ザック・スターキー徹底解説
ザック・スターキーはビートルズのドラマー、リンゴ・スターの息子であり、ザ・フーのキース・ムーンの弟子である。そして僕が最も影響を受けたドラマーと言っていいと思う。
キース・ムーンの弟子といっても彼から直接ドラムを教わったことは無いそうで、よく自宅に父のリンゴを訪ねてきては、ザックや弟のジェイソンに女の子の口説き方を教えたりしていたのがほとんどだったそうだ。
そんなザックが誰よりもキースの魂を継承し、ファンの涙を誘うほどのプレイをザ・フーで炸裂させているのは物凄くドラマチックだ。だから僕はあえて「弟子」という言葉を使いたい。
自他ともに認めるザック・フォロワーの僕が思う彼のプレイの神髄は、ロックンロール・ビートの歴史が全てインプットされている『腕』から繰り出される大河のようなリズムにある、と思う。
彼のビートを聴くと、まるで古文書を紐解いたような気持になるのと同時に、ものすごくモダンな感性も感じるのだ。彼が1965年生まれのパンク・ニューウェーヴ世代であることも影響しているんだと思う。まさに7代目立川談志が言うところの、ロック版「伝統を現代に」である。
今回の記事は、僕が持っているザック参加作を紹介しながら、彼の魅力を解説するものにしようと思う。「ザック・スターキーの魅力を最も的確に説明できる日本人」を目指していこうと思う。
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①『ベスト・ソー・ファー』リンゴ・スター・ヒズ・オールスター・バンド(DVD)
ザックは父の率いるオールスター・バンドに参加していた。このDVDはそのバンドのライブ・ベスト盤的な一枚で、ザックが参加していた時期のものも収録されている。
このDVDに収録されているザックは30歳。僕が持っている参加作の中で最も若いザックである。Tシャツ姿でタイトなビートをキメている。彼のスタジオミュージシャン的な側面が観れるのが嬉しい。リンゴと並んでドラムをプレイしている様子は感涙ものである。
②『ブーム・スラング』ジョニー・マー+ザ・ヒーラーズ(CD)
ご存じ元スミスのギタリスト、ジョニー・マーのバンド、ヒーラーズのメンバーとして全面参加。
ハイハットワークが光るグルーヴィーなプレイが聴ける。オアシスやザ・フーのプレイではあまり聴けないタイプのサウンドである。ブルースの要素もあり、濃厚なバンドアンサンブルが魅力の一枚。
ベースのアロンザ・ベヴァン(元クーラ・シェイカー)のプレイも素晴らしい。
③『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』オアシス(LP)
中学時代の僕のザックに対するイメージは、まさしくザック・スターキー=オアシスだった。
『現代のビートルズ』と言われるオアシスに、サポートメンバーとはいえリンゴの血を受け継いだザックがいるということは物凄い奇跡...ビートルズ研究家の宮永正隆氏の言葉を借りれば、まさに『宇宙のプログラム』である。
オアシスのメンバー達も、ザックが加入することを切望していたようで、リアムは「オヤジ(リンゴ)のサインを持ってきてくれればすぐにオアシスに入れてやる」と発言していた(どんな時でも上から言うところは流石である)。
このオアシスの6thアルバムは60年代っぽいサイケの香り漂う、バンドの作品の中でも特異な一枚で、ザックのロックンロール・クラシック的な要素が存分に発揮されている。
④『ロード・ドント・スロウ・ミー・ダウン』オアシス(DVD)
オアシスの映像作品の中で唯一のザック参加作。マンチェスターでのコンサートの模様が収録されている。
観客のボルテージはMAXだが、個人的にはもっと音が良くて、ザックと密なアンサンブルを繰り広げてるコンサート映像はあるような気がする(正直YOUTUBEのブート的に転がっている映像のほうがパフォーマンス的には質が高い)。
しかしこの『宇宙のプログラム』はやはり現実だったと思わせる内容で、『ロックンロール・スター』のドライブ感は圧巻。
