どんなふうに歌ってきたのか

僕はどんなふうに歌を唄ってきたのか。

あの歌は、なんだったんだろう。

先日、友人の結婚式で、歌を唄わせてもらったときのことを、いまだに思い出している。

直接聞いたわけではないけれど、会場にいたみんなが、仲間のみならず、見ず知らずの列席者やスタッフさんまでもが、喜んでくれた歌だった。

仲間たちは、

「我らが澤ちゃんだよ、だろ!だろ〜〜〜〜!ってニッコリしたよw」

「思ったよね、我らがゆーすけだぞ、って!」

と思ってくれたらしい。それも僕にとっては未体験のことだった。

とてもうれしかった。

もちろん、歌の前に結婚式があって、みんなが感動して涙して『魂うた®️』的な一体感が生まれて、本質に近い場所にいたに違いない。ステージがよかっただけ、と言えばそうだ。

さらにその日は「僕のための歌」ではなかった。
友人のお祝いという意味と、本来歌うはずだった幼なじみの代役という二つの意味で。

だからそれは、運良く発生した一度きりの出来事だったのかもしれない。

でも、そう思うには、あまりにもよすぎた。
「歌うこと」で役目を果たせた手ごたえは、僕にとってとても新しく、大事な発見だったのだ。

できるものなら、再現したい。
エゴかもしれないけれど、そんな気持ちが残っている。

そんな折、職場で若いスタッフの作文をみることがあった。
文章を書くのは好きだから、文のつなげ方や内容について嬉々として教えた。

そのときに、僕はこんなことを言っていた。

「文を書くことは究極的には自分と対話することで、書くとまだ知らなかったことが分かったりするんだよ」

なるほど。

その言葉に自分で説得されてしまって、なんのためかは分からないけれど、もう一度、自分がどんなふうに歌を唄ってきたのかをたどってみることにした。

以前にも振り返ったけれど、そこに見つけ損なったヒントがあるような気がして。

僕は小さい頃から、目立つ子どもだった。
級長になったり、鼓笛隊のリーダーになったり、合唱コンクールで太鼓の役に選ばれたり。

写真は、卒業生を送る会で送辞を述べているところ。
歌っているわけじゃないけれど、人生を通して、こんなふうに集団を代表して大勢の前に立つシチュエーションが多い。

それがなぜかは、分からない。

その頃、僕はヤマハ音楽教室に通っていて、こんな歌を唄っていた。

もしなれるんなら
林檎の花になっちゃおう
あの枝いっぱい 
ぼくは咲いて
ママのおしごと
みていてあげるよ

でもママがいくら呼んでも
ぼくは知らないよ
しらんぷりさ

当時、NHKの「みんなのうた」で流れていた「しらんぷり」という曲。
作詞は、林権三郎さん、作曲は、小六禮次郎さんだそうだ。

小六さんは女優の倍賞千恵子さんの旦那さんであり、ドラクエのすぎやまこういちさんの弟子にあたるそうだ。一方、林さんについての情報は全くない。

歌詞もそうだけれど、メロディに乗せると、さらに切なさが鮮明になる。
死のにおいが濃厚なこんな曲を、どうして「みんなのうた」で流そうとしたのか。

そして、この曲をなぜ幼い僕に唄わせたのか。
僕だったら、かなしすぎるから止めると思うのだけれど。

よく分からない。たまたまかもしれない。

以前、僕は「誰かに認められるために歌っていた」という趣旨の記事を書いた。でもよくよく考えてみると、歌ったときの記憶ってほとんどない。

唯一、鮮明にあるのが、この「しらんぷり」の記憶だ。
そのときの透き通るような高音の感じも、いまだにおぼえている。

そして母が涙ぐんでいたのも。(人づてに聞いたのかもしれないけれど)

たぶん、このときは、褒められるためには歌っていなかったと思う。
ただ透き通る筒のような感じで、意味もよく分からないその歌を「通して」いたような感覚がある。後付けの記憶かもしれないけれどね。

きっとたくさんの歌を口ずさんだであろう幼少時代で、記憶に残っているたった一曲。

この「しらんぷり」がどんな意味をもっているのか。

僕の手相は生命線が短いこともあって、ときどき「自分は早くに亡くなってしまうのではないか」と心配することがあった。

おかげさまで、健康に40代を迎えているからそれは杞憂といっていいのだと思うけれど、いまこうして「しらんぷり」を取り上げているときにも、なんだかこわいなあという感じがする。

とても鮮明なのに、意味が定かではない「しらんぷり」の記憶。

それが歌うこととどうつながるのか。
書いている今のところ、僕には分からない。

(つづく?)

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澤 祐典
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