連城三紀彦「恋文・私の叔父さん」
1984年の直木賞作品、連城三紀彦の短編集「恋文・私の叔父さん」を読んだのだが、最初の短編を中ほどまで読んだところで、前に読んだことを思いだした。昨今よくある事だが、幸か不幸かあまりよく覚えていないので、最後まで楽しめた。
一作目は「恋文」、骨髄性白血病で死ぬ前に一目会いたいと10年ぶりに訪ねてくる女、その女の最後を看取りたいと家出し、離婚してくれという夫、女を見舞い、夫とその女の結婚式のために、ラブレターよといって離婚届を渡す年上の妻・・・・
2作目は「赤き唇」、新婚三カ月で子宮外妊娠のために妻を亡くした男が中古車を売りながら自分も中古意識を抱えながら生きている。男のところへ死んだ妻の母が押しかけて居座ってしまう。茶碗なんかを凄い力で洗うからこわれてしまう64の女は、男が再婚の決意もつかずつきあっている女と、嫁姑の争いをする。お婆ちゃんが老人ホームに去ったあと、女は、私、ライヴァルだったのではと呟く。
3作目は「13年目の子守歌」、自分の母親が旅行先から拾ってきた男、自分より若い、父親との奇妙な付き合いを描く。
4作目は「ピエロ」、美容院を経営する妻と、その借金の返済に退局金をあてるために会社を辞め、一人前の美容師になるという妻の夢に徹底的に尽くす髪結いの亭主との別れを描く。
最後は「私の叔父さん」、男は40代の売れっ子カメラマンである。19年前、男がまだカメラ担ぎの助手のころ、子供のころから兄弟の如く育ってきた姪が東京へ一か月遊びに来ていた。叔父と姪と男と女の間で揺れることに耐え切れず、もう帰れと言う男に、姪は帰りたくない、一生、兄ちゃんの傍で暮らすと言う。男がわざと酒場の女を連れ込むと、姪は兄ちゃん、私が毎晩、下着洗っているの、何故だと思っていたのよと泣き出す。男は、大人っていうのは嘘をつくことじゃなくて、つけることだよ。いや本当のことでも言ってはいけないことなら口にしないことだと言う。物語は、姪の娘の代まで続く・・・・
意外な展開の連続だが、丁寧な心理描写を読むと、自分にあてはめて感情移入してしまう。全体を読み終わって冷静に考えると、やはりあり得ない、考えにくい展開なのだが・・・・ともかく、直木賞には納得した。