アニメ映画の“問題作”を語っていく話〜原作者激怒編〜
急に寒くなってまいりやしたね。
12月ですから当然っちゃ当然なのですが、正直言って僕はこの時期が一番嫌いです。まず野球がやってない。それなのに仕事は忙しくなる。それなのに寒い。時には雪が降って歩くのに大変苦労する…良い事が1つもない季節ですわ(笑)
そんな忌まわしい冬という季節でも楽しみはございまして。春から秋にかけては夜の時間の大部分を野球観戦に取られてしまうわけなんですが、冬だとこれが一気に暇になる。
例えば気になっていたアニメや映画などを観たり、ちょっと創作活動などをしてみたり、没頭できる時間を作れるわけです。
観る作品の傾向はその年によって変わるわけなんですが、今年はちょっと自分のアニメ趣味を深掘りしてみてます。
僕は今までアニメをストーリーでしか追ってこなかったんですよ。「それでいいだろ」と思ってきましたし最近まで特に疑問も覚えなかったのですが、ここ1〜2年くらいで少し考え方が変わってきましてね。
例えば僕が元々好きだったこの作品なんですけど。
うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー
1984年の作品ですね。当時大人気だった『うる星やつら』の劇場版2作目。監督はテレビシリーズの監督もされていた押井守さんで、この作品は後のアニメクリエイターや著名人に大いに影響を及ぼしました。
ストーリーの説明を致しますと、主人公である諸星あたる達は学園祭の前日、準備に追われながらいつものドタバタ劇を繰り広げています。それだけならばいつもの光景なのですが、徹夜して翌朝になっても学園祭は始まりません。
毎日学園祭の前日が繰り返されている事にキャラクター達が気付き始めるんです。
しかも脱出しようにもあたる達の街・友引町はいつに間にか大きな亀の岩の上に乗せられ宇宙を漂っている事を知り、更には主要キャラ以外の人間が忽然と街から姿を消してしまっているわけです。
果たしてあたる達はこの状況から脱出できるのか。一体誰が仕組んだ事なのか…というのが大きな流れになっているわけなんですが、僕がこの作品を最初に観たのが大体15年前でありまして、この当時はストーリーを追うので精一杯でそれ以上の事に関心を向ける余裕がありませんでした。
というのもこの作品、オールドアニメファンの間では有名ないわくつきの作品でございまして。いつかのnoteでも書かせていただいたのですが、原作者である高橋留美子先生がこの映画を観て激怒されたらしいんですよ(笑)
詳しい話は検索したらいくらでも出てきますが、要するに自分が描いていた『うる星やつら』とあまりに解釈が違っていたからという話なようで。
そもそも『うる星やつら』は作家性やメッセージ性などを排除したドタバタギャグ漫画です。宇宙からやってきた美少女ラムが浮気性の高校生・あたるに一目惚れし、いろんなキャラクターを巻き込みながら非日常的な出来事が起こってしっちゃかめっちゃかになるという、1話完結型の作品なんですね。
本当何も考えずに観れる良い作品なのですが、『ビューティフル・ドリーマー』で押井監督が入れたのは「ドタバタギャグのネタ化」でした。
漫画って、大きく分けて2種類あると思うんですよ。1つは1年毎にキャラクターがちゃんと歳を取る漫画。そしてもう1つが、何年経ってもキャラクターの年齢が変わらない漫画。
『さよなら絶望先生』でネタにされていましたが、ギャグ漫画って基本的に延々同じ学年のまま連載が続いていくじゃないですか。それってよく考えてみると変なんですが、僕らはそれを「でも漫画だし」で処理している。
実際その通りですし深く考える必要もないんですが、押井監督はそこに目をつけられたわけなんですね。
年齢だけではなく、例えば「壊れた建物が次の話では直っている」だとか「3階建てだった建物があるコマでは4階建てになっている」だとか、「キャラクターがいきなり瞬間移動したように現れる」だとか、『うる星やつら』でも日常的に使われていたギャグ漫画のお約束。それを押井監督は『ビューティフル・ドリーマー』で徹底的にストーリーに落とし込んだわけです。
いわば『うる星やつら』という作品を使って、『うる星やつら』そのものをネタにしてまったわけですね。
だからこそ『ビューティフル・ドリーマー』はアニメ映画界の名作と呼ばれる出来になったわけですが、同時に原作者を怒らせてしまったわけです。
この映画がきっかけで押井監督はテレビシリーズの監督を降板。以降『機動警察パトレイバー』に携わるまで表舞台から姿を消す事になったわけです。
高橋留美子先生と押井監督が揉めたというのは15年前に観た時から知っていたわけですが、肝心の“なぜ怒ったのか”がよくわかっていなかったんです。しかしこの作品のストーリー意図を理解する事でようやく高橋留美子先生の怒りの意味がわかったと、ここ1〜2年でようやくストーリーだけを追っていてもダメだという事に気付けたんですね。
