Re. フツーナノデアル怪獣
まな板に縛りつけておいて、勉強しなさいだとか、じっと座ってなさいだとか、そんなことされたら逃げ出したくなるもんさ。それは生物として正常な反射でしょ。
でも隣のあの子は従順で無表情で無気力なんだ。彼女の個性は一ミリも許されていないのに、それには何ひとつとして疑問を持ってないらしい。そんな死んだ魚の目をしてる彼女のことを大人たちは「ヨイコである」そうやって褒めたがる。
自分でいうのもなんだけど、ボクは自由で明るくて活きがいい。嫌なことはイヤと言えるし、好きなことだってスキといえる。けれどもそんなボクのことを大人たちは「出来損ない」そうやって鼻をつまんで弾くんだ。
ボクの学校は狂った養殖場。クラスのみんなが右を向けば、やっぱりあの子も右を向く。それがフツーなんだと大人たちはいうけれど、そのことがボクには苦痛でたまらない。
天動説も進化論もマスクもワクチンも、多数派が正義とはかぎらない。そこに従う義務なんてないはずなのに、みんなはみんなに従ってる不可思議に違和感も疑問も持ちあわせない。
みんなと違ってるからって不安に駆られ、お隣さんと同じでなければならないと焦ってはソワソワしてる。そこには自主性も主体性もなく、ただの反射だけで点滅するハリボテ提灯がぶらさがる。学校だって社会だってぜんぶそんな提灯まつりなんだ。
隣のひとがツバを吐いたら
自分もやっていいらしく
隣のひとが盗んだら
自分もやっていいらしい
隣のひとが平気なら
自分も平気ナノデアル
自分がみんなの一員であるまえに、自分が自分であることを放棄した人びと。猛毒サリンが撒かれたって、山頂からマグマが噴いてたって、津波が襲ってきたって構わない。みんなが逃げなければ自分も逃げないノデアル。
崖から飛び込んで全滅してゆく羊のムレとまるで変わらない。だから正常性バイアスは狂気に満ちていてとっても怖いんだ。
フツーっていったい何だろう。正常っていったい何だろう。それは数の暴力怪獣『フツーナノデアル』
ヤツは'右へならえ'が大好物で、ヤツは'みんな一緒'が大好物で、そうやって提灯を丸呑みにしてしまうのさ。
ボクにはやっぱり養殖場の水は馴染まないみたいだ。だからこうして海へ逃げることに決めたんだ。
♪ まいにち まいにち
ボクらは鉄板の上で焼かれて
イヤになっちゃうよ
ある朝 ボクは店のおじさんと
ケンカして海に逃げ込んだのさ ♪
大海原を行き交う波と波
途方もなく巨大な世界
だれもボクのことなど知りはしない
だれもボクのことなど構いやしない
それは まったく自由な世界
得るも自由 失うも自由
悦に浸ろうが 卑下に腐ろうが
そうさ すべては自分次第
♪ はじめて泳いだ海の底
とっても気持ちがいいもんだ
海は広いぜ心が弾む
ときどき サメに
いじめられるけど
そんなときゃ
そうさ にげるのさ ♪
ボクの住処はドヤ街だ
そんな社会のド底辺だって
ボクにとっては自由の楽園
たまにはチンピラに絡まれるけど
そんな時はウマく立ち回ってやる
だから毎日が楽しくてたまらない
生きてるって このことなんだ
それでも食っていかなきゃなんない
キツい仕事もやったさ
汚たない仕事もやったさ
キケンなんて知るもんか
そんなある日
でっかい話がまわってきた
ヤバい賭けだけどチャンスなんだ
娑婆のドン底から這いあがってやる
貧乏とは今日でオサラバだ
準備に余念はないぜ
バッチリ慎重にやってやる
計画も実行も完璧なはずだ
大丈夫 もう少しでおわるんだ
無事に帰ったら祝宴だ!
ガラガラガラ ガシャーン!
「罠だ!嵌められた」
ヤツだ ヤツが張っていやがった
ボクは羽交締めにされた
怪獣の剛力でむちゃくちゃに砕かれた
ボロボロだ 終わった…何もかも
どうせボクは養殖の魚
できの悪いハンパな温水育ち
所詮 あの小さな水槽がお似合いなのさ
悔しくて 悔しくて 悔しくて…
♪ どんなに どんなに もがいても
針がノドから取れないよ
やっぱり ぼくはタイヤキさ
すこし焦げあるタイヤキさ
おじさんツバを呑み込んで
ぼくを旨そうに食べたのさ ♪
〜 『およげ!たいやきくん』
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