古びた寺院と 古びたエロ僧(3)
病院に入院して点滴を受け
ほぼ健康体に回復した私は 考えた。
ここで敗北を期して とぼとぼとバンコクに戻るか。
とぼとぼと言っても
チェンマイからバンコクまで700kmもあるのだから
(時間にして長距離バスで10~13時間)
そう簡単なことじゃない。
せっかくそれほどの時間と労力をかけて ここまで来たのに
チェンマイのこと何も知らないまま
食中毒にだけなって バンコクに戻るのは ひじょ~に
もったいないのではないか。
ま。ここは 誰もが通る「東南アジアの洗礼」を受けたと思って
軽く流して 何事もなかったかのように
チェンマイ滞在を続けるのが ベスト!
と結論づけて チェンマイにある数々の遺跡、お寺などを巡ることにする。
古都チェンマイには 寺院、遺跡が多く それらを巡るのには
一日では足りない。
何日かに分けて 今日はこっち方面、明日はあっち方面と巡るのがいい。
寺院には金色に塗られた大仏が鎮座して 参拝者を静かに見おろしている。
どこの寺院にも遺跡にも 観光客が数多く見学に来ていた。
金色の大仏のいらっしゃるお堂に入る時には
入り口で靴を脱ぎ ひんやりとしたタイル張りの床の温度を
裸足の足裏に感じながら そっと 御前まで歩いて行って
手を合わせる。
しばらく大仏さまを見上げていると
お堂で座り込んで読経をしていたのであろう
歳おいた僧侶が 近づいてくる。
相当な歳寄り具合だったし きっと階級も上の方の
立派な僧侶に違いない。
「どこからいらしたの?」(英語)
「日本です」
「ようこそ」
というたわいもない会話が続いた後
その年老いた僧侶は そっと耳打ちするようにして ささやく。
「この時間は観光客が多いからね
もっと静かな時間にここにくると
心安らいで 瞑想なんかにもピッタリだから。
特別に 閉館した後の時間にも開けておいてあげるから
夕方6時くらいに またおいでなさい」
という。
こんな立派な僧侶が 私に声をかけてくれるなんて!
しかも 一人静かにこのお堂を使わせてくれるだなんて!
観光客のいない静かな時間に たった一人で 瞑想してもいいとか。
へぇ~。嬉しいな!ってな気分で
その後の時間を 他の遺跡、寺院巡りに費やし
閉館の6時にまた あの寺院を訪れることにした。
さっきと同じように ひんやりしたタイルを歩き
大仏さまの目の前あたりに進むと
先ほどの 年老いた僧侶が いらっしゃる。
どうぞどうぞと 静かにジェスチャーで
ここに座ってと いうようなそぶりを見せるので
遠慮なく 大仏様の目の前に 座らせていただく。
またその 声を発しないような堂々としたお姿に
この僧侶はもしや この寺院の住職さんなんじゃないか?
なんかオーラが違うやん。
閉館時間を過ぎたにもかかわらず
こうして自由にここを使うことができるってのも
やっぱり相当 上の階級のお方に違いない。
そう思って 尊敬の意を表しながら おずおずとしていると
「どうぞ、この時間は静かなので ご自由に瞑想などしていてくださいね」とおっしゃる。
私は静かに目を閉じて 集中するために 呼吸を整えている。
しばらくすると あの年老いた僧侶が
私の目の前に座る気配がする。
なんだろう?と思って目を開けて 僧侶をうかがうように見ると
「どうぞ、続けてください」と言って
目を閉じるように促される。
目の前に座られていると どうも集中できる気がしないな
と思っていると
僧侶の手が 私の頭に置かれた。
なんかの 儀式? こうやって頭に置いた手から
なんかしらの念を送ってる????
と 瞑想に専念しようとしている頭の中には
疑問がぐるぐる ぐるぐる ぐるぐると回って
完全にそれどころではなくなってしまった。
そうしているうちに 頭への念の投入は終わったのか
今度は年老いた両手が
私の両頬を挟むようにして 降りてくる。
ん???????
とりあえず 意味がわからないけれど
続けろと言われてる瞑想を続けるふりを必死で続けていると
生暖かい息が私の顔のすぐ前に吹きかかるのを感じる。
え????????
この時点で 必死で閉じていた目を
パカ!っと開き
目の前に完全なるクローズアップで最接近している
さっきの老僧を認めると同時に
無意識に 両手で 老いぼれた身体を押し放していた。
すっくと立ちあがる。
仁王像のように。
両手を握りしめて 老僧を 睨みつける。
くそったれ~!
なんなんだ あいつは!!!!!!!
怒りに任せて そのまま入り口に脱ぎ捨ててあったサンダルをひっかけて
一目散に 寺院を飛び出した。
私はその時にやっと
ただのエロ老僧が
なにかよからぬことを企んでいたのだと知ることとなる。
「怪しいな」のセンサーを
作動させるのが遅かった原因は
「ここは寺院、大仏様の御前。この神聖なる場所で。
相手は位の高いお偉い僧侶。尊敬すべき立場のお方。」
という大前提があったからだ。
いや、まさか。まさか。
誰もこの状況を想像し得ていただろうか。
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タイの旅をひも解くにあたって
必ず解説されているのが タイの僧侶の位置づけ。
タイ国民は総じて 僧侶をリスペクトしている。
リスペクトしすぎて こんな風に僧侶のフィギュアまで売られているくらい。それぞれが「推し僧」を持ってたりする。
カラシ色の着衣一枚だけで托鉢の銀のおおきな器を持って
早朝 霧が霞む中に 一列で歩き 修行をする姿は
あまりにも神々しく 思わず首を垂れて 拝みたくなる。
そのような「タイの僧」に対するイメージが 完全に足元まで崩れ去って
さらにその瓦礫が ドロっとしたエグイ液体で覆われてしまったイメージ。
そもそも、旅の注意書きには
女性に身体を触れさせてはいけない と書いてある。
僧侶が居る場合には 私のような 女性という立場の場合は
そっと距離を置き、バスなどでも 席が空いているからと言って
決して隣に座ってはいけない、とある。
そのように気を付けて旅をしていたにも関わらず
路線バスに乗って 窓際にこじんまりと座っていると
他の席が空いているにも関わらず 僧侶が隣に座ってきて
ネッチリと身体を寄せてきたこともある。
混んでいるバスでは あえて私の近くに立ち
身体をじっとりと密着させながら
なめ繰り回すように私の身体に視線を這わせてきた僧侶もいた。
今回のこの老僧の悪事に直面したことで
「あれ、もしかして、あの時の僧侶も?え、あの時も僧侶も?」
なんて思い返して 思い当たる節がどんどん出てきたのだ。
それまで
「まさか?気のせいだろう。私の思い過ごしだ。」
と思っていた疑惑が 確かな形となって。
パズルのピースがどんどんとはまっていくようにして
私の目の前に 完全なる法則として現れたのだ。
タイの僧侶 = エロ僧
僧侶の尊いイメージが ガラガラと崩壊しの瓦礫になった山を
憤慨しながら踏みつけ チェンマイを後にすることにする。
(つづく)
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