2匹のコバピクミン
私の手には赤ピクミンのぬいぐるみがある。
これは私の父がイオンで買ってきたものである。
そして私はピクミンが特段好きではないし、なんならゲームもしたこともない。
全然知らない。
改めてもう一度言おう。
(ピクミンを好きでもないし、全然知らない)私の手には(父親が買ってきた)赤ピクミンのぬいぐるみがある。
文章は長くなってしまうが、(まぁnoteはそのためにあるようなもんだろと思いつつ)
このピクミンの謎を全部書いていくからよろぴくみん。
時は先日、私が親知らずを抜いた直後に戻る。
無事に歯が抜き終わった私に1通のラインが届いていた。
「歯、抜き終わった?」
そのメッセージを送った我が父は、今姪っ子とららぽーとでショッピングをしていると言う。
お昼ご飯をららぽーとで一緒に食べるか、そうでなければ、歯抜けのわたしに優しいご飯を買ってきてくれるとのことだった。
普段なら歯を抜き終わって疲れた私は自宅へ直行し、自宅でお昼を食べるのであるが、その日のわたしは違った。
『ピクミンのガチャガチャを探す』
このような大義名分があったのだ。
さて、本投稿の第一の謎
「そもそも何故、父が私のためにピクミンを購入したのか」
と言う問いについてが、この後の行動で明らかとなる。
私には付き合って数ヶ月の彼女がいる。
そして、その彼女がピクミンを愛していて、11月中旬から始まったピクミンのガチャガチャをしたいと話していたのだ。
「探してもなかなか見つからないよー。どうしようー終わっちゃうよー」
と話す彼女。
お分かりいただけるだろうか。
私は私が愛する人間の、愛するピクミンのために、歯を引っこ抜かれた直後の自分に鞭を打ち、ガチャガチャを探しに行ったのである。
もはや私が彼女のピクミンと言っても過言ではないだろう。
そんなコバピクミンはららぽーとへ向かった。
久々に姪っ子と会い、存分に楽しんだ後、父にお願いをしガチャガチャ探しの旅へ出かけた。
そして、予想の通りピクミンのガチャガチャはないのである。
調べると東京の中心と深谷にあるようだ。
(なぜ深谷なのだろうか)
(あと初めから調べろと言うツッコミはコバピクミンにダメージがすごいのでやめていただきたい)
そんなコバピクミンを哀れに思ったのか、父はしばらくの間探してくれた。
「ピクミンのポチ袋あったよ」
「ピクミンのちっちゃいぬいぐるみあったよ」
目につく、ピクミンアイテムを報告してくれる父に私は罪悪感を覚える。
「ピクミンのクレーンゲームあったよ」
ごめん、俺が探してるのガチャガチャなんだ...
だがしかし、このまま帰るのも癪である。
やってやろうじゃないか。
父親の苦労にも報いたい。
クレーンゲームをすることにした。
すると親父は「ハイ」といって500円をくれたのである。
やさしさに涙。
血の滲んだ500円を入金し、ゲーム開始。
コバピクミン撃沈
涙。
両替機から戻ってくる父。その手には500円。
「俺に任せな」
涙。
父撃沈。
涙。
1000円を使いゲームコーナーで涙を流している、65歳と24歳の男2人。
歯茎の痛みがだんだんと強くなってくることを言えないほど、切ない父の背中を追いかけながら、ららぽーとを後にした。
さぁさぁ、長くなったが、時を謎のぬいぐるみ、赤ピクミン登場の直前に戻す。
仕事を終え0時すぎに家に帰ると親父がまだ起きていた。
私に話があるようで、手招きをしながらうれしそうに話を始めた。
「今日さ、イオンに行ったの。そしたらこの間のピクミンのクレーンゲームがあったんだけど、前のは2本のアームだったじゃん、イオンのは3本のアームだったのよ!」
ま、まさか親父...ずっと探してくれていたのか、、
罪悪感と大いなる愛を同時に受け、狼狽えてる私をよそに親父は話を続けた。
「アーム3本に加えて回数の制限がなくて、自由自在に操れるの」
父はアームを前後だけでなく、斜めにも動かせる驚きを身振り手振りで教えてくれた。
そして、このように話を締めた。
「それでやってみたけどまたダメでした笑」
やってみたんかい!!!
あの背中が目に浮かぶ。
やはり罪悪感が勝る。すまん親父。お金を使わせてしまって。そしてそれが俺の欲しいもの、もとい彼女の欲しいものでもないことをここに謝る。
すると親父はゴソゴソとカバンの中を漁り始めた。
「悔しくてさ、いろいろぶらぶらしてたら...」
と言って取り出したその手には、
赤ピクミンのぬいぐるみが握られていた。
お待たせした。
これが赤ピクミンの真相である。
私の為にと思って探してくれたものは、そもそも私のためではなく、彼女のためであり、仮にクレーンゲームが成功したとしても、彼女のお目当てではなく、買ってくれた赤ピクミンのぬいぐるみは、全然ピクミンを知らない男の手に渡ってしまったのである。
さすがにこれを彼女にあげるのは気が引ける。
あと、ちょっと重い。
大きさの割にビーズのようなものがお腹に詰められており、しっかりとした作りだ。
そして、この目である。
悲しいのか嬉しいのか分からない魚のような目。
まるで倫理観を問われているかのようである。
わたしはこのピクミンのぬいぐるみを引き受けることにした。
そして、父親の良心を無碍にしないために、コバピクミンは決意を固めた。
ピクミンのゲームやります。