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【妄想脚本】古畑任三郎 vs UMA研究家(1/4)

はじめに

以前Twitterで、UMA研究家の中沢健さんがこんなツイートをされた。

「古畑任三郎を語る人」というTwitterアカウントで、私はしばしば「#古畑任三郎の妄想犯人」というtagとともに、もはや実現することはないことを承知の上で、観てみたかった犯人役ゲストと簡単な設定をつぶやくことがあるが、中沢さんのような発想がなかった私にはこれが非常に新鮮かつ魅力的に感じられ、これを受けて次のように引用ツイートをさせていただいた。

今回、この引用ツイートを基に、古畑がUMA研究家である犯人と対決するエピソードを、脚本の形式で一本書いてみたので、数日に分けてここに公開する。想定キャストは次のとおり。

古畑任三郎・・・田村正和
平澤たけし・・・イッセー尾形
今泉慎太郎・・・西村雅彦
西園寺守・・・石井正則
向島音吉・・・小林隆
磯田しげる・・・甲本雅裕
※2003年当時の各位を想像してください。

なお、今回公開するエピソードは、結果的に上記引用ツイートの内容とは必ずしも一致する内容にはならなかったので、この点はご留意いただきたい。ただし、「すべて閣下の仕業」(松本幸四郎の回)の直前に違和感なく挿入できるよう、前後のエピソードの設定は最大限活用したので、古畑マニアの方は、このあたりもぜひお楽しみいただきたい。

また、もちろんサブタイトルも考えたが、ちょっとした趣向から、最終回(第4回)の末尾に掲載することとさせていただきたい。

それでは、『古畑任三郎』妄想エピソード、内容へのツッコミはどうかお手柔らかに、ご覧ください(全4回)。


アバンタイトル

古畑「夜眠れない時、頭の中でヒツジを数えること、あると思います。実はこれ、ヒツジじゃなくてもいいって言います。ヤギでやってみてください。きっと同じ効果があるはずです。問題なのは、ヤギの正確な姿を想像できる人が少ないということで」

ホテル・平澤の部屋(夕暮れ)

2003年、南米の某国。
夕日に染まる海を望むヴィラ形式のホテルの一室で、一人の男がノートPCに向かって何かを打っている。
顔から首周り、腕から指先まで浅黒く日焼けした男。UMA研究家兼民俗学者・平澤健(50)。
平澤のデスクの周辺には、彼の著作、雑誌での写真付きインタビュー記事等が散乱している。
このホテルに長期滞在している様子が窺える。

平澤の携帯電話が鳴る。着信画面には「磯田」の文字。
平澤、それを確認して携帯電話に出る。
平澤「はい。……どこに。……今から?……今RTVの原稿書いてるんだけど。今じゃないとだめ?……わかったよ。じゃあ15分くらい待っててくれ、はい」
携帯電話を切る平澤。再びノートPCに向かいつつ、コーヒーを一口啜る。

しばらくして、部屋を出る平澤。
ドアに鍵をかけていると、隣の部屋からスペイン語の女性の声。
ひどく興奮した様子で誰かに何かを訴えている。隣の部屋の玄関のドアは空いている。
平澤、ドアに鍵をかけて、磯田のところへ向かう。

ホテル裏の小高い丘(夜)

