スターとリスペクト。
健康ランドの 歌謡ショーで
還暦すぎた スターが歌う
まだまだ売れる気だ
ちっとも衰えちゃいない スター
前傾姿勢の 曲がった腰で
ひょこひょこ歩く その身体の
いったいどこに そんな力があるのか スター
若い子と同じように 手売りで CD を売って
写真に映ったりして 頭を下げている
俺はうぬぼれた ハナタレ坊主
みっともないと 斜に構えてる
爪の垢でも 煎じて飲んでおけよな
そーっと上から のぞき込んで
日和見決めこんでるだけじゃ
本当に大事なことなんか
なーんもわかりゃしないんだよ
草葉の陰から めかし込んだ
しゃれこうべが嗤う
お前ら若僧の やわな耳には
あたいのソウルは シゲキが強いかもな
健康ランドの 歌謡ショーで
還暦すぎた スターが踊る
執念深さは 燃える愛の火か スター
今日、とある健康ランドに行って、歌謡ショーを観た。
浴衣に着替えて、ひとっ風呂浴びて、いい気分で宴会場に入ると、大きな緞帳が上がり、還暦をすぎた二人組が現れた。
ザ・ピーナッツの『恋のバカンス』からはじまり、昭和の名曲をメドレーしていくが、最初は観ていてすこし恥ずかしい感じがした。一青窈の『ハナミズキ』を歌っているときには、きれいすぎるビブラートが若い世代の曲に合わない感じもした。
けれど、八代亜紀の『氷雨』からオリジナルの曲に移ると、グッとギアが入った。そして、その頃になると、やや斜に構えていた自分の姿勢がぐっとのめり込んでいるのか分かった。
二人はかつてテレビに出ていたらしい。MCによると母と同じ年齢だった。
にもかかわらず、声はのびやかに出ていたし、ダンスも(ステップは古いが)軽やかだった。
いつのまにか、僕たちはそこに「華」を観ていた。
ステージが終わると、宴会場の隅にテーブルがセットされ、CD の即売会がはじまった。そこで手売りで CD を売るらしい。
「誰も来なかったらどうしよう」といらぬ心配をしたが、若い頃テレビで観ていたというファンが何人か近づいて、CDを買い、彼女たちとにこやかに写真を撮っていた。
なんかすごいもんだな、と思った。彼女たちの歌や手売りをする姿勢からは「まだまだ売れる」という執念のようなものが伝わってきた。
実際にこの日、健康ランドに集まった人たちは、彼女たちの歌をしっかり楽しんだ。プロだ、と僕は思った。
即売会が終わって、トンテキ丼をほおばっていると、自室に戻るために二人が通りがかった。
腰が曲がり、ひょこひょこと歩いている。まるでおばあちゃんだ。
その身体であのステージをこなしていたのか。
「すごくよかったです!」という奥さんの声を「あらそう」と軽く受け流して、スターは颯爽と歩いていった。
自分に足りないのは、ああいう感じだ、とつくづく思った。
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