「貴方、買ったら、」
2013年8月お盆の日記です。
お盆は、例年通り、御嶽の料理旅館河鹿園に一泊した。
14日の昼過ぎ、中央線の青梅特快に乗り、
河鹿園に着いたのは午後3時前。
少し早すぎたが、ご主人は笑顔で迎えてくれる。
旅館の主たる客室は渓谷沿いの急傾斜に建つ3棟の木造2階家で、
それぞれ、階上の大部屋が会食に使われ、
階下の2室が客間になっている。
落差のある各棟は急傾斜の廊下と階段で繋がっている。
間際の予約だったので、いつもの部屋が取れず、
下段の建物の客室に案内される。
昭和初期の質素な旧い日本家屋は、
全てが建築当初のまま、建具も取手までもが丁寧に維持されている。
正面は全面ガラスの引き戸で、眼下はいつも変わらぬ御嶽の渓谷。
透明な急流が流れ、所々で大岩に当たって白濁し、
水音と、カヌー人の飛び交う声が部屋に届く。
川向うの崖上は遊歩道になり、
石のベンチに老夫婦が並んで座っているのがほほえましい。
白壁、大屋根の玉堂美術館が黄色い大公孫樹に半分隠れ、
後方の山は杉の深緑が幾重にも重なり、上空は夏の青空だ。
夕食はいつもの通り、川魚を始めとした、上品な薄味の料理が、
涼しげな器に控えめに盛られ、時間をかけて出される。
冷酒は一輪の花が添えられた器に氷で冷やされ、
舌と目と両方で味わえる。
翌早朝、外に出ると、朝の冷気が心地良い。
吊橋を渡って対岸に渡り、玉堂美術館前の石のベンチに座ると、
旅館の部屋の様子が垣間見え、
下手な事は出来ないと、改めて認識する。
大広間での朝食後、開け放たれた廊下の椅子に座り、
コーヒーを飲みながら中庭を眺め、
2年前に足元の池で水浴びをしたシングルの目白は再婚出来ただろうか、
と、どうでもいいことを考える。
ご主人は私とそう変わらぬ年代、心臓が弱く、跡取りも居ないとの事。
監視人殿は、「貴方、買ったら、」と、
冗談とも真面目ともつかない顔で言うが、
自分が旅館の亭主になった姿を想像して、却下。
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