解雇規制が多量の非正規を生んだ
続けて文芸春秋12月号から、特集「アベノミクスvsイシバノミクス」で、石破政権は異次元緩和の「負の遺産」にどう向き合うのか?日本経済を再生できるのか?と称していくつか提言している。
その一つ、大竹文雄氏の「解雇規制が多量の非正規を生んだ」が興味深い。大竹氏は大阪大学大学院、経済学研究科教授。数年前に、姫路の会社で従業員の解雇で裁判になり苦労した経験などもあり、内容はよく理解できるし、趣旨に大賛成だ。
以下、大竹氏提言を要約すると以下のとおりです。
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先日の自民党総裁選で河野太郎・小泉進次郎氏が「解雇規制の見直し」を訴えて、一つの争点になりかけた。ところが「企業がクビにしやすくなる」などの批判があがり、一気にトーンダウンして全く議論されなくなってしまった。 「なぜ解雇規制の見直しが必要なのか」という、前提の説明がなく、人々に漠然とした不安を与えただけで終ってしまった。
2015年、厚生省に、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が設置され、2017年に報告書が出され、方向性が出たので、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」で、現行法制にどう落とし込むかを整理し、2022年に報告書を出しています。
問題はルールの不透明さ
現在は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、その権利を乱用したものとして無効とする」との解雇濫用法理が適用されているが、実際に解雇が無効かどうかは不明確だった。
1970年以降、裁判所の判例が確定しいわゆる「整理解雇の四条件」(①人員削減の必要性、②整理解雇の回避努力義務、③人選の妥当性、基準の公平性、④労働者への説明義務、労働組合との協議義務)が整理されました。大企業は正社員を取り過ぎると、景気が悪くなった場合も雇用調整が出来ない。そこで非正規社員を多量に雇って雇用調整に備えたのです。
非正規社員に教育訓練など、人的投資をするインセンティブはなかなか働きませんから、非正規社員が多ければ、企業全体の労働生産性は低くなる。これが日本全体の企業の生産性が伸びなくなった一因になっている。
ルール明確化に反対する労働組合
法律的に「金銭解雇」が認められていなが、裁判で解雇が「無効」とされても、実際には金銭を受け取って退職しているのが実態だし、労働審判でも多くが金銭解決です。厚生省の検討会で「金銭解雇」のガイドラインを提案したのですが、「ケースバイケースだからルールで決めるのはよくない」と強固に反対してきたのが「労働組合」です。
解雇に関して金銭解決のルールがはっきりすれば、企業側も非正規社員ばかりを増やすのではなく、安心して正社員を雇うことが出来るようになるでしょう。理想的には「十分な金銭補償をすれば不当解雇にはならない」とすべきですが、「金を払って簡単に解雇する企業が出てくる」として労働組合は強行に反対するのです。労働組合は、本当に「労働者」を代表しているのか、と首をかしげたくなります。
見直しは誰にとってもプラス
解雇規制の見直しとして、具体的には以下の三つを提案したい。
1、 企業経営が思わしくなくなったときに、転職可能な労働者には解雇予告期間を置いたうえで割増退職金を支払ったり、転職支援を行った上で解雇できるような制度にする。
2、 雇用してみたものの望んでいたような人材ではなかった場合に、試用期間を理由に解雇できる制度にする。
3、 3年、5年、10年といった一定期間、使用者側からの解雇はできないが、その期間が過ぎれば解雇が可能になり、労働者は離職することが可能で、再契約も自由であるような「定期雇用制度」を導入する。
過酷な労働環境に置かれている非正規社員を救うために、日本企業の生産性を高めるために、日本経済再生のためにこそ、「解雇規制の見直し」は、絶対に必要です。
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数年前の姫路時代、解雇した2人の社員が解雇無効を訴えて裁判になり、3年程争ったことがある。2人は会社に不満満々で、配置された仕事につかない、派遣のシステム化を受け入れないなど、社命に反することが多く、弁護士と相談して解雇に踏み切ったのだが、2人には2人なりの主張があり・・・・結局3年後に裁判所の和解勧告を受け入れて、多額(数千万円)の和解金を払わされた。裁判で長年争うことが如何に無駄かを痛感したものだった。
なお、労働争議の損害を補填してくれる、保険があり、たまたま入っていたので、和解金の大部分は保険でまかなえたことをつけ加えておきます。