見出し画像

昭和54年 家を買う

 50数年前、32歳で家を買った時の
些か面白い顛末を紹介します。
 
 当時、分譲の団地(マンション?)に住んでいたが、
次男が誕生して、一家4人にはやや手狭になり、
一戸建てをさがしていた。
我実家にも妻の実家にも近く、
住み慣れた田園都市線沿線がよかろうと、
T電鉄の「友の会」に入会していた。

 正月の2日に、年賀状に紛れて「友の会」から葉書が来た。
最寄り駅はあざみ野で、100戸の建売住宅を分譲する。
ついては、今日から申し込みを受け付け、
先着順に優先権がある、とのこと。
ただちに現場に行くと、裏が山になっていて、緑が豊富だし、
街全体の調和がとれていている。
交通の便も悪くない、サラリーマンが買うには恰好の物件だ。

 そのまま、隣駅の販売センターに行き、
分譲地全体のレイアウトと、
各戸の大雑把な価格が書かれたものを受け取り、
購入希望者の登録をしたら、望外の2番、
「友の会」会員だったことが幸いしたようだ。
100戸の分譲に対し、最終的には400人ほどの申し込みがあった。

 各分譲地で建物が建設途中だが、中央の目立つところに、
モデルホームが完成していて、見学に対応している。
土地も広めで建物とのバランスも取れ、
東南の角地で日あたりもよさそう、第一候補だ。
更に2,3日後に、新聞に大々的に広告が出された。
モデルホームのイラストが大きく描かれていて、
ここは何千何百万台ですと、大凡の価格が書かれており、
想定範囲、なんとかなりそうだ。

 数日後、正式の物件説明書を受け取る。
各戸の敷地と建物の平面図が、詳細に書かれている冊子と、
価格の一覧表だ。
ところが、おかしな事に、欲しいと思っていたモデルホームは、
平面図はあるし、一覧表にも載っているが、価格欄が空欄だ。
おかしいなと思い、T電鉄に電話したら、
モデルホームは売らないと言う。
パンフレットにも新聞の広告にも載っているのに
売らないのはおかしいのではと、
いくら粘っても、売らないの一言、どうにもならない。

 仕方がないなと半分諦めかけたが、いい気分ではない。
ダメもとで、公正取引委員会に電話した。
不動産取引の担当という人に、詳細を説明し、
T電鉄は、法的に問題があるのではないかと、聞いた。
担当者は、その通りなら問題だ、というが、
では、どうすればいいのかと聞くと、
その広告と、販売用の冊子と、 価格表など、
全てをそろえて持参してくれれば、 検討するとか。
当時の公取委の陣容では、この程度の事には、
マンパワーは割けない、ということであろうか。

 これ以上公取委と話しても仕方がないが、
法的に問題のあることは、間違いなさそうなので、
T電鉄に指摘しようと、電話した。
「どうしても売らないのか?」
「はい、売りません。」
「あの新聞広告では、売ることになっているではないか?」
「いえ、売りません。」
「広告と実態が違うということは、法的に問題だと思うが?」
「・・・」
「では、公取委に確認してみる。」

 2日ほどたったころ、T電鉄から電話があり、
結局、売る事になりましたとのこと。
騒がれたら面倒なことになるかもしれない、
ここは穏やかに収めておこうといったところだろうか、
あるいは、公取委から電話でもあったのかもしれない。

 幼かった二人の息子は、あの家で育ち、学校に通い、
20年後、大学を卒業して就職、遠隔地に赴任した。
同じ時期に私も新潟に転勤になり、家は空き家になった。

注:写真は、植えて10年後、満開の桜


いいなと思ったら応援しよう!