今回はこのようなストーリーだけでは評価しきれないアニメ映画をもう1作品ご紹介させていただきます。
本当は何作品か語ろうかと思ったのですがなんせ語りたい事が多すぎる(笑)なので今回は『原作者激怒編』。近いうちに『監督鬱状態編(仮)』をやろうかと思います。
今回語るもう1つの作品がこちらになります〜。
きまぐれオレンジ☆ロード あの日にかえりたい
1988年の作品ですね。前年に放送されたテレビアニメのヒットを受けて制作された映画です。
『きまぐれオレンジ☆ロード』は何個か前のnoteでも描いたのですが、『うる星やつら』と同じく原作は特にこれと言ったメッセージ性のないラブコメ漫画です。超能力者である事を隠しながら生きている主人公・春日恭介は、引っ越した街でヒロイン・鮎川まどかと出会います。
2人はすぐに仲良くなるのですが、翌日転校した学校で待っていたのは孤高の一匹狼としてクラスで浮いているまどかの姿。
そこでまどかの二面性を知った恭介はまどかに惹かれていくのですが、同じタイミングでまどかの妹分であるもう1人のヒロイン・檜山ひかるに惚れられ、三角関係がスタートするわけです。
まどかが好きだが積極的にアプローチしてくるひかるちゃんも無碍にできない恭介。恭介の事が好きなのに大事な妹分のひかるちゃんの手前、素直な気持ちを出せないまどか。
こういう関係性を軽妙に描き、ギャグやエロを織り交ぜながら原作者のまつもと泉先生は週刊少年ジャンプにて『きまぐれオレンジ☆ロード』を4年ほど連載されておりました。
その連載が終わる頃にテレビアニメがスタートし人気を博し、翌年に『あの日にかえりたい』が作られたわけなのですが…。
これも『ビューティフル・ドリーマー』と同じような顛末になってしまったわけです(笑)
監督は望月智充さん。ジブリで『海がきこえる』の監督をされたり、僕が好きなのだと『ヨコハマ買い出し紀行』のOVAであったり、いろんな作品に携わっていられる方ですね。
海がきこえる
突然ですが僕、望月監督って天才だと思ってるんですよ。
とにかくキャラクター描写が凄まじい。キャラクターの行動意図を納得できるように描いてますし、しかもそれをセリフでは説明しない。あくまでキャラクターの表情とか行動で説明しきっていて、なかなかそこまで作り込んでいる監督さん見ないよなと。
『あの日にかえりたい』も間違いなく名作です。高校3年生になった恭介は未だに三角関係を辞められずにいるのですが、ある夏の日、自分の部屋に招き入れたひかるちゃんにキスをされ、それを受け入れてしまいます。
2人がキスをした事をひかるちゃんから聞かされたまどかは嫉妬し、恭介を遠ざけてしまう。
それがきっかけで一時はひかるちゃんとの仲が深まり、今度は自分からキスをしたりするのですが、夏祭りの晩、まどかが泣きながら電話してきた事で状況は一変。
「あたし、そんなに強くない…」泣きながらそう言われた恭介はまどかに告白をし、ひかるちゃんと別れる決心をつけるわけですが、ここまでが前半パートでございまして。映画の後半はひかるちゃんとの別れ話になるのですが…。
原作の最終巻でも最後はひかるちゃんと別れまどかとくっつくんですけど、わりとスッキリ身を引いてくれるんですよ。でも『あの日にかえりたい』では真逆でして。
ひかるちゃん、ストーカー化します(笑)
まず恭介が「もう2人で会うのはやめよう」と別れ話を切り出すのですが、当然ひかるちゃんは納得しません。
「私先輩がまどかさんの事好きだって知ってたもん。でも逆転できたと思ってた」
まあこういうわけですが、恭介に「鮎川の事が好きなんだ」と言われた時のひかるちゃんの顔がこちらになります。
驚かないわけですね。この時ため息まで吐くんですが、「知ってた」って事なんです。
原作やテレビアニメ版ではひかるちゃんは徹底的にコミックリリーフの役割を与えられています。
ひかるちゃんは結構神出鬼没なキャラでして、いつも「ダーリン♡」と現れて恭介に抱きついてくる。なかなかにウザいんですが(笑)そこは彼女の可愛さと明るさでギャグっぽい空気にしてるんですね。
しかし『あの日にかえりたい』ではひかるちゃんのキャラクターが全部悪い方向に出ます。別れを告げられても納得できないひかるちゃんはしつこく電話をかけたり、待ち伏せしたりします。最初はなるべく傷付けないようにしていた恭介も次第に冷たく突き放したり無視するようになる。
最後には追いすがるひかるちゃんを無理矢理引き剥がし自分一人で去っていってしまうのですが、この部分だけ切り取るとまぁ〜クズなんですよ(笑)
そもそもまどかが好きでありながら積極的に求愛してくるひかるちゃんを断りきれない男なので原作からしてクズなのですが、それでも原作ではひかるちゃんを気にかけたり喧嘩したら追いかけて仲直りしたりする優しい面も持っていると。
しかし『あの日にかえりたい』の望月監督はこう投げかけていらっしゃるんですね。
それ、本当の優しさなの?