そしてザ・フーの『マイ・ジェネレイション』のカヴァーは、このDVDでも圧巻のラストを飾っている。この一体感を観ると、やはりザックがオアシスのメンバー同然として機能していたことを伺わせる。
⑤『ディグ・アウト・ユア・ソウル』オアシス(LP)
オアシスのラストアルバム。このアルバムのレコーディングを最後にザックはオアシスを離れ、その後行われたツアーには参加していない。
ビートルズ中期的なサイケ感を現代的にアップデートした今作は、ザックとオアシスの共同作業で生み出した最高の一体感で溢れている。
『アイム・アウア・タイム』はリアムがジョン・レノンに捧げたトリビュートソングで、ザックはドシッとした濃厚なグルーヴを打ち出している。アウトロではジョン・レノンのインタビュー時の肉声が流れる。これをジョン・レノンとリンゴの息子、ザックの共演と考えると感慨深い。
『フォーリング・ダウン』ではビートルズの『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』のようなオリエンタルなフレーズを打ち出している。
そして白眉はやはり『ショック・オブ・ライトニング』。この曲で聴けるザックのドラムソロはまさにキース・ムーンを彷彿させる圧倒的なものである。
キッズだった僕はこの曲を聴くたび、猛烈にワクワクする気持ちになった。間違いなくザック・スターキーのあらゆる魅力が集約された、現代ロックドラマーのマスト・アイテムである。
⑥『トミー-ライブ・アット・ロイアル・アルバート・ホール-』ザ・フー(LP)
名盤、ロックオペラ『トミー』の2017年の再現ライブ。まさにザックの真骨頂ともいえるプレイが炸裂している。
アタッキーかつヘヴィーな音だが、重心が低くなりすぎない、真似しようとしても到底できない『ザ・フーのビート』である。バンドが恐ろしく一体となり、猛スピードで転がり続ける様は脱帽するほかない。アンコールの模様も収録されており、『ババ・オライリィ』では歴史の集大成ともいえるとてつもないオーラを放っている。とにかくとてつもない熱量が徹頭徹尾保たれている。
ピート・タウンゼントのギターも信じられないくらい先鋭的でかっこいい。世界最高峰のギター・ミュージックとザックの奇跡のケミストリーが味わえる一枚である。
⑦『フー』ザ・フー(LP)
昨年リリースされたザ・フーの最新作。ついにザックが全面参加するフーの新作がリリースされる!と期待していたら、ザックが参加した曲はアルバムの半分以下。
あれだけコンサートでは付き合いが長くても、レコーディングでは全曲参加するわけでは無いのかと少し驚いた。コンサートと音源制作のすみ分けをくっきりさせるピート・タウンゼントの意向だろうか。
とはいえ内容は1曲目からザ・フーお得意の希望に満ちたロックンロールナンバーの応酬である。『ストリート・ソング』ではニューウェーブ的なダンサブルなビートを繰り出している。これも彼の世代感が伺える瞬間である。
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僕の所有しているものは以上。結局彼が最も深く関わっているザ・フーの作品は2枚しか持っていなかった。
最も多いのはオアシス。僕がリアルタイムで体験したオアシスとザックの在籍期間が見事にバッティングしている。僕の青春のドラマーはまさしくザック・スターキーだったのである。
ザックが10歳の時、リンゴがリヴァプール時代からの伴侶であるモーリンと離婚。この時ザックは相当荒れたそうで、典型的な不良少年になった。ドラムをプレイするうえでも、父と比較されることは、当初相当なストレスだったようだ。
そして徐々にプレイヤーとして頭角を現し、かつての友人であり師でもある、キース・ムーンのいたザ・フーのドラマーとしてステージに彼が現れた時、キースの魂を感じさせる彼のプレイにオーディエンスは沸いた。
なんと美しい人生だろう。これも『宇宙のプログラム』。僕はそんなところも大好きだ。
1965年生まれのザックは今年で55歳。なかなかの高齢になってきた。新作もリリースされたことだし、僕はザ・フーの来日を切に願っている。
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