昭和の100人「夏目雅子」一お酒が大好き一
文芸春秋新年特大号の特集「昭和100年の100人」から、夏目雅子さんについて、友人の中井貴恵さんが語っている記事を取り上げます。
記事冒頭の紹介には・・・・美しさと存在感で日本中を魅了した女優・夏目雅子(1957~1985)。27歳で世を去った今でも、その微笑みは人々の心の中で生き続けている。俳優でエッセイストの中井貴恵氏が友人として接した夏目の素顔とは・・・・と書かれている。
夏目さんが亡くなったのは27歳だから、1984年、当時私は川崎の製鉄所に勤務する現場技術者、日々工場の建設と立ち上げを担当していた。高度成長時代の申し子のように会社第一の生活を送っており、映画は勿論、テレビも殆ど見ていないから、夏目雅子さんが亡くなったと聞いてもピンとこなかった。後々、当時彼女は伊集院静氏と結婚していたこと、人気抜群の美人女優で、誰もがその死を惜しんでいたことなどを知り、写真を見ると、確かに知性を伺わせる美人、成程と思ったものだった。
以下、記事から抜粋、転記します。
・・・・雅子ちゃんは、お茶目な一方で豪快なところがあり、とにかくお酒が大好き。グラスが空いている人を見たら即座に注ぎ、自分も飲む。あんなに一升瓶が似合う女優を私は他に知りません。・・・
雅子ちゃんの26歳と27歳の誕生日は、彼女の行き付けのお寿司屋さんで一緒に祝いました。・・・
27歳の時は、雅子ちゃんが伊集院さんと結婚して初めて迎えた誕生日。本当に幸せそうに微笑んでいて「貴恵ちゃんもいつまでもブラブラしないで、早く結婚しなよ」と言われた。それくらい結婚生活が充実していたのでしょうね。・・・
27歳の誕生会では、私は翌日、早朝から仕事だったので後ろ髪を引かれる思いで、途中で店を後にしました。去り際に見たのは、酔ってカウンターに突っ伏している雅子ちゃんの背中。それが私か見た彼女の最後の姿でした。
舞台の公演中に雅子ちゃんが倒れて緊急入院したのはその二か月後のこと。本当の病状は伏せられていたので、まさか白血病とは知らず・・・ニュースで訃報を聞いたときは、信じられなかった。・・・・
当時、白血病は助からない病と言われていたが、近年は治療法の進歩や骨髄バンクの設置で治る患者が増えており、水泳の池江璃花子さんも、骨髄移植で奇跡的にカムバックしたことはよく知られている。
中井さんは最後に些か気になることを述べている。
・・・・忘れられない電話があります。彼女が映画の撮影中に、ロケ先から突然かけてきた電話。・・・何か吐き出したいことがあったのだと思うのですが、途中で「うん、もういいや、大丈夫、大丈夫」と気を取り直して彼女は電話を切ったのです。あの時、本当は何を言いたかったのだろう。それを私はずっと、胸に抱いたまま生きています。