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NHK俳句「春セーター」

  昨日、日曜の早朝はいつもの如くNHK俳句だった。今週の選者は西山睦さん、昭和21年生まれだから、私と同期の78歳。テレビで見るとふくよかな顔で如何にも元気そうなオバサン、俳人協会常務理事とか。
 
 今週の兼題は「春セーター」、文字通り春に切るセーターだ。西山さん曰く、厚手から薄手に変わり、体も身軽になり、色もパステルカラーなどが多い。セーターそのものを詠むのと、セーターを着ている人を詠む、二通りある。全国からの応募作から入選作を紹介し、西山さんがコメントしている。
 
 次の3句が、当方がピンときた句です。
 
春セーター 腕を組んでもいいですか     (ふくいよしこ)
 (西山)春になってウキウキとした解放感があり、特別な感情が無くても、腕を組んでみたくなる。そういう若さが出ている。口語で「組んでもいいですか?」に春の感情があふれている。
 (Shinjiy)昨今、監視人殿と組むことはないが、手を繋ぐことはある。こちらの歩行が不安定なので心配していると言うが、それは口実なのかもしれない。
 
海に行くはずだった日の 春セーター     (須坂大寒)
 (西山)亡くなった人とあのとき行っていればなあという思いがあるのだろう。「行くはずだった」の過去と「春セーター」の現在を「の」で軽く繋いでいる。明るく一歩踏み出そうという様子を春セーターの季語が語っている。
 (Shinjiy)当方が亡くなった後、監視人殿には前向きに生きて欲しいとは思うが・・・死んでしまえば何もわからない。生きている間に出来ることをしておくだけだ。
 
「東京の空はせまい」と 春セーター     (建部芋水)
 (西山)春だから、上京ですね。上京する前に学業、就職など、色々な事情があったとは思いますが、それを言わないで東京の空は狭い、自分の故郷とは違うと、その落差と詠んでいる。狭いという台詞だけで、その奥の事情がわかる。「」がよく効いた句。
 (Shinjiy)都心の我マンションの空はビルに囲まれ、確かに狭い。納得の句です。ところで、当方は、この句を読んで直ぐに、智恵子抄の「東京には空がないと言う」を思い出しました。作者も頭にもあったのかもしれません。
 
 以下、その他の句を紹介します。
 
ドアノブは いまだ冷たし 春セーター    (尾崎光洋)
 (西山)早朝、春だから春セーターを着て、ドアノブを明けたらちょっと冷たい、光は強いけれど、空気は冷たい、早春の句感がよく出ている。
 
病室を 菜の花色に 春セーター       (神尾孝)
 (西山)病院に入院している人をお見舞いに行くとき、派手なものを着て行ってはいけないとの先入観があるが、自分が母をお見舞いに行った時に暗い色を着て行ったら、怒られてしまった。病院に行く人は明るい色の方がいい。ベットの前に菜の花が咲いているような、明るい感じがする。
 
春セーター 育休明けの 初仕事       (平井明)
 (西山)育休明けって、色々言われるんですよね。そういうことを跳ね返す、やる気満々の春セーター、
 
 次の三句が特選だそうです。
 
三席
先生を 青年にして 春セーター       (千葉水路)
 (西山)春セーターに着替えてみると、先生ってこんなに生き生きしていたんだ、肩書が取れた本来の姿が見えるような、春セーターの解放感をよく表している。先生の「せ」と青年の「せ」と春セーターの「せ」、清い音でにごりがない。
 
二席
柔らかき 頬ねむる胸 春セーター      (米内君子)
 (西山)産後のママは胸もふくよかになり、赤ちゃんが柔らかい頬を寄せて眠る。平和な微笑ましい句。幸せな時間をすごく感じる。そういうふうに見つめられた子は幸せに育つ、明るい未来を表現している春セーターだなと思う。
 
一席
合唱のブレス 春セーターの 胸       (鈴木仁)
 (西山)息継ぎに従って、春セーターの胸の動きが見えてくる、明るい句。ブレスを、息継ぎとするとしらべが詰まる。カタカナが効いていて、歌っているしなやかな体が一緒に揺れているように感じられる。
 
 特選三句はいかにもプロ好みの句に思えます。特に一席の句は、解説を聞くと成程技巧を凝らした特選だとは思うのですが、私(素人)にはピンときませんでした。

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