原作では少年誌のラブコメなので濁してますが、どっちつかずのままなあなあで過ごしていくって正直罪じゃないですか。
当然まつもと泉先生もそれをわかった上で少年誌と割り切って描いていらっしゃったとは思うのですが、それでも三角関係に決着は付き物であると。
ひかるちゃんを置いていった後、恭介は一旦家に帰るのですがマンションの前で待ち伏せしているひかるちゃんを見つけ帰るに帰れず、近くのコンビニに避難します。
コンビニにいると大雨が降り出し、そこで恭介はひかるちゃんが家の前にいる事を思い出す。雨で帰るくらいなら最初から会いに来ないわけですね。
そこで恭介はコンビニに売られている傘に目をやる。原作の恭介なら迷わずひかるちゃんの元へと行っていたはずなんですが、恭介はここでグッと堪え、泣きながら呟くわけです。
「さよなら、ひかるちゃん…」
つまり望月監督はこれが本当の優しさだと仰っているんですね。野良猫に餌をやる程度の優しさをいつまでも向けているから関係が終わらないんだと。
本当にひかるちゃんの事を考えているのなら、自分が悪役になって恨まれてでも彼女を突き放し解き放ってやるべきだと。ひかるちゃんと付き合う気があるなら別ですが、恭介はまどかの事が好きなわけですから。
『あの日にかえりたい』の恭介は、いわば原作やテレビ版で積み重ねたツケを払っているわけですね。
こういったキャラクターの深掘りを望月監督はしているわけでございます。
恭介だけではなく、まどかやひかるちゃんに対しても同様です。映画の後半、ひかるちゃんは一度だけまどかの元を訪れます。
原作を読んでいない方の為に説明しておくと、2人はそれまで姉妹も同然の関係を築いてきたわけです。まどかは常にひかるを可愛がっているし、ひかるはまどかを尊敬している。
ですが同時に、恭介を取り合う仲でもあります。まどかは昔から自分の物であってもひかるが「それほしい」と泣けば譲ってあげるような子供でして、恭介に関してもひかるの手前自分の気持ちを言えないでいたわけです。
それでもさっき書いたように、『あの日にかえりたい』では泣き電話一発で恭介を落としてしまった。恭介が自分の事が好きだと気付いているわけですね。我慢が限界に達してそういう行動に出てしまったわけですが。
「わかったわひかる。ごめんなさい」
謝るまどかにひかるは怒ります。
「こんな時謝らないでくださいよまどかさん。まどかさん何もしないでズルいです!」
そう言われてまどかはひかるを睨みつけるのですが何も言えない。言われても仕方ない自覚があるからです。
つまり優柔不断な態度を取り続けていた恭介も悪いのですが、両想いだとわかっているのに黙ってひかるに譲るような真似をしていたまどかにも罪があるわけですね。
でないと我慢の限界になっていたとはいえ泣き電話なんか入れないんですよ(笑)
そういう、まつもと先生が描かないでいたまどかのズルい側面も丁寧に描いてるわけです。
それと同時に…すみませんね長々語っちゃって(笑)でもこれぐらい説明できるほど情報量の多い作品なんですよ!もう少しお付き合いください(笑)
話を戻します。それと同時にですね、まどかの睨みにはもう1つ意味がある。ひかるに対して無言でこう投げかけてるわけです。
「でもあんたあたしと春日君の仲知っててアプローチしてたんでしょ?」
さっき書いたように、ひかるちゃんは恭介がまどかの事を好きだと知っていたわけですね。にもかかわらずちょっかいをかけていた。原作では明るく描いているので気付きにくいですが、要するに略奪みたいなもんじゃないですか。しかも劇中でまどかと会うのはこのシーンが最後で、あとは延々恭介と寄りを戻そうとする。
姉のような存在のまどかより男を選んでるわけです(笑)
まどかも同じですし、もうドロドロの関係なんですよ(笑)この作品でひかるちゃんは可哀想な存在と見られがちですが、実際は恭介まどかと同様に罪な存在である。ただそのツケをそれぞれ払っているだけなんですよね。
最後に、これは完全に僕の妄想と言われても反論できないのですが、この映画を通してきまぐれオレンジロードファンにも投げかけてるんですよ。
というのも『きまぐれオレンジ☆ロード』って連載中まどか派とひかる派で分かれていたそうなんですが、圧倒的にまどか優勢であったと。ひかる派なんかほとんどいなかったらしいんですね。
