26歳 家を買う
「家を買う。」
先日、26歳の二男(次男)から唐突にこれだけただ一言のラインがきた。
何かの冗談か?
とは思わなかった。
二男のそんな、なんというか突然な、「思いたったが吉日」的な性格をよく知ってたからだ。
二男に彼女がいたことは知っていた。
しかし、会ったことはない。
横浜という憧れの地の駅近、けして安くはない家を買うというのだ。間取りも土地面積もじゅうぶん。
結婚を視野に入れての話しだとは思う。
二男はめちゃ大手の企業に就職、好きな分野の開発をしている。彼女もバリバリのキャリアウーマンというのは聞いていたから、無理な買い物ではないとは思うが、思うが、思うが…
順番ちゃうやろ!
わたしは彼女さんと会ったことも話しをしたこともないねんで!
もちろん夫も彼女さんの顔は知らない。
『まずは彼女をお目にかからせてはくれんのかいな!』
と壁に向かって叫んだが、誰も答えてはくれない。当たり前だが。
彼女の存在を知った時、写真を見せてくれと、だだをこねたイチオ母のわたしが見たのは
「朝日を見つめる彼女の後ろ姿」
や、
「夕焼けに染まる噴水と彼女の影」
とか
「トンネル入口に立つ逆光で全身まっ黒い形にしか見えん彼女」
だった。
芸術的な写真だ。が、
今は芸術など、どうでもよい。
顔!
カオがみたいんじゃわい!
本音と建前をうまく使いこなし、
子どもの前では
「あなたが選んだ人なら何も言わずにわたしはただただ応援するよ」
と若干、唇を震わせながら言っているが実際の心ん中じゃ、
どんなお顔?どんなお人柄?
が、めちゃめちゃ気になる。
それは世の中の親ならまず、共感していただけるだろう。
それをすっ飛ばして家を買うたぁ、やってくれるやないか。
二男よ。
4歳くらいの頃の二男は、
一緒に行った公園で遊具の雲梯をスタスタと、猿がごときに伝いわたっていた。と、途中でピタと止まる。ん?疲れた?
と、そばで見ていたわたしはしばらく様子をうかがっていた。
足から地面までは1メートル近くはあっただろう。
宙ぶらりんのまましばらくフリーズした二男が、
「母ちゃん!助けて!」とわたしに涙目で訴えるだろうと思い込んでいたが、なんてこたぁない、両手を広げて二男を受け止める体制を整えていたわたしに助けを求めるどころか、わたしの顔を見ることもなくパッと手を離した。
これくらいの高さなら手を離しても大丈夫とおもったんか、はたまたなんも考えず手を離したのかは今となっちゃわからないが、
ケガもなく無事着地し、涼しげな顔をしていた。
「石橋を叩いて渡る」などということわざは二男の辞書には載ってはいない。雲梯に限らず、やる前の高いな、怖いな、やめとこ、とかは一切なかった4歳児。
ある意味怖い。
そのまんま26歳になった。
小学生の時の二男は、刈り取られた田んぼの真ん中で仰向けに大の字になり空を眺めていた。白い服は見事に泥色になっている。
うちの窓から見えるその田んぼに寝そべっている子どもを遠目に見ながら
「あ、あの子の親御さん、洗濯が大変だわ…」と泥色に染まった服を見てわたしは呟いていた。顔をよく見ずに「よその子」と確定し、呑気に笑っていたが、それがまさかの自分の子だった、というオチだ。
その後、緑の固形石鹸「ウタマロ」を片手にお風呂場で泥を落とすべく下洗いし、二男の服を「なんてこった」と愚痴をこぼしながらゴシゴシたのは言うまでもない。
子ども達が通った小学校は制服はない。小学校の卒業式は皆がおしゃれをする。女の子はキラキラフリフリといつもの格好とはまるで違う可愛らしいお洋服で卒業式をむかえる。
男の子も蝶ネクタイやチビビジネスマンみたいな格好でビシッとキメてる児童の中、
「俺はジャージで卒業式に行くねん」とキメ顔で親指を立てていた。
当時、少年バレーボールチームに所属していて、バレーチームの名前のロゴが入ったジャージで卒業式に行くというのだ。自分が今まで頑張ってきたことを身に纏い、卒業式を迎えたいという。
親のわたしら夫婦も「それ、なかなかええやん!」と拍手で見送った。
しかし小心者のわたしは心の奥の奥のそのまた奥の方でほんのちょびっとだけ、ママ友に変な目で見られはしないかな、と思ったりもした。 (ほんとはチビビジネスマンみたいな服もあるにはあるんだよ、持っていないわけじゃないのよ、)とミットもない、グローブもない言い訳をママ友にする準備していた。わたしの心はガラスの心臓でできているんだ。打たれ弱く、器も小さな母である。
そんな二男のことだ、わたしら夫婦が知らん間に家を買っていた、なんてこともなんら不思議ではない。
人生って毎日、小さな選択を1日なんと6万回もしているという話しを聞いたことがある。
わたしはもっぱら夜中の睡眠時にトイレに行きたくなって、今すぐ行ってスッキリするか、限界まで踏ん張るかと、動きたくない年老いた身体と葛藤している。これも選択だろう。大概は踏ん張って変な夢を見る。
トイレにハエがうじゃうじゃ湧いていて、膨れ上がった膀胱の限界に耐えながら、でもハエにたかられながらの放尿は無理だ、と目が覚めて重い腰を上げて夜中に現実のトイレに歩いていく。
二男の猿と化した雲梯も4歳の頃に親の手を借りない選択をし、無事着地。今に至る。小学生で田んぼにねそべり青空を見ながら将来?を考え、小学校の卒業式は人の目など気にすることなく我が道を行き、ジャージで証書を受け取った。
あの時のあの選択の積み重ねが今の二男そのものだ。
ちょっぴりつけ加えるなら周りの親や家族や友人などの二男を見守るという選択も彼を作り上げていると思いたい。
二男が大学院を卒業後、めちゃでかい企業に就職し、好きな分野で仕事ができるのはあの時のあの時というか、毎日の選択の積み重ねだろう。
もしも失敗したら…と
思いがちな人生だが、けっしてひとりではない、周りのサポートや支えに甘えていいから、我が道を行ったらええんやないかと思う。
降り向けば必ず誰かいる。
今、家を買う決意をしたことも黙って応援してやろう。(いや、ホンマはちょっと心配な面はある)
でもまさか、戸籍上、知らん間に義娘ができていたなんてことが…
あるわきゃないよな?
いや、
怖い。
顔も知らん、話しをしたことも
会ったこともない義娘ちゃんがいるなんて
それだけは避けたい。
彼女に会わせろ、
会わせてくれ。
頼むから。
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