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統合失調症 正しい理解とケア

統合失調症は人口の0.8%~1%の方が罹患する可能性があり、稀な病気ではありません。パーセント的に考えたら学校や職場などに数人いるのが普通かもしれません。しかし、正しい統合失調症の理解をしている方は少ないかもしれません。理解不足から、医療へ繋がらなかったり、繋がるのが遅くなってしまったり、誤った対応をとってしまう可能性もあります。統合失調症は決して不治の病ではなく、治療をすれば日常生活に支障がないレベルまで回復したり、症状が全く気にならなくなるような寛解状態になるケースも多いようです。その一方で、治療をせず放置したり、治療開始が遅くなったり、誤った対応をとると症状が治りづらくなったり、再発しやすくなったりします。
正しい知識をつけ対処する事は、病気を悪化、再発する事を防ぐ事に繋がり、当事者や周り方の生きづらさを軽減する事に繋がります。

今回、「改訂版 統合失調症 正しい理解とケア」という本を読んだので、私が気になった部分の内容を投稿したいと思います。

統合失調症は若い人に多い病気

統合失調症の「統合」とは思考や行動、感情などを一つの目的にそってまとめていく能力の事です。つまり統合失調症とは、「脳の統合機能が一時的に失調する病気」であり、思考がまとまらないため、色んな思考が浮かび幻聴となって聞こえたり、物事を考えようと思考しても上手く思考をまとめられず、その結果行動、感情も目的にそってまとめていく事が難しくなり、日常生活で制限がかかります。

統合失調症の発症年齢は、10代半ばから40歳くらいまでで、多くは10代後半から30代までに発症します。10歳以下で発症するケースは1%未満ですがまれに発症するケースもあります。また中年、初老にかけて発症するケースもあります。

統合失調症になる原因・きっかけ

統合失調症の根本的な原因はまだ解明されていません。一つの原因に起因するのではなく、いくつかのリスク要因が重なって発症すると考えられています。以下に発症になる要因を書いていきたいと思います。

①    脳の生物学的な要因
脳内では情報をやりとりするために、多くの「神経伝達物質」が分泌されていますが、その中のドーパミンの失調が統合失調症に深く関わっているという説があります。中脳辺縁系でドーパミンが過剰に放出されると、陽性症状(妄想・幻覚)が起こり、中脳皮質での機能低下が起こると陰性症状(抑うつ、感情の平板化など)の症状が起こるとされています。

②    心理的な要因
病気になりやすい本人の弱さやもろさがあり、そこへ、心理的、社会的、身体的ストレスなどが加わると発症しやすくなると言われています。この弱さやもろさは、もともと遺伝的に病気になりやすい体質である場合や、母親の胎内にいた時に脳に何らかの障害(ウイルス感染や分娩時外傷、栄養障害等)を受けた場合などに生じるのではないかと考えられています。

③    遺伝的な要因
統合失調症は、いわゆる遺伝病ではありません。親の片方が統合失調症で子供が発症する確率は9%~18%。両親とも統合失調症の場合は48%程度です。統合失調症に遺伝がある程度関わっている事は確かですが、仮に遺伝する確率が10%としても、10人のうち9人は発症しないわけですから、遺伝的な要因は限定的なものです。

④    環境的な要因
もともとストレスに対する脆弱性を持っている人が、ストレスの多い環境や、進学や就職、結婚、出産といった重大なライフイベントなどで大きなストレスがかかった時にそれが発症の引き金になることがあります。このようなイベント以外にも母体がインフルエンザや風疹などの感染症にかかると、統合失調症の子供が生まれる可能性が高くなるというデータもあります。また冬季出生や都市部だと統合失調症の割合が高くなるというデータもあります。

統合失調症の特徴的な症状

統合失調症の特徴の一つは、神経のバランスがくずれ、精神面に障害があらわれる結果、日常生活を送る事が困難になり、「生きづらさ」を感じる事です。こうした「生きづらさ」の背景には「陽性症状」と「陰性症状」の2つの基本的な症状があります。