ほぼ日が暮れてしまった丘で、かがみ込んで何やら作業をしている男。UMA研究家兼タレント・磯田茂(35)。
そこに、平澤がやってくる。
磯田、作業をしながら、近づいて来る平澤に話しかける。
磯田「お忙しいところすみません、先生」
平澤「何やってんだこんなところで」
平澤、蚊を手で払いながら磯田に話しかける。
と、平澤、磯田の足元にヤギの死体が横たわっているのに気付く。
平澤「どうしたんだよそれ」
磯田「そこの牧場にいたやつをね、ちょっと拝借してきたんですよ」
平澤「拝借ってお前、死んでるじゃないか」
磯田「血を抜くのって結構大変ですね。先生にも手伝ってもらおうかと思ったけど、忙しいだろうと思って自分一人でやっちゃいました」
平澤「まさかお前」
磯田「お察しの通りですよ。奴にやられたように」
平澤「馬鹿なことを……」
ヤギの臀部には、何かに噛まれたような傷。磯田が付けたものである。
平澤「奴はそんなところから血は吸わない」
磯田「そういう個体もいるってことにしたほうが面白いでしょ」
平澤「面白いってお前」
磯田「これでまた世間が沸きますよ。しばらくまたこれで食っていける」
平澤「そういうやり方は感心しないな」
磯田「みんな楽しんでくれるんだからいいじゃないですか。俺らの仕業ってことさえバレなきゃ」
平澤「『ら』って言うな。バレたら大変なことになるぞ」
磯田「バレなきゃいいことですよ」
平澤「バレるに決まってるだろう」
磯田「バレませんよ。俺と先生が黙ってさえいれば」
平澤「……」
磯田「よし、じゃあ運ぶんで手伝ってください。先生を呼んだのはね、……」
平澤「悪いが俺は協力できない」
磯田「もう見ちゃったんだから共犯ですよ先生」
平澤「俺は知らん」
平澤、踵を返して立ち去ろうとする。磯田、平澤の肩を掴んで止めようとする。
磯田「まあそう言わずに」
平澤、磯田の手を振り払う。なおも手をかけてくる磯田。
やがて二人は揉み合いになる。
と、磯田が足を滑らせ仰向けに転倒する。磯田、地面から剥き出しになっている石に後頭部をぶつけ、動かなくなる。
平澤「おい」
磯田、ピクリとも動かない。鼻と耳から流れ出す血。絶命している。
平澤「……!」
ヤギの死体に寄り添うように横たわる磯田の死体。
平澤、我に返り、磯田が使っていた工作道具を回収する。

丘の近くの海沿いの岩壁(夜)

波が高い海に反り立つ岩壁。
平澤、工作道具などを岸壁から海に投げ捨てる。

ホテル・平澤の部屋(夜)

一仕事終えてホテルに戻ってきた平澤。
と、物陰から、痩せ細った現地の少年(10歳くらい)が突然現れる。
平澤とすれ違う少年。
少年、すれ違いざまに平澤のズボンの後ろのポケットから財布を抜き取ろうとする。
気付いた平澤、財布を手で押さえて叫ぶ。
平澤「(スペイン語で)何してんだこの野郎!」
スリに失敗した少年、びっくりして走り去る。
走り去る少年の後ろ姿を、興奮した様子で見送る平澤。
平澤、部屋に入ると、足元に1枚のフライヤーが落ちていることに気づく。
手に取った平澤、フライヤーには一瞥もせず、目を瞑って深呼吸しながら、心を落ち着かせようと必死な様子。

ホテル裏の小高い丘(夜)

地元警察が現場検証を行なっている。周囲には野次馬。
磯田の死体にはシートが被せてあり、少し離れてヤギの死体が横たわっている。
地元警察に聴取されている平澤。神妙な表情で、スペイン語で何やら話している。

