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自律神経系のチューニング 〜迷走神経腹側枝の機能評価と可能性〜

迷走神経の歴史

少し長いですが迷走神経が誰が、どのように、どんな内容で医学分野に広まったかの歴史になります。

 迷走神経について言及した最初の記録は、ギリシャの医師クラウディウス・ガレノス(130-200)です。彼はローマ帝国に住み、けがを治療した剣闘士の迷走神経を研究し、またバーバリーマカクやブタの解剖などを実施しました。ガレノスは、何人かの剣闘士が迷走神経を切断されたときに特定の機能不全が起きたことを指摘しました。
 迷走神経に関するガレノスの記述は、彼の遺産のほんの一部でした。実際のところ彼の記述は、古代ギリシャから積み残されたあらゆる課題について、その半分は網羅しているといってもよく、彼の膨大な記述は、世に広がり、尊重され、1500年の以上の間、ヨーロッパ医学の基礎とされました。ガレノスの最初の探究以来、自律神経系はすべての医学教材に含まれ、多くの心理学者の原稿や本でも検討されています。
 何世紀にもわたって医師やその他の医療専門家はガレノスの観察を頼りにしたので、自律神経系は交感神経系と副交感神経系という二つの枝で構成され、どちらも内臓器官を神経支配する、と信じられてきました。この解釈によれば、交感神経系はストレス状態で活性化し、身体を闘争/逃走、そして必要なら凍りつきへと動員すると考えました。また、副交感神経系は、おもに迷走神経で構成され、リラックス、休息、回復を促進すると理解されていました。
(中略)
 前世紀までは、慢性的なストレスは、心臓病、喘息、糖尿病とその他の病気の原因の関連する健康問題を引き起こすと考えられてきました。したがって、迷走神経が十分に機能していて、リラックスできることは、健康の要と考えられました。迷走神経は、循環(心臓と脾臓)、呼吸(細器官枝と肺)、消化(胃、膵臓、肝臓、小腸)、排泄(大腸の上行結腸と横行結腸、腎臓、尿管)を司る内臓器官の適切なサポートをしていると考えられていました。
 「リラックス状態」の定義は普通、下行結腸、直腸、膀胱、尿管の下部へ向かう仙骨副交感神経経路の活動を含めます。これらの経路のいくつかはまた、さまざまな性的反応を可能にする生殖器を神経支配しています。「副交感神経系」の一部は、背骨の付け根の仙骨に由来する仙骨神経を含みました。迷走神経と共に、これらは、「休息と消化」あるいは「摂食と繁殖」として特徴づけられました。

からだのためのポリヴェーガル理論 迷走神経から不安・うつ・トラウマ・自閉症を癒すセルフ・エクササイズ より引用

ローマ時代ってすご…

1994年にステフェン・ポージェス博士が迷走神経の機能の新しい理解を中心に構成したポリヴェーガル理論を紹介するまでは、上記の内容が医学領域の自律神経系に関する一般的な理解。

そして、書籍を読んでいく中で自律神経系の研究の先駆者に対する尊敬と感謝が見え隠れする中で感じるかなりの衝撃的な一文…

 これらのすべての困難を考えると、ガレノスが迷走神経についての非常に多くの詳細を、このように正確に発見できたことは、注目に値します。しかし、理解できる失敗ではあるけれども、「迷走神経」の名を共有する二つの神経枝の区別の失敗は、何千年もの間、解剖学、生理学、心理学、医学の学生とプラクティショナーたちを誤って導くことになりました。

からだのためのポリヴェーガル理論 迷走神経から不安・うつ・トラウマ・自閉症を癒すセルフ・エクササイズ より引用

「迷走神経腹側枝と背側枝の機能は大きく異なる。」
それをより強く表現したいとの気持ちはわかるが中々のパワーワード…
ローマ帝国時代のブタなどの動物の解剖、現代と違い解剖設備の質、顕微鏡などの機器がない中では当然ではあるとの記載もある。

当たり前や常識という部分や情報に対して、どれだけ向き合えるかというのが重要な視点なんだなというのを再認識させてくれる。

医療系の国家資格を取得するために一般医学の基礎と呼ばれる分野を教科書から学ぶ…
メリットもあればデメリットもあるのかもしれない。

腹側迷走神経経路の評価

自律神経系の一般的な評価というと…

能動的起立時の血液の下肢滞留に対する自律神経反応による自律神経機能評価

自分が把握している範囲では心拍変動による自律神経系の評価が多く、病院勤務時代は計測しながらリハビリテーションを進めてくのはめちゃくちゃ難しくないか…
正直めんどくさいと思い諦めていた。
それが…

臨床において、特別な設備を必要とせず、時間もかけずに迷走神経機能を評価する方法があるのです。

からだのためのポリヴェーガル理論 迷走神経から不安・うつ・トラウマ・自閉症を癒すセルフ・エクササイズ より引用

まじか…
口蓋垂持ち上げテストによる迷走神経腹側枝の機能評価
注目するのは口蓋帆挙筋の機能。
作用としては口蓋筋の一つで、口蓋帆を上方へ上げる筋肉
嚥下の際、収縮により軟口蓋を上方へ上げることで、食物が鼻咽頭に入るのを防ぐ働きを持つとされる。

口蓋帆挙筋の口腔内解剖図
口腔内解剖学

・椅子に楽に座る
・喉の奥が見えるように口を開ける
・口蓋垂の左右にある口蓋舌弓のアーチを観察
*口蓋帆挙筋は迷走神経咽頭枝の運動神経支配のため適切に機能することで口蓋舌弓のアーチが持ち上がる
*片側の口蓋舌弓のアーチが下がっている場合に迷走神経腹側枝の機能不全と評価していく
・「ア」という声を出す時も口蓋帆挙筋が作用する
・「アーーーー」と長く引っぱる音では作用しないので、「ア、ア、ア、ア」短く切った音で口蓋舌弓のアーチが持ち上がるかを観察

実際の評価方法や項目のポイントは上記。

脳神経検査における迷走神経の検査

懐かしいけど脳神経検査で口蓋垂や舌の検査とかしたな…
当時はこれがヒトの自律神経機能に関わるなんて全然分からなかった。
脳血管障害による出血や梗塞により器質的な問題を評価するもので…
評価して陽性だったらどうしようもなく、機能そのものの回復というよりは今ある機能を落とさずに環境整備や介護の手助けをもらいながらどう生活していくかを考えていくのが主流だった。

だからこそ腹側迷走神経回路を構成する…

迷走神経腹側枝
三叉神経(第Ⅴ脳神経)
顔面神経(第Ⅶ脳神経)
舌咽神経(第Ⅸ脳神経)
脊髄副神経(第Ⅺ脳神経)

上記の支配するヒトの機能の箇所を評価するのは腹側迷走神経回路の評価につながっていく可能性がある。
先ほどの口蓋帆挙筋の迷走神経咽頭枝の運動神経支配の機能評価も…
解剖において、舌咽神経(第Ⅸ脳神経)と脊髄副神経(第Ⅺ脳神経)神経の両方の線維は迷走神経(第Ⅹ脳神経)の線維の中に織り込まれているとされる。

迷走神経の機能低下は舌咽神経と脊髄副神経の機能低下を引き起こす可能性。
またその逆も然りで舌咽神経と脊髄副神経の機能低下は迷走神経の機能低下を引き起こす可能性も…

楽しみとワクワクが広がる…


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