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「多文化共生」城に潜入する〜対話で鬼退治⁈〜

まくらの話

第二次世界大戦中、日本政府は、敵国であったアメリカ人やイギリス人を「鬼畜米英」と呼び、アメリカ人やイギリス人が「人」ではなく「鬼」「畜生」であるかのように宣伝していたようです。
日本人とは目の色や顔の骨格が異なり、今ほど街中で見かけるような存在でもなかったでしょうから、「鬼」と言われても「そうなのかもしれない」と、「恐れ」の感情を持って受け入れられていたのかもしれません。

そもそも「鬼」とは何か。
作家の京極夏彦さんは『鬼談』刊行時のインタビュー(2015年)の中で次のように表現しています。

それは超自然的な怪物でも、角を生やしたキャラクターでもない。日常にふいに姿を現す、甚だしいもの、凶暴なものの集合体。わたしたちの心の中にもきっと眠っている、とても恐ろしい何ものか

ダ・ヴィンチWeb「新刊著者インタビュー」

そんな「とても恐ろしい何ものか」というイメージは、「米英人」=「鬼」というイメージにうまく合致していたのでしょう。

今年2025年は戦後80年。2023年末の在留外国人数は前年比10.9%増、過去最高を更新しています(出入力在留管理庁R6.3.22記者発表資料)。

そんな現代では、さすがに外国人を「鬼ではないか」と思うほど「わからない」存在ではなくなっているかと思いますが、未だ声をかけるのはちょっと躊躇する、「小鬼」くらいのイメージは残っているかもしれません。

「恐れ」を無くすためには「わからない」を軽減することが必要です。外国人と日本人とが集い、おしゃべりするような場があちこちで行われれば、外国人のことが「わかる」第一歩になるでしょう。
とはいえ、私の住む人口170万人の都市で行政がそのような場を作っても参加できるのはほんの一握り、砂漠に水をまくようなものです。

外国人と日本人との交流の場づくり

そこで、外国人と日本人とで構成する10数人の企画メンバーを募り、数回のワークショップを経て、50人が参加して、各国の料理を食べたり、歌を歌ったりする交流会を開催しました。

ネパールの歌で踊る参加者の皆さん

企画メンバーの日本人は、単に外国人交流に関心があるという人だけでなく、日頃から地域活動をしている方々を中心に声をかけました。彼女/彼らは、自ら地域行事を企画し、実行している人たちです。

みんなで各国の料理を食べようという企画の中では、ネパールの餃子「モモ」や、ベトナムのおこわ「ソイ」、そして日本からは・・・地域のイベントでいつも作っているという「おでん」!昆布だしの染み込んだ大根や卵などに、外国人参加者の皆さんも何度もおかわりするほど人気でしたよ。

おでんの振る舞い

地域で環境活動をされている方は、災害時にも役立つ「新聞スリッパづくり」を企画。新聞紙でスリッパを作る映像を見て、日本人も外国人もお互いに「次はこっちを折るんじゃない?」と一緒に教え合いながら作業することで、いつの間にか心が通い合います。

新聞紙でスリッパ作り

企画メンバーは、本当に楽しそうに企画を考え、実行していました。もちろん交流会に参加した(企画メンバー以外の)日本人も外国人も、工夫を凝らした手作り感満載のイベントに、みんな笑顔で楽しそう。3時間という時間もあっという間でした。

このような場づくりで重要なのは、その場に参加した一人ひとりが、皆、主体的に参加できるようにすること。ファシリテーションは「スキル」という側面もありますが、最も大事なのはこのような「姿勢」です。そのために知恵を絞り、心を尽くすと、その思いは参加者に伝わるものです。

「場づくり」の先にある「人づくり」

社会の中にひとつでも多くの「対話の場」「交流の場」を増やすためには、自らが場を作ることはもちろんですが、「場を作ることができる人」を増やすことの方が効果的ではないでしょうか。
今回紹介した取り組みでは、「場づくり」を行いながら「人づくり」を行いました。企画メンバーは、自分の住むそれぞれの地域で、このような「交流の場」を作ってくれることでしょう。

「鬼」は、「わからない」「怖い」という心が生み出すもの。お互い、わかりあうためには対話が一番。「対話の場づくり」で、鬼退治?!
いやいや、もともと鬼なんていないんです。

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