野次馬の中から、一人の男が飛び出してくる。アロハシャツを着た向島音吉巡査である。
向かった先には、全身黒ずくめの男が脚を組んで切り株に座っている。ご存じ、古畑任三郎警部補。
向島「どうやら人が亡くなったみたいですね」
蚊を払いながら報告する向島。
古畑「バカンス先でまで事件に遭遇するのは勘弁してもらいたいもんだ」
向島「事故みたいですよ。転んで地面の石で後頭部を強打したみたいです」
古畑「なんか嫌な予感がするなぁ」
古畑、蚊を払いながらぼやく。
向島「あと人だけじゃなく、ヤギも死んでいるみたいです」
古畑「ヤギ?」
向島「血が抜かれてるみたいです」
古畑「どっちの」
向島「ヤギのです」
古畑「どういうこと」
向島「警察の話を聞くところによると、チュパカブラにやられたんじゃないかって」
古畑「チュパカブラ?」
向島「首に血を吸われたような跡があったみたいです。(興奮気味に)まさかこんなところで遭遇できるとは思わなかったな」
古畑「向島君さ、途中から話についていけてないんだけども、何、そのチュパなんとかってのは」
向島「『チュパカブラ』です。このあたりの地域に生息していると言われている、未確認生物ってやつです。家畜を襲ってこう血を吸うんです」
古畑「何、妖怪みたいなもん?」
向島「微妙に違う気がしますが……」
古畑「向島君さぁ、何だかよくわからないけども、多分事故だね。間違いないよ。足滑らせて頭打ったんだよ。可哀想に。……帰ろうか」
と、立ち上がり、現場から逆の方向に歩き出す古畑。向島もそれに追随する。
向島「古畑さん、あっちの方はどうしましょう」
古畑「あっち?」
頷く向島。何のことか気づく古畑。
古畑「どうしましょうったって、これだけ探しても見つからないんだから、今日は諦めるしかないでしょう」
向島「何と申し上げたら良いか……」
古畑「いや君はよく探してくれたよ」
向島「お力になりませんで」
ご機嫌ナナメな古畑。と、そこに、
平澤「ハックション!」
と、くしゃみが聞こえる。
古畑と向島、思わずくしゃみが聞こえた方を見る。野次馬の喧騒から離れた場所で、電話をしている一人の男。平澤である。
平澤「……ああ失礼しました。……ええ、夕方から姿が見えないんでどこ行ったのかと思ってたら、警察が来ましてね。……ええ、……ええ。とりあえず今夜は一旦警察が現場検証をするから明日の朝警察署に来てくれって言われました。……はい。また状況はお伝えします。……はい。」
電話を切る平澤。後方に視線を感じ振り返ると、古畑と向島が立っている。
古畑「あの、失礼ですけども、日本の方ですか」
平澤「そうですが」
古畑「(うれしそうに)だと思った。実はくしゃみをされるのが聞こえまして。はっきりと『ハックション』と。これはきっと日本の方だぞと」
平澤「それはお恥ずかしいところを」
古畑「ご旅行ですか」
平澤「いえ、仕事でこちらに滞在しています。ひと月ほど」
古畑「お仕事で。……しかし……暑いですね。夜になっても全然気温が下がらない」
平澤「でしょう。この時期は昼間より夜の方がかえって蒸し蒸ししますからね。おまけに、冬は冬でそれはもうこたえられない寒さになります。ま、人間が暮らす上では、北極の次にふさわしくない場所と言えるでしょうね」
古畑「リゾート地と聞いて勝手に快適だというイメージを持ってしまっていました。騙された気分です」
平澤「あなた方はご旅行ですか」
古畑「そうです」
平澤「ひょっとして、泊まられているのはマリーナ・イザワ・ヴィラ?」
古畑「そうです。すぐお分かりに」
平澤「この辺でホテルって言ったらあそこくらいですからね。実は僕もそこに滞在しているんですよ」
古畑「そうでしたか。……で、どうしてこちらに?」
と、古畑地面を指差す。
平澤「実はあそこで死んでるのは僕の同僚でして」
古畑、一瞬絶句する。
古畑「それはとんだことで。お察しします」
平澤「夜になってもホテルに帰って来ないもんだから、何かおかしいなと思ってたら、警察が訪ねてきましてね。どうやらあそこで転んで頭を打ったみたいです」
古畑「いや何と申し上げたら良いか」
向島「ひょっとすると、平澤先生ではありませんか」
平澤「そうですが」
向島「やっぱり」
古畑「何、お知り合い?」
向島「UMA研究家の平澤健先生ですよ。ほら、よくテレビに出てらっしゃる」
古畑「最近あんまりテレビ見ないからね」
向島「たけしの番組ですよ」
古畑「そういえばお顔は拝見したことがあるような」
平澤「本業は大学の教員をやっています。民族学が専門で、UMAの方は、まあ言ってみれば副業みたいなもんですね。ちょっと待ってください。今名刺あったかな」
平澤、ズボンの後ろのポケットから財布を取り出すと、
平澤「ちょうど2枚ありました。あらためまして、こういう者です」
古畑と向島、名刺を受け取る。
向島「申し訳ありません、今バカンス中で名刺を持ってきてないもので」
古畑「私は普段から持ち歩いていないもので、すみません。私、古畑と申します」
向島「向島と申します」
古畑、受け取った名刺を読み上げる。
古畑「……『ウーマ研究家』。……どういったお仕事なんですか」
平澤「『ユーマ』と読みます。『ユーマ研究家』」
古畑「失礼しました。どういったお仕事なんですか」
