雨の土曜日には。
2月1日。今日はわが家にはじめて訪れた雨の土曜日である。
もちろん、いままでにも土曜日に雨が降ることはあった。今日がいつもと違うのは、二人とも仕事がある雨の土曜日だったからだ。
二人とも仕事がある雨の土曜日には、僕が朝早く起き、始業までに赤ちゃんを保育園に送り、仕事を途中で上がって赤ちゃんを迎えに行かなければならない。しかも雨だから電動自転車「アリエル」は使えない。バスで行くしかない。バスが遅れたら始業に遅刻するかもしれないし、保育園の閉園に間に合わないかもしれない。
不安だったので、前々から何時のどのバスに乗るかは調べていた。でも、1月の土曜日はたまたま妻の仕事が毎週休みで、僕が迎えに行く機会はなかった。というわけで、今日がはじめての雨の土曜日になったのだ。
この ”オペレーション・サタデー” を乗り切れば、とりあえず保育園送迎への不安はなくなる。昨日はより入念に経路を確認し早めに寝た。
朝6時起床。いつもより30分早い。すぐに圧力鍋を火にかけ、ごはんを炊きはじめる。同時にお弁当のウインナーをボイルするためのお湯を沸かしはじめる。
身じたくを終えた頃に鍋に圧力がかかりはじめたので、火を弱めてタイマーを三分にセット。ウインナーのお湯がいい具合に沸騰したので、妻と二人ぶんのウインナーを投入。こちらも三分測る。「黄金の三分ボイル」というらしい。
それらが終わったら、弁当箱にごはんとおかずを詰める。同時に自分の朝ごはんの餅を茹でる。餅を投入するコーンポタージュの粉末も用意する。
そうこうしているうちに妻と赤ちゃんが起きてきた。二人ともいつもより早い。検温や着替えを妻に任せ、僕は自分の朝ごはんをつくって食べはじめる。
その後、赤ちゃんのごはんも済ませ、出発予定時間ぴったりに家を出ることができた。今日はいつもの駅前のバス停ではなく、すこし遠いバス停まで歩く。ちょうどいい時間のバスがないからだ。15分近い道のり、いつもほど寒くないのがありがたい。
定刻より前にバス停に到着し、ほっと一安心。バス停の真ん前にローソンがあるので、そこで暖をとりながらバスを待つ。バスアプリで検索すると「10分遅れ」だという。もうちょっとのんびりしててもよかったか。
何台か見送った後にお目当てのバスが来た。間違いなくこのバスかと確かめてから乗車。ひとつひとつの動作がはじめてなので、いちいち緊張が走る。座席に座っても、いつものルートなのになんだか落ち着かない。帰りは大丈夫かしらとまた経路を検索してしまう。
保育園に無事到着。いつもより早い上に赤ちゃんがウンチをしてしまったようなので、申し訳ないと思いながら見知らぬ保育士さんに預ける。赤ちゃんもいつもと勝手が違うせいか、泣く暇もなくあっけにとられていた。
さあ職場に行くぞ。なにで行こうか。再びバスアプリを開くと、始業にちょうどいいバスはない。となると、徒歩か、ジョギングか、LUUP か。
まだ雨が降っていなかったので、LUUP を選んだ。ポートに並んでいた何台かの中から急いで選んだ電動キックボードは、インジケーターの部分に鳥のふんがついていたけれど、快適だった。職場近くの返却ポートまで約10分で到着。よかった、なんとか間に合いそうだ。
それから一日働き、同僚よりすこし早く上がらせてもらう。余裕をもって出たつもりが、傘立てに朝置いたはずのビニール傘がない。あちこち探したあげく、結局、傘立てにある数本の中から、使ってなさそうな黒い大きめの傘を拝借した。外は横なぐりの雨。さすがに手ぶらで赤ちゃんと歩くわけにはいかない。
思いのほか、時間をロスしたので走ってバス停に向かう。今度乗るバスもはじめて乗るバス。バスアプリが手放せない。
バスが来た。ほぼ時間通り。このバスに乗れば、保育園に遅れることはまずない。一安心したが、使ってなさそうと思っていた傘に「70センチ」というシールが貼ってあることに気づく。こんな大きい傘を持っていそうな人に心当たりがあったので、職場と傘の持ち主と思われる人に LINE して謝る。なにしろこんなどしゃぶりの日に他人の傘を持って出てしまったのだから。
バスを降り、保育園に着くと、担任の先生と赤ちゃんが笑顔で迎えてくれた。心がほころぶ。軽口をたたきながら赤ちゃんを抱っこひもに入れて、前掛けをかけて外へ出る。
雨脚が強くなってきた。強風にあおられ、斜めに雨が吹き込んでくるので、他人の大きめの傘も前掛けも役に立たない。こりゃいかんと思い、セブンイレブンへ避難。バスアプリで検索すると、帰りのバスまでしばらく時間があるようなので、意味もなくコンビニの中をうろうろする。
遅れるかなと思っていたバスがほぼ定刻に到着。長く待たされずに済んでよかった。ずぶ濡れの傘と前掛けを適当な場所にずらして、赤ちゃんと座席に座る。降車ボタンを押したがってぐずる赤ちゃんをなんとかいなしながら、最寄りのバス停まで頑張る。
で、家に着いて、赤ちゃんのごはんとお風呂を済ませて、授乳してようやく寝てくれたのが今。”オペレーション・サタデー”はなんとかうまくいった。かなりの爽快感と達成感を感じている。
ちなみに帰宅後、拝借した傘の持ち主は、僕のビニール傘を持っていった人物と同一であることが判明。数本の中から勘で選んだ傘がちょうど入れ替わりになった偶然に驚いたし、お互い第一声で「ごめんなさい!」と言い合ったのも面白かった。