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引きこもりこそ一人旅を
突然だが、私は引きこもり体質だ。用事がない限り外には出たくないし、仕事以外では誰とも会いたくはない。休日は誰とも会わずにすむのでせいせいする。
だが、ここで一つの矛盾が生じる。私は引きこもり体質にも関わらず一人旅が好きなのだ。WEBメディアから「うちで旅行の記事を書きませんか?」といわれたり、「旅ライターとしての意見がほしい」と取材されるほどである。
引きこもりたいのであれば旅行に行かず家にいればいいのに、あえてどこかに行きたいというのはどういうことだろうか。
当然それは旅の「知らない場所で知らないものを見られる」という部分にひかれているためなのだが、知らないものを見るのであればネットで十分だ。時間も金もかからず、疲れもせずに、世界中のあらゆるものにアクセスできる。なのに、なぜわざわざ一人旅に行ってしまうのか。
実は「旅行が好きな引きこもり体質」という人は少なくない。ほぼ接点がないため名前は出さないが、私と同じWEBメディアで書いているライターさんにも「引きこもり体質の旅好き」を自称する方がいる。「引きこもり 一人旅」で検索すると引きこもりだけど一人で旅には出るという方のブログが続々と出てくる。
あと、観光地についたら辺りをよく見回してもらいたいのだが、観光客の中に大抵「早足で歩く表情筋が死んだ暗そうな人(大体若めの青年、眼鏡で細身)」がまぎれこんでいる。あれは私と同類の人間だと勝手に思っている。
私(と恐らく前述の方々)は、一人旅ならではの魅力にひかれているのである。それは、金と時間がかかる、疲れる、といったデメリットを凌駕するほどのものだ。
一人旅は、一人になれるのである。
あたり前すぎると思うかもしれないが、人が一人になるのは意外と難しい。独身の一人暮らしでない限り家には家族が住んでいるし、在宅のフリーランスでない限りは仕事で人づき合いをしなくてはならない。
世の中には、好き嫌い関係なく、人と接するだけでいろいろなものがすり減ってしまう人が一定数存在する。私がそうだ。
会社に入ってすぐ、3週間ほど同期たちと研修期間を過ごした時も、そうだった。同期はみんないい人だったが、みんなで夕食を取ったあと、1時間ほど外を徘徊したり、休日は遊びに誘われる前にさっさと一人で近隣の観光地に避難した。相手が好きか嫌いかに関わらず、定期的に「一人」を摂取しないと疲れてしまうのだ。
理解しにくい方もいるかもしれないので、念のため違う表現で同じことをもう一度書くが、一人だと寂しくて落ちこんでしまう人の逆で「周囲に誰かがいるだけでどんどん消耗してしまうので一人になる時間が必要」という人間がたまにいるのである。
そうなってしまう原因は人それぞれだと思うのであまり深くは言及しない。神経過敏な人、気を使いすぎな人など、人とのつき合い方が苦手な人がそうなりやすいと思っている。
そういう人にとって、一人旅は最適だ。知らない場所で知らない人に囲まれて、心地よい一人を味わうことができる。これを味わえるのが一人旅の醍醐味だ。
この心地よさは、一人旅と引きこもりの「周りと隔絶されている」という共通点からくるものだと思う。自分の部屋に閉じこもっているのも、知らない土地に一人きりなのも、周りから切り離された状態なのに変わりはないからだ。自室とは違い知らない場所なので、普段よりさらに一人きりになったという感覚が強調されるのもいいのかもしれない。
自室でネットサーフィンするのと同じように、知らない土地をさまよい、興味あるものにアクセスしていく。ネットの匿名掲示板で知らない人と交流するように、旅先で知らない人と接する。後腐れのないその場限りの関係だ。形は違えど本質はなんら変わりない。
一人旅にはいろいろなメリットがあるが、今回はあえて、引きこもりと似ているという視点からメリットを考察してみた。
本当の引きこもりの方はもちろん、日々の生活に疲れを感じ、休みの日は家から一歩も出たくないという方も、まずは近隣の観光地からでいいので一人で旅に出てみてはいかがだろうか。
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