平澤「ユーマというのは、『未確認生物』という意味です。といっても和製英語ってやつなんで、日本でしか通じませんが。世界各地で目撃情報はあるけど、まだ存在がはっきりとは確認されていない生物の調査をしています」
古畑「未確認生物。妖怪みたいなもんでしょうか」
平澤「ちょっと違いますね。でも、日本で言うと、河童なんかもたしかにUMAの一種として数えられていますね」
古畑「……」
平澤「あ、胡散臭いって思ってるな」
古畑「いやぁ……(返答に困る)」
平澤「ま、無理もないでしょう。学問として必ずしも確立しているわけではないし、エンターテイメントの要素が強いのは否めない。だから僕も本業の研究の傍ら、テレビ局のお金なんかを使わせてもらって、何とかやってる状態です。でも子供の頃からの夢だったんです、河童とか、ツチノコとかを見つけるのが」
古畑「ツチノコ……なるほど。夢のあるお仕事で(あまり理解できてない様子)」
平澤「僕にとっては仕事以上のものです。『生き方そのもの』と言っていい」
古畑、深く頷く。
向島「チュパカブラが出たとかで」
平澤「よくご存じで」
向島「みなさん口々に話されているものですから」
平澤「ほう、スペイン語がお分かりに」
向島「まあ多少は」
古畑「彼、最近プエルトリコ人の女性と結婚しまして。だからスペイン語も堪能で、この旅ではかなり助けてもらってます」
平澤「なるほど」
古畑「実はあと二人一緒に来ているやつらがいるんですが、そいつらには彼がスペイン語話せるってことは黙ってもらってまして。通訳なんかは全部そいつらにやらせてるんですけどね。これがまた必死になってて面白くて……なあ」
向島「お二人とも頑張ってますけど、まだまだですね(謎の上から目線)」
古畑、ふふふと笑う。
古畑「……で、ええと、……何なんですかそのチュパなんとかってのは」
平澤「チュパカブラというのは、この地域で何度も姿が確認されているUMAです。家畜を襲って、その血を吸って殺してしまうという」
古畑「それは怖いですね。ではなんですか、同僚の方が亡くなったのはひょっとしてそいつと関係があるとか?」
平澤「たしかにチュパカブラは稀に人間を襲うこともあります。でも警察の話によると、磯田には襲われた形跡はないとのことです。ただ、ヤギの死体がすぐ傍にあったもんですから」
古畑「伺いました」
平澤「そっちの方に、チュパカブラに襲われたとみられる形跡がありまして」
古畑「なるほど」
平澤「詳しいことは分かりませんが、ひょっとすると磯田はチュパカブラに遭遇して、驚いた拍子に運悪く転んで頭を打ってしまった可能性もあるんじゃないかと……」
古畑「それなら辻褄が合いますね」
平澤「運の悪いやつです」
古畑「しかし分からないのが、そのヤギはどこから連れてこられたんでしょうか。まさか野生のヤギってことはないでしょうし」
平澤「すぐそこの牧場のヤギのようですよ。首輪が付いていたようですから」
古畑「なるほど牧場で飼われていたのが襲われてここまで運ばれてきた……その……ええとなんでしたっけ」
平澤「チュパカブラ」
古畑「はい。そして血を吸っているところを磯田さんが発見し、びっくりされた磯田さんが転んで頭を打って、お亡くなりになった」
平澤「警察の話ではどうやらそういうことのようです」
古畑「不運としか言いようがありませんね」
平澤「しかし磯田は、最後にその目でチュパカブラの姿を見ることができたのかもしれない。そう考えると、あいつも少しは浮かばれるかもしれません」
古畑、深く頷く。
古畑「ちなみに先生、今日こちらの場所に来られましたか。磯田さんが遺体で発見されるより前に」
平澤、一瞬表情が曇る。
平澤「いいえ」
古畑「そうですか」
平澤「そもそもこんな場所があるなんてことも今来て初めて知りましたが。それが何か」
古畑「いえ、大したことじゃないんですが……磯田さんここで何をされていたのかと思いまして」
平澤「チュパカブラを探してたんじゃないですか」
古畑、額に手を当てて考え込む。
平澤「何か疑問でも」
古畑「いえ、ふと気になりまして」
平澤、切り上げたい一心で、袖を捲って腕時計を見る仕草をする。
平澤「すみません、明日もありますので僕はこれで」
古畑「そうですね。急にお声かけして申し訳ありませんでした。どうかお気を落とされませんように」
平澤「ありがとうございます。それじゃ」
一礼して去る平澤。古畑と向島も一礼して、後ろ姿を見送る。

頭を上げる古畑。
古畑「向島君さぁ」
向島「はい」
古畑「ちょっと頼まれごとしてくれるかな」
向島「(不思議そうに)何か」
古畑「死んでたヤギ、すぐそこの牧場から連れてこられたんじゃないかって言ってたろ。警察もきっと今夜その牧場に捜査に行くだろう。いやもう行ってるかもしれない。警察が牧場の人と何を話してるか、こっそり聞いてきてくれないかな」
向島「何のために」
古畑、不思議そうな向島の顔を見て、意味深に微笑む。
向島、古畑が何か思いついたことを察する。
向島、古畑の役に立てることに使命感を感じ、顔がほころぶ。
向島「わかりました!」
向島、警察が集まっている方面に走っていく。
古畑、それを見送ると、ニヤリと笑みを浮かべる。

2/4へつづく

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