上場企業9.変形労働制
工場は巨大なキューポラで鉄スクラップを加熱して溶かし、成分調整をして連続的に遠心鋳造で水道管を製造する、大手3社とも共通の製法だ。一方、販売は、自治体の年度予算が決まってから水道工事が決まり、その後の水道管発注だから、夏から秋、年末年始に販売が集中し、年度末から、年初にかけては殆ど販売がない。販売量に合わせて製造能力を変えるのは難しく、閑散期にも見込みで製造するから在庫が積みあがってしまう。
そこで、出来る限り月間の製造能力を販売量にあわせようと、工場全体に変形労働制を採用した。変形労働制は月毎に一日の定時間と労働日数を定めて、年間では合計の労働時間を労働基準法に合わせるもので、年間の繁閑の差が大きく、かつ定常的に発生する場合に、あらかじめ労基署に届ければ認められる。
労働組合と相談し、夏から年末にかけて基本的に、1日の定時間を1時間増やして9時間とし、1週間の稼働も1日増やして6日稼働として、代わりに2,3月の休日を大幅に増やす、次年度のカレンダーを作成し、3月に労働基準監督署に届けて、受理された。これにより、月間の製造能力が販売量の変動に近づき、在庫が大幅に減少した。しかしながら現場では、夏の稼働増加による体力消耗が激しく、かつ残業がつかないから評判は芳しくなかった。組合と話し合い、翌年度は変形労働制により、通常の定時間を超える部分については変形労働手当なるものを新設して15%の割増手当てをはらうことにした。お金で全てが解決するわけではないが、現場が会社の趣旨を理解して協力してくれたことには、ただただ感謝だった。
組合とは毎年一時金(夏と冬のボーナス)の額を交渉していた。前年の会社収益により、おおよその金額が決まるのだが、年度ごとの交渉だからその時の経営者と組合の考え、力関係、場合によっては気分により、変動する。明らかに経営者の失態による収益悪化で一時金が減るとすれば、組合は面白くない。
そこで、会社の収益金額により、一時金を自動的に算出しようと提案、組合も同意した。基準の一時金を設定し、それに対し経常利益1億円あたりに増やす一時金の額を決めて、毎年自動的に計算する。
一時金(円)=基準一時金(円)+経常利益(億円)×α(円)
更に、基準一時金に対するプラス分を翌年の一時金に持ち越さず、年度内の3月末に先払いすることにした。つまり、一時金を3月、8月、12月の3回支払う。3月は年度末でもあり、子供の学費などお金が必要なことも多く、喜んでくれる人も多かった。収益による一時金の増減をその年度で処理できるから、会社としても合理的だ。