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前奏曲集

連休なので、息子と一緒に無印のぼってりした体にフィットする巨大なクッションでゴロゴロしながら、Appleミュージックでモーリス・ラヴェルとかクロード・ドビュッシーとかオリヴィエ・メシアンとかを再生していた。ふと、イェルク・デムスの演奏を思い出した。検索するとピアノ作品全集があったが、私の記憶に残っているのは、20代中盤頃、当時住んでいた市川市の図書館で借りた、彼の演奏する『映像 第1集』だった(そのCD自体はトマス・ヴァーシャーリとカップリングの廉価盤だった。懐かしきドイチェグラモフォンの1000シリーズ。ジャケットは異常にダサかった)。その曲と演奏は、音が水の底から浮かび上がる気泡のように波紋を作り、気泡と思っていたらいつの間にかの雨降りで、勘違いが目眩のように意識を揺らし続け、その雨粒にはまるで油絵具色が付いているかのような衝撃を受けた。その時まで、色彩と音のテクスチュアの関係性について、意識したこともなかった。音楽のオールタイムベストではなく、ある種の方向性を作ってくれた録音がいくつかあって、その過去を遡っていく過程は楽しい。多くの詐欺師達は今とか未来に眼を向けろと人々を洗脳するが、過去の方が楽しいに決まっている。記憶は自分でコントロールできるし、改変し捏造し、破壊することも焼却することも可能だ。今ではミケランジェリやヴェルナー・ハースやモニク・アースやポール・ジェイコブスばかり聴いているが、デムスもたまに聴くのはそのバリエーションとして悪くない。

音楽と音楽の記憶とそのメモ。