見出し画像

上場企業3.「かみそり」と「なた」

 T社は、水道管を主力とした公共インフラに関与する事業を展開していることは知っていたが、会社内個々人の役割分担、工場の実体、技術と営業の仕組みなどはサッパリ分からない。ともかく最初は人と工場、業界を知ることから始めねばならない。
 
 会社の幹部としては社長の下に常務が2人いる。F常務は私の1年下、総務・経理など管理部門の担当であると同時に、全般にわたって社長を補佐し、代表権を持ち、前社長が出社できなかった半年間は社長の代行をしていた。Ⅿ銀行から幹部候補として転籍してきた人で見識も良識もある。後々まで私のNO2として諸々を助けてもらった。もう一人の常務は私と同年、当社株式の10%を保有する大手ガス会社G社から来ている方で、当社のガス事業全般を担当している。この方もなかなか、G社も一目も置き、確実に当社の利益に寄与してくれる。
 
 月に一度、経営会議と称して前月の収支を経理部長が説明する。資料は基本的にA3一枚、よくまとまっていてわかりやすいが、結構な手間がかかっていることは間違いない。上を見過ぎているし、上もそれが当たり前だと思っている。事業毎の収支を見れば、水道管部門、ガス部門など主要な事業は安定した利益を上げているが、マンホールとエンジニアリングで足を引っ張り、利益を割り引いている。又、管理部門をはじめとして全体に労力と経費がかかり過ぎている。当面の対応は、先の可能性のないマンホールとエンジニアリング部門の縮小であり、その方向で進んではいるが、単に販売量を減らすだけで、組織、設備のスリム化には手がついていないし、そっちの方が難しいのだ。
 
 前社長は私と同様、J社出身だが、社長を1年やったところでJ社社長からの重圧に耐えられず、出社出来なくなってしまった。家を出て会社に向かっても、横浜駅までが精一杯でそこからは会社に近づけなそうだ。J社グループの制度(内規)では、退任した社長は2年任期で非常勤相談役として処遇される。彼も例外ではなく、当社の非常勤相談役になっている。前社長として何をどう進めたのか、話しを聞きたかったので横浜駅まで来てもらい、食事をしながら2度ほど話を聞いた。
 
 彼は1年間、真面目に真剣に社長を務め、毎月の部門別収益の詳細をヒアリングして細かい指示を出して、その結果をトレースしてきた。マンホールとエンジニアリング部門の縮小も進めつつあり、基本的な方向はまちがっていない。本人も自分のやり方は正しかったと自信をもっていた。しかし、話しを聞いていると、細部に細かく、「かみそり」ではあるけれど、全体をまとめてバッサリできる「なた」ではない・・・・気がした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?