陽性症状とは、本来ないはずのものがあるという意味で、「妄想」や「幻覚」などが代表的なものです。妄想や幻覚の種類も多々ありますが、ここでは説明を割愛させていただきます。

陽性症状には妄想や幻覚以外にも、「自我障害」、「思考障害」(説明は割愛します)などもあります。

一方の陰性症状は、本来あるはずものがないという意味で、「感情が乏しくなる」「精神の柔軟性が失われる」「意欲が減退する」「集中力が低下する」といった症状がこれにあたります。

統合失調症では、病気の初期(急性期)には陽性症状が前面にあらわれ、長期になるにつれて(慢性化するにつれて)、陰性症状が目立ってくるという傾向があります。

陽性症状や陰性症状と並んで、統合失調症の症状として注目されているのが、「認知機能障害」です。認知機能とは、記憶、思考、理解、計算、学習、言語、判断、といった知的な能力をさします。統合失調症の方は、これらの基本的な認知機能が低下します。
認知機能が低下すると、仕事や勉強をはじめ、生活・社会生活全般に大きな支障をきたします。ほとんどの統合失調症の患者さんが感じている「生きづらさ」は、実はこの認知機能障害や陰性症状のせいであることが多いのです。

 また急性期にあらわれる症状として、「緊張病性症状」というものもあります。統合失調症の急性期には、幻覚や妄想などの症状のほか、まれに興奮や昏迷、攻撃性、暴力といった「緊張病性症状」があらわれる場合があります。
統合失調症の興奮は「精神運動興奮」と呼ばれ、「落ち着きがない」「手をもむ」などのほかに「叫び声をあげながら壁にぶつかる」「足で床をたたく」など激しい運動をともなう事があります。
昏迷は、意識ははっきりしているものの、外からの刺激にまったく反応しなくなる状態で、急に体をかたくして動かなくなったり、呼びかけに返事をしなくなります。蝋人形のように固まったままで、手を上げさせれば上げたままになっているような状態を「カタレプシー(強硬症)」といいます。

興奮と昏迷は突然に入れ替わる事があります。激しく興奮しているかと思うと、急に無反応になったりします。興奮と昏迷を繰り返す事を「緊張病症候群」と呼ばれます。

 統合失調症における暴力や暴言の多くは、急性期の幻覚や妄想が引き金となって起こります(適切な治療を行っている際には、他人への暴力はほとんどありません)。迫害妄想などによって、自分の身に危険が迫っていると強く感じたり、「バカ、死ね」といった幻聴に対する恐怖や強い不安、怒りを感じたりすると、興奮し、攻撃性や暴力性が高まる事があります。
程度の軽い暴力や暴言は、家族や近親者などに向けられる事が多いのですが、背景には、身近な人に自分の思いが伝わらない事への不満やあせりがあります。よって暴力が防ぐためにも、しっかり薬物治療をして妄想・幻覚の症状をおさえたり、家族などが当事者の話を聞き、妄想や幻聴の事は理解できなくても、妄想や幻聴に対して否定することなく、肯定することなく、不安、怒りなどの感情に寄り添って「そうなんだね、不安だよね」「寂しいよね」などと心を支える事が大切になるのだと思います。

早く治療を開始すれば早く回復する

どんな病気でも、発病したあと放置すれば、確実症状は悪化し、慢性化します。統合失調症の場合、発症してから最初の2~3年の病気の状態が、その後の予後に大きな影響を及ぼすと言われています。

統合失調症の原因はまだ十分に明らかではありませんが、画像検査では、脳の前頭葉の萎縮が見られます。前頭葉は思考、記憶、意欲、情動といった、人間にとって重要な機能を司る部分です。治療をしないまま放置をする時間が長ければ長いほど、この萎縮は進み、回復は困難となります。そうした事態を防ぐ為にも早期の治療は欠かせません。