つまり『きまぐれオレンジ☆ロード』のファンが望んでいる展開って、まどかが幸せになるルートであるはずなんですよ。
これは本当に僕の妄想であって、望月監督がそう思っていたとは言い切れないんですが、作品を観るとどうしてもこう言っているように思えて仕方ないんです。
あなた達が見たかったものの先にあるのはこれですよ。
結局まどかが幸せになる為にはひかるを捨てる他ないんですから。
…とここまで書いていても長かったですが(笑)こんなに深く掘り下げているのを鑑みるとやはり望月監督は天才であると言わざるを得ません。しかも当時29とか30歳ですから、それでここまでの物を作ってしまうのは凄いの一言ですよ。
しかし『あの日にかえりたい』は原作者であるまつもと泉先生を怒らせてしまいました。話は非常に面白いのですが、なんせ原作レイプもいいとこですから、怒るのも仕方ないというところでございます。
先程紹介した『ビューティフル・ドリーマー』が『うる星やつら』の仕組み自体をネタにしたのと同様、『あの日にかえりたい』も『きまぐれオレンジ☆ロード』の仕組みをネタにしてしまった。しかも仕方ないとはいえ限りなくバッドエンドですから、怒るのも無理ないです。
この作品、今日までDVD版ブルーレイ版が発売されておりません。まつもと泉先生がNGを出しちゃったんですよ。海外版は止められなかったのか出回っているのですが、ついぞ日本での販売を認める事なく10月にこの世を去ってしまわれました。
望月監督の追悼ツイートによれば、まつもと泉先生が『あの日にかえりたい』の制作を知ったのもだいぶ進んでからみたいなので、大分不憫というか今ではあり得ない事ですからねえ。
ただ作品としては本当に素晴らしいですし、キャラクターの掘り下げ、三角関係のネタ化に関してはストーリーでは測りきれない価値があると思うので、問題作であると同時に神作品でもあると個人的には思っております!
それでは今回は以上になります。アニメというものは本当に奥深いので、「なんとなく面白ければそれでいい」という意見ももちろん正しいですし否定はしませんが、例えば英語を理解した瞬間にただの雑音が意味のある言葉になるように、理解できた時の快感が半端ないんですよ。
これで興味を持ってくださったのなら嬉しい限りでございます。
そして『ビューティフル・ドリーマー』はYouTubeで有料で観れますし、『あの日にかえりたい』はまあ…頑張って探して観てみてください(笑)
それでは今回はこの辺で。今年はあと一回くらいは書いてみようかと思っております。それではまた。
追記
最後のシーンの解説を忘れてたので書いておきたいと思います。
ひかるちゃんが完全に振られて、エンディングテーマの『あの空に抱かれて』が流れた後ですね。舞台の主役に選ばれたひかるちゃんは見事役を演じきり、監督にも誉められ楽屋へと戻ります。
楽屋の扉を閉めた時、ひかるちゃんが突然カメラに向かって手をピストルに見立て、「ばぁん!」と言うんですね。
僕、ここ名シーンだと思ってまして。
というのもここってテレビ版の踏襲なんですよ。テレビ版は基本的に恭介がバカな事をするか巻き込まれてまどかにエッチな迷惑をかけてしまうという展開なんですが、まどかってどんな事をされても最後は笑って許してくれるんです。
これを映画ではひかるちゃんにやらせているわけですが、要するにこれはひかるちゃんからの「あんた達を許すよ!」ってメッセージなんですよね。
上でも書いたようにこの映画ってほとんどまどか派だったきまぐれオレンジロードファンへ、ある意味で現実を突きつけてるわけです。まどかばっか好きになってるけどそれだとこんな未来しか待ってないという。まどかが幸せになるという事はひかるちゃんが不幸せになるって事で、それを望んでいたわけではないでしょうが、無自覚であったと。
だからってこんな酷い仕打ちしなくてもいいだろとは思いますが(笑)それでもひかるちゃんは最後に笑って許してくれたわけですね。
そしてまどかと同じことをひかるがやったという事はひかるが失恋を機に大人になったという事であり、実はこの映画って最後ハッピーエンドで終わっている。
だから僕はこれを「アニメ映画史上最高のラストシーン」だと、そう思うんです。
どうしても書き残しておきたかったので追記致しました。それでは。
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