだドラクエⅢをやっていないということだ。今日は妻が保育園でつかうものを準備するため、僕と赤ちゃんは子どもプラザに出かけていたのだ。その後はこうして文章を書いて過ごしている。

それでも心は満たされていた。
僕はドラクエⅢを持っている。それだけでなんだかしあわせだった。
こうして、ドラゴンクエストクエストは、エンディングを迎えた。

そして妻に「この記事、赤ちゃん関係ないやん」と言われた。まったくその通りだった。

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澤 祐典
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