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林真理子さん「小説8050」考察・感想ー責任はどこにあるのか?
こんにちは、桃生ににこです。
今日は林真理子さんの小説「小説8050」のレビュー、考察について。
Amazonの書籍紹介はこんな感じ!
このままでは我が子を手にかけ、自分も死ぬしかない――。
従順な妻と優秀な娘にめぐまれ、完璧な人生を送っているように見える大澤正樹には秘密がある。有名中学に合格し、医師を目指していたはずの長男の翔太が、七年間も部屋に引きこもったままなのだ。夜中に家中を徘徊する黒い影。次は、窓ガラスでなく自分が壊される――。
Amazon /小説8050 林真理子
小説のタイトルにもあるように、社会問題である8050問題(80歳の親が無職の50歳の子供を抱えること)に関する題材で、物語の中では両親50代、子供20代。「このままでは8050問題に突入してしまう…」というシュチュエーションです。
親は代々続く歯科医。有名私立に合格した息子は途中から不登校になり、20代に突入した今も自室に篭りっぱなし。姉の結婚を間近に控え、ニートの息子をどうにかしないといけない…!果たしてどうするべきか。
以下、ネタバレはないと思いますが、内容をかなり踏まえた上での考察・感想になります。
責任の所在はどこにあるのか
物語の序盤…「何故だかわからないけど、息子は引きこもっている」という状態の時。家族、この物語の主な語り手である父親のテンションはめちゃくちゃ低いんですよね。できる限り息子の存在を無視したいし、誰かにどうにかして息子を更生させて欲しい。
自分の息子のことなのに、心の距離がかなりあって、読み手の私から見ると「親がそういう態度だから息子も引きこもるのでは?」と感じてモヤモヤ、イライラする内容です。
この時は「息子がこうなってしまったのは私たち(両親)に原因があるのか?そんな事はないと思いたい」という気持ちがあったのでしょう。
中盤から父親は息子の問題解決に向けて、今までとは別人にようにやる気を見せるんですけど、それは「息子の引きこもりの原因が自分達以外のところにあるかもしれない」と思える展開になったからです。
もう本当、やる気になって、その行動力と積極性を今までどこに隠してたんだ、って思うくらい。
誰か?私が?何が悪いの?責任とってよ!って流れ
人はうまくいかないときに「責任はどこにあるのか?」を無意識に考えてしまう。社会に出て働いたことある人の宿命なのかな?
失敗があったり、うまくいかないことがあれば、原因を追求し、正し、ちゃんとやらないといけない。原因に誰かの悪意や怠惰があるなら、その人が自分で責任を取るか、誰かが罰さなくてはいけない。っていう、圧があるよね。
で、できる限り自分は原因じゃないってことを証明したい。
自分が原因でしかないって自分が思うなら他の誰かに見つからないようにしたいし。他の人、環境、システムに原因を押し付けられるなら全力で押し付けたい。
恋愛でふられた側が復縁を望んでいる時、まだ別れていないけど関係がうまくいっていない時、自分とは関係のないところで責任を明らかにして、そこから問題を解決したいと言う感情が事態をややこしくしていることが非常に多いです。
復縁の相談は占いではめちゃくちゃ多いけれど「復縁希望している人は相手のことをそこまで好きじゃなさそうなのに復縁を希望してるな…」って時は、タロットを引くと正義のカードが必ずと言っていいほど出てきます。
![](https://assets.st-note.com/img/1678954941680-99kEyDltT3.jpg?width=1200)
正義のカードは責任の所在を明らかにして善悪をはっきりさせたいという気持ちを表しています。
責任を明らかにせず、前に進むことも時には大事
小説の中の物語も最終的に裁判に進んでいくんですけど、その中で弁護士さんが「裁判は私刑ではありません」という言葉を繰り返し発するのが印象に残りました。
何か嫌な出来事が起こって、道を閉ざされた、遠回りになった、時間を無駄にしたと感じたとして、原因を明らかにする、悪い人を悪いとはっきりさせる、場合によっては罪を償わせる、謝罪させるってなったとしても…
その先の人生を前に進めるのは自分しかいなくて、自分の足を止めた出来事は前に進めることは手伝ってくれない。
罪を償ったり、謝罪があったとしても、そこを得るために費やした労力や悲しみよりも得られる対価がすごく少ないことがほとんどで、時間をかければかけるほど、より多くのものを失ったような気持ちになってしまうこともすくなくない。
何が悪いか?を考えない方が楽に生きられるよ!
長々書いてきたけれど、この「責任の所在をはっきりさせて決着をつけたい!という気持ちがあるばかりに、進めるはずのところを進めずに思わぬ足止めをくらってしまう」みたいなことは、大きなことから小さなことまで、日常の様々なところで起きていて…
空気を読んで、努力して、日々を一生懸命生きている人ほどこのトラップにはまってしまいます。
「は!私正義を追求しすぎてるかも?善悪つけようとしすぎてるかも!」って自分の内面に気づいて歩みを見直すことは大事だよーってことです。
生きていると残念ながら、そう簡単に許せないような出来事も起きてしまうけど、その場合は歩きながら横目で見ながら「いつか復讐してやるぞ」くらいの気持ちで、前に進むことだけは止めずにいけるといいな、と思います。
小説自体は流石の林真理子さん、細かい描画が面白かったです。とりあえず、歯科医はプライベートでも関わる人の歯をめっちゃ見てるなーってのが印象的でした。あと、若い世代は虫歯すくないのか!とか。