11年前の話は時効なのだ!
今日紹介する件は、11年前の話だから時効です。
仮に、当時の関係者が読まれたら、忘れていただきたく、
よろしくお願いします。
当社の主力商品である特殊な鉄管は、
全国自治体のインフラ設備の維持に必須だ。
日本でこの種の鉄管を製造販売している会社は3社だけ、
他の2社を仮にA社、B社とする。
シェアはA社が圧倒しており、B者が続き、当社が一応3位。
この鉄管を製造するには、独自の技術と大規模な設備が必要であり、
元々は、A社が技術開発して、独禁法の関係から独占出来ないので、
B社と当社に技術を供与(有料)している。
A社は農機具メーカーとして世に知られており、
B社も中堅のエンジニアリング会社で、両者とも関西がベースだ。
(もし、今A社又はB社の関係者がこれを読まれていたら、
ここまでにしておいて下さい。)
表向きは3社の競合だが、実際はA社が牛耳っている。
過去、3社のシェア協定が公取委に告発されて有罪となり、
関係者が処罰され、巨額な課徴金が課されたことがあるが、
その後もA社支配の業界構造に変わりはない。
商品の寸法、材質、性能、検査などが、協会で細かく標準化され、
自治体は3社のどこから買っても全く同じものと認識している。
で、ある日突然、A社が鉄管の外表面に、
新たに開発した防食処理を施して、
寿命を従来の倍の100年にしたいと、他の2社に提案してきた。
業界の技術標準にするので、同意して欲しい(しろ)とのこと。
趣旨は、鉄管が腐食しやすいとの弱点を克服して、
樹脂管の進出に対抗するためだ。
当社に技術説明をするとのことなので、聞きに行ったが・・・
私(鉄鋼技術者出身)から見ると、どうもおかしい。
防食処理なら、性能から見ても、コストから見ても
亜鉛+アルミ+α の組み合わせにすべきだが、
彼らはアルミではなく錫(すず)を使っている。
亜鉛、アルミの組み合わせなら、微細な欠陥や傷に対して、
鉄部より先に酸化して傷部分を覆ってくれる修復作用があるが、
亜鉛と錫ではそれが期待出来ない。
アルミを使わない理由は
アルツハイマーへの影響が懸念されるからとのこと。
一時、アルミがアルツハイマーの原因かもしれない
との怪しげな噂があったが、
それなら、ビールのアルミ缶はもっての外だし、
アルミの鍋などありえない。
噂は一時的なもので、暫くして誰も言わなくなった。
ばかばかしいのだが、A社は言い張って譲らない。
アルミを避けて錫を使った処理方法を開発したもので、
充分な耐食性があると言う。
その後、A社は100年鉄管と称して業界で大々的にPRし、
開発リーダーによる図解入りの説明が、新聞にも取り上げられた。
今更後戻りはできない状況だ。
当時、偶々A社のトップと飲む機会があったので、
1対1になった時に、御社提案の防食処理は技術的に疑問がある、
考えなおすべきだと言ったが、彼は黙って聞いていた。
後日社内で私から聞いたがどうなのか、と諮問したようだ。
B社のトップとも一献の機会があったので、
私が技術的に説明した。
彼等もA社案に疑問を持ち、初めは当社よりだったが、
(社長の?)プライドがあるのか、独自案を模索するとのこと。
しかしながら、技術的に選択の余地はなく、
結局独自案は出てこなかった。
並行して、当社では、鉄管に、亜鉛+アルミ+α の処理を施して
性能がA社案より優れていることを社内の腐食テストで確認した。
A社と議論し、お互いに処理した商品を交換して、
両社で腐食テストを行ったが、
A社は、テスト結果は自分の方がよかったと譲らない。
今更自分の方が劣るとは言えるはずはなく、
意地とプライドだけとしか思えない。
結局、当社案も受け入れ、技術標準としては、
どちらでもよしとしてお互いを立てることにした。
後日、A社の工場長が私に、(上から目線で?)
アルミの方がいいことくらいは分かっていますよ、と言うので、
アルミだけでは、膜の密着性が確保できず、ダメなのです、
と言うと、返事はなかった。
亜鉛、アルミに加えて+α が必要なことは、
鉄鋼の防食技術に携わる人には、常識の世界なのだ。