また一般に、急性期の陽性症状には抗精神病薬によく反応しますので、症状があらわれた早い段階で治療を開始すればそれだけ回復も早くなります。

統合失調症の経過と予後

統合失調症の経過は個人差がありますが、大きくは「急性期」と「慢性期」に分けられます。急性期は、発病してから1カ月~数カ月ぐらいの期間で、症状としては陽性症状が優勢な時期です。妄想や幻覚は活発にあらわれるのも、この時期です。なお急性期の症状があらわれる前に、病気の前兆のような症状が見られることが知られています。不眠、漠然とした不安感や違和感、心身の不調、ひきこもりなどですが、この時期を「前兆期」、あるいは「前駆期」といいます。

 慢性期は、急性期が過ぎ、症状がよくなったり悪くなったり、一進一退を繰り返す時期です。まず急性期のあとには、感情の起伏が乏しくなり、無気力で何もする意欲がなくなるなどの陰性症状が中心の「消耗期」が来ます。この時期は不安定な精神状態にあり、ちょっとした刺激が誘因となって急性期に逆戻りしやすい時期でもあります。なお急性期に激しい陽性症状が見られないケースでは、急性期と消耗期の境界がはっきりしないことが少なくありません。

 急性期や消耗期が過ぎると、症状も徐々におさまり、「回復期(安定期)」に入ります。少しずつ安定感を取り戻していく時期です。一般的に回復期は数カ月~数年単位で経過します。

ただし、消耗期や回復期に病気を誘発するようなストレスがかかると、再び急性期へと戻り、また消耗期、回復期という経過をたどります。再発が繰り返されると、休息・回復にようする時間が長くなり、慢性化するリスクが高くなります。回復期になると薬物服薬を中断してしまう方々が多くなりますが、服薬を中断すると1~2年以内に80%~90%の人が再発すると言われています。

 統合失調症の予後を長期的に調べた研究によると、発病後早い時期から適切な治療を受けていけば、約6割の人が60代~70代に全快か、全快に近い状態にまで回復する事が明らかになっています。
また、統合失調症を発病したあと20年~30年の長期に渡る経過を調べた米国の研究では、回復または社会的治癒に至る群は20~30%、軽症群および、中等症群がそれぞれ25%~30%、重症群が15%~25%という結果が出ています。軽症群とは、症状があっても日常生活に支障がない程度を言います。回復、社会的治癒を合わせると、統合失調症の人の約半数が社会生活を問題なく送れていると考えられます。

統合失調症は再発しやすい

統合失調症は薬を服薬し療養すると、症状が改善されていきます。それでもう薬を飲まなくても大丈夫と自ら判断して、服薬を中断するとかなりの確率で再発します。服薬を途中でやめてしまうと2年以内に80%以上が再発するというデータもあります。

統合失調症は非常に再発しやすい病気ですが、薬をきちんと指示通りに飲み続けていれば、再発のリスクを低く抑える事ができるだけでなく、もし再発をしても症状が軽く済みます。

 進学、就職、恋愛、結婚、出産、引っ越しなど環境の急激な変化や人生の大きな出来事がきっかけで発症した人は、同じような環境に置かれた時、再発しやすくなります。統合失調症の方は、変化に弱いと言った傾向が見られるので、大きな変化があった際は、精神面をサポートし、再発しないように気を配る必要があります。

 また再発を防ぐ事も非常に大切ですが、早期治療もとても重要です。
一般に未治療期間が短ければ短いほど予後が良いとされ、逆に未治療期間が長いほど症状が重症化、慢性化すると言われています。
海外の調査では未治療期間が1年未満とそれ以上とを比較すると、1年未満の方が再発率が低いという結果も出ています。

急性期の治療

①    患者さんに「安心」をあたえる。
急性期は、陽性症状のために、頭の中が騒がしく、落ち着かない状態です。その状態を落ち着かせるために、まずは患者さんが安心して過ごせる静かで安全な環境を作る事が大切です。静かな環境とは、患者さんにとって、「刺激」が少ない環境です。急性期は、幻覚や妄想に支配されて混乱していることも多いので、わずかな刺激でも過剰な反応をしがちです。他人との接触が刺激になる事もあるので、この時期は、できるだけ外出を控えたり、テレビなどを見る事もいつもより制限する必要があります。
仕事や学校などの事を話題にするのも本人はあせりや不安になるので、これらの話題からは距離を置いた方がよいかもしれません。

 ②    十分な「睡眠」がとれる環境づくりをする。
また急性期は、さまざまな刺激で混乱している脳を、とにかく休ませることが大切です。そのためには、しっかり休息し、「睡眠」を十分にとる必要があります。そうはいっても、急性期はただでさえ眠る事が難しい事があるので、必要に応じて医師から睡眠薬を処方してもらう事も必要になります。

 ③    薬は必要かつ十分な量を使う。
急性期の治療では抗精神病薬の薬を使い、薬物療法を行っていきます。この薬物療法は幻覚や妄想などの激しい陽性症状をできるだけ早く軽減する事が目的です。この時期の薬物療法は、副作用に注意しながら、必要かつ十分と思われる量を投与する事が基本です。

 ④    安全面での配慮も怠らない。
急性期の治療でもっとも大切な事は、家族にとっても医師にとっても、「事故」を防ぐという事です。患者さんが病的な体験に振り回されて、自分を傷つけたり他人に危害を加えたりしないように十分に気をつけなければなりません。必要な場合には警察や医師に相談する事も大切です。注意力も低下しているので、火の不始末などにも注意が必要です。

慢性期の治療

慢性期は、幻覚や妄想などの激しい陽性症状はおさまっているものの、陰性症状や認知機能障害の為に「生活のしづらさ」が残る事が多く、この時期の治療法がその後の社会生活に大きく影響すると言っても過言ではありません。したがってこの時期の治療は、薬物療法に加えて、心理社会的療法などのリハビリテーションを並行して行いながら、病状の回復に努める事が基本になります。

リハビリテーションでは、患者さんを精神的にバックアップする「精神療法(認知行動療法など)」や、対人関係の練習や生活で必要な能力、ストレス対処法を身につけるSST(生活技能訓練)、遊びや作業を通じて集中力や持続力、作業能の回復をめざす「作業療法」などの様々な方法があります。これらのプログラムは病院やクリニックのデイケアなどで行われています。

ある研究では薬物療法だけおこなったグループでは再発率が30%だったのに対して、薬物治療とリハビリテーションを併せて行ったグループでは再発率が8%に下がったというデータもあります。再発を防ぐためにも、リハビリテーションは欠かせません。

社会的なリハビリの場

回復期になり、体の状況が良くなってきたら、少しずつ社会に出るためのリハビリが必要になってきます。社会的なリハビリの場となるのが先ほどもいった、デイケアや地域活動支援センター、就労移行支援事業所などです。これらの事業所で、社会生活に必要な能力を向上させたり、就労に向けて準備を少しずつ行い、体を整えていきます。

患者さんを支える社会制度と福祉サービス

上記に書いた以外にも、患者さんの助けになる社会制度や福祉サービスもあります。
障害者手帳を取得する事によって、税制の優遇措置がとられたり、公営住宅などへの優先入居。福祉サービスを利用する事により、居宅介護がうけられたり、障害年金制度により、毎月年金を受け取れるようになったりもします。これらの制度やサービスを必要に応じて利用していく事も、患者さんの生きづらさを解消する手助けになります。

 長々と書きましたが、病気を理解する事は早期回復や慢性化のリスクを減らしたり、再発のリスクを軽減する事にも繋がります。またこれは当事者の方だけでなく、周りの関係者にとっても負担軽減になると思います。この投稿が当事者・周りの方が最善な行動をとれるための一助、統合失調症への偏見の軽減に繋がれば幸いと